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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅵ、純情編

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48,島津豊久の末裔

 翌朝、目覚めても私の頬にはノーラ殿の唇の感触が残っていた。

 頬に手を当てて、思わずニヤけてしまう。


 食堂に行って朝食をとった。

 熱い紅茶を飲みながら、ふと考えた。


 ノーラ殿かぁ

 歳もそれほど離れていない。

 案外、似合いの…、いや、いや、いや、


 私は想像してみた。

 ノーラ殿は和服を着ている。

 

 ノーラ殿がお酌をしてくれる。


 「センセ、どーぞ。」


 私はそっと杯を差し出す。


 「嫌やわぁ、センセ、また仏頂面して。」


 「いや、すまん。学問のことばかり考えているとこんな顔になるんだ。」


 「センセはいっつも学問のことばっかりや。たまにはウチのことも考えておくれやす。」


 「すまん、すまん、」


 「さっきから何回、す(・)ま(・)ん(・)ていいはったんどすか。」


 ノーラ殿のちょっと怒った顔がカワイイ。


 想像の中のノーラ殿の関西弁は若干京都弁っぽくなっている。

 和服だからな。



 「おーい、先生。どうしたなりか?」


 「おっ、幸村君、そんなところにいたのか。」


 「さっきから呼んでいたのに、ニヤけた顔で心ここにあらず、だったなり。」


 「すまん、ちょっと異世界に行っていたようだ。」


 「何を言ってるなりか。ここが異世界なり。」



 そこにノーラ殿が飛び込んできた。

 満面の笑みに、すごく興奮している様子だ。


 「来よったで、来よったで、ご(・)っ(・)つ(・)エ(・)エ(・)男(・)が!」


 ごっつエエ男?

 私は「なかなかエエ男」だったな。

 「ごっつエエ男」と「なかなかエエ男」はどっちのほうが上なんだ?


 そんなことを考えている私を無視するように、ノーラ殿は幸村君に話しかけている。


 「ジュウザ・シーマ殿が2万の兵を率いてご到着や!」


 「サウスティカのシーマ伯爵の軍勢なりか!」


 「シーマ伯爵の甥っ子ジュウザ殿や! これがご(・)っ(・)つ(・)エ(・)エ(・)男(・)や!」


 ギョーム殿が言っていたサウスティカの魔族討伐軍のことだな。

 シーマの兵が王都に登るには、このウエスピアを通過しなくてはならない。

 そして、伯爵の甥ジュウザ・シーマ殿は、ここブルーベルに立ち寄ったということか。


 「シーマ軍団の行列が塔から見えるで。センセ、幸村はん、見に行こ!」


 私たちはブルーベル城の塔へ駆け上った。

 塔の最上階にはすでに三成君がいて、嬉しそうに窓の外を見ている。



 窓からは一糸乱れず行軍するシーマ兵たちの長い行列が見えた。


 行列を見た幸村君の顔が輝いた。

 幸村君の表情は歴女の「萌え」そのものである。


 それもそのはずだ。シーマの軍団はこの異世界のような西欧式の武装ではなく、日本の戦国武将の鎧兜を身につけていたのである。

 3メートルほどもある槍をかついだ槍隊を先頭に、弓隊、騎馬隊が続く。行列の中できらびやかな陣羽織を羽織っているのがジュウザ・シーマ殿か。

 

 「戦国武将なり!」


 「旗印は〇(まる)に十《じゅ》の字でござるよ。」


 「島津の兵なり!」


 歴女の血が騒ぐのだろう。

 幸村君と三成君は窓から身を乗り出している。


 やはりそうだったのか。これで証明された。

 初代王アマテラスに従って魔王軍と戦ったシーマとは島津豊久だったのだ。

 今まさに私たちの眼下を征くのは、島津の末裔なのだ。


 私も興奮を隠すことができない。

 本物の戦国武将とその軍団が目の前にいるのだ。


 「ジュウザ殿をお迎えにいくでー! みんな、ついて来て!」


 ノーラ殿が階段を駆け下り、私たちもそれに続いた。


 「こっからは貴族モードで行くで!」


 これがノーラ殿の面白さだ。

 シーマの軍団を迎えるにあたって、貴族の礼をとるということだろう。

 庶民モードと貴族モードを切り替えることができる。


 「馬をひけぇ!」


 ノーラ殿が兵たちに命じると、兵たちが4頭の馬を引き出してきた。

 私たちは馬上の人となり、ブルーベル城の城門を出、 速駆けに駆けてシーマ軍の行列の先頭にたどりついた。



 馬に乗った私たちを見て、シーマの槍隊が槍を構えた。


 さすが島津の兵だ。

 どんな時でも戦闘態勢を崩さない。


 ノーラ殿が両手を広げて口上を述べる。


 「待たれよー!

 我が名はノーラ・アリスターシャ・モーリス。公女である!

 ジュウザ・シーマ殿の軍勢とお見受けし、お出迎えに参った!」


 貴族モードでは関西弁は無しらしい。


 シーマ兵の行列が二つに割れて、その間を大きな馬に乗った男が進んでくる。

 背は高く、美男子である。

 黒髪をなびかせながら、男はさわやかな笑みを見せた。


 「ジュウザ殿か、大きゅうなったなぁ。ノーラや、憶えてるか?」


 「ノーラどん、小さか子どもんとき以来じゃなぁ。オイはノーラどんとの再会を楽しみにしておったでごわす。お美しゅうなられて驚きもしたぞ。」


 「もう25年も前のことや。あんたは5歳、ウチは10歳やった。泣き虫ジュウザが、ごっつエエ男になったもんや。」


 「ノーラどんにそげん言わるっと恥ずかしかばっかいじゃ。」


 「あんたはウチの弟みたいなもんや。なんも恥ずかしがらんでええ。」


 「それでは姉上、今宵は姉上のもてなしを受けもんそ。」


 「ついて来て。今夜は大宴会にしたる!」



 そうか、ごっつエエ男は弟みたいなものだったんだ。

 私は心の中でガッツ・ポーズをした。

 それにノーラ殿の正確な年齢が判明した。

 25年前に10歳だった少女は、間違いなく35歳になっているはずだ。

 私の6歳下か・・・

 似合いの…、いや、いや、いや、



 ***


 シーマの軍団がブルーベル城に入城し、城内は兵士たちであふれかえった。

 兵士たちには食事とビールが振舞われ、誰もが腹いっぱいに飯を食った。


 ジューザ殿はブルーベル城の中を見て歩いている。


 「懐かしか城でごわすなー。」


 25年前、ウェスピアとサウスティカの間で領地をめぐっての小競り合いが勃発した。

 争いは話し合いで解決し、そのかわり双方が人質を交換することになったのだ。

 その時、5歳のジュウザ殿が人質としてブルーベル城に送られた。

 ノーラ殿はジュウザ殿を気の毒に思い、何かと世話を焼いたという。



 ***


 ジュウザ殿とシーマの諸将はバンケット・ルームに招かれ、そこでは晩餐会が開かれた。

 青いドレスのノーラ殿が杯を高く掲げて乾杯の音頭をとると、シーマの諸将は一気に飲み干した。

 さすが豪快な島津の男たちである。



 私たちの席は上座に置かれた。

 王家の使者への敬意なのだが、ここはジュウザ殿の席から遠い。


 「ジュウザ殿に挨拶がしたいなり!」


 私は幸村君をたしなめた。


 「明日、あらためて挨拶したらどうだ。」


 三成君が反論する。


 「ジュウザ殿に一杯お注ぎしとうござる。」


 「ジュウザ殿はノーラ殿と歓談中だ、少しは遠慮しろ。」


 「島津豊久公は歴女の憧れでござる。この機会を逃すことはできませぬ。」


 「そのとおりなり。島津豊久公の末裔たるジュウザ殿にお酌するのは歴女の誉れなり!」


 おい、まてまてまて、


 幸村君と三成君は給仕の青年からワインのボトルをひったくると、いそいそとジュウザ殿の席に向かった。


 

 「ジュウザ殿、一杯お注ぎしたいなり。」


 「拙者の杯も受けていただきたいでござるよ。」


 幸村君も三成君もデレデレしてみっともない。

 二人の若侍にお酌されたジュウザ殿は、とまどいつつも豪快に飲み干した。


 「こん若侍は誰じゃしか?」


 ノーラ殿が笑って答える。


 「王家の使者殿や。お二人とも召喚者や、おっそろしい魔力の使い手や。」


 「もしや、真田幸村殿!」


 「おお!」と、言ってジュウザ殿は立ち上がった。


 「そん武勇はサウスティカまで聞こえてごわす!」


 ジュウザ殿は幸村君の手を取り、幸村君は恍惚の表情になった。

 歴女萌えである。


 「よか刀をお持ちじゃのう。」


 ジュウザ殿が言うと、幸村君は鞘ごと刀を抜いてジュウザ殿に手渡した。

 

 「抜いても良かか?」


 「名刀ムラサメなり。ジュウザ殿に抜いて見せて欲しいなり。」

 

 ジュウザ殿がムラサメを抜いた

 

 「美しか刀じゃ!」


 「ムラサメは拙者が錬成し申した。」


 今度は三成君がしゃしゃり出る。


 「そなたは、石田三成殿か! 金の属性の召喚者殿と聞いておりもす。」


 「いかにも拙者が石田三成でござるよ。王都では魔族を一撃のもとに斬り伏せる魔剣を用意してござる。ジュウザ殿にもシーマの諸将の方々にもお使いいただきたい。」


 「こいはありがたきことじゃ。みんな聞け! 三成殿の魔剣で魔族など蹴散らしもんそう!」


 ジュウザ殿の檄に、諸将が「おー!」と答える。


 戦国武将の魂に触れて、三成君は恍惚の人となる。

 まずい、このまま歴女萌えを放置するのはまずい。

 私は幸村君と三成君を連れ戻そうと席を立った。



 「二人とも、そろそろ席へ戻ってはどうかね。」


 「センセ、えーやん。せっかく盛り上がっとるんやし。」


 ジュウザ殿が「センセ」と呼ばれた私に顔を向けた。


 「もしや、王家の軍師殿か?」


 「軍師? そんな大した者じゃない。ただの歴史学者だ。」


 「いやいや、王家の軍師殿は森羅万象を司《つかさど》る鬼神のようなお方と聞いておりもすぞ!」


 「なんだか話が大きくなっているみたいだが、森羅万象では無いのは確かだ。」


 「いや、先生からは大いなる気迫を感じもす。ただの学者先生じゃありませんな。このジュウザの目はごまかせませんでごわす。」


 ノーラ殿が笑っている。


 「さすがジュウザや。このセンセはただもんやあらへん。なにしろ、ウチが好いたお方や!」


 「なんと! こんジュウザ、しくじり申した。姉上の想い人でござったか! ならば、兄上とお呼びしてんようごわすな?」 


 「あ、ああ…」


 私の頭の中では、ノーラ殿の「好いたお方」と言う言葉と、「兄上」と言う言葉がぐるぐると旋回していた。


 「ならば兄上、今宵は飲み明しもんそう! わはははははは!」


 ジュウザ・シーマ、豪快で爽やかな「ごっつエエ男」である。

 彼に「兄上」と呼ばれることが、今はただ嬉しい。

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