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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅵ、純情編

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43,海の都ブルーベル

 ヤマト発進!

 私たちを乗せた戦艦ヤマトは、進路を西に向けた。

 目的地はウエスピアの州都ブルーベルである。


 ウエスピアは南北二つの地域で異なった地形をしている。

 北は山脈から緩やかに傾斜して海に至る広大な平野である。

 南は島々が無数にひしめく海であり、たくさんの船が往来している。

 ヤマトは、島々の隙間を縫うようにして航行した。


 「よーそろー!」


 私は甲板で風を操る。

 右へ左へ舵を切りながら、ヤマトは波を切って進んだ。

 穏やかな海が陽光に輝いている。


 幸村君とエルキス殿も甲板で潮風を楽しんでいる。

 私にはブルーベルに到着する前にエルキス殿に訊いておきたいことがあった。



 「エルキス殿、今回、ウエスピアが出兵を拒んだのには何か訳があるのだろうか?」


 「はっきりとは言えんが、ウエスピアには噂というか、伝説があってのう。」


 「伝説?」


 「そうじゃ、魔族の落人《おちうど》伝説じゃ。」


 「落人《おちうど》、ですか?」


 「400年前、魔王が討伐され、魔王城が落ちたとき、魔族どもは西へと逃れ、この海の島々のどこかに住み着いたという伝説じゃ。彼らは魔族であることを辞め、普通の人間に戻って、そのまま世代を重ねているという。」


 「ウエスピアには魔族の末裔が潜伏している可能性があるということだな。」


 「その末裔どもが、再び魔族化することをウエスピアのモーリス公爵家は恐れている、という噂を聞いたことがあるな。」


 「なるほど、伝説とはいうものの、ありそうな話だ。」


 ウエスピアの南に浮かぶ島々は全部で1000島以上にも及ぶという。

 この中に魔族の落人《おちうど》の集落があったとしてもおかしくはない。



 ヤマトはアーカス海峡を抜ける。

 この海峡は潮の流れが複雑なのだが、私は風の力で強引に乗り切った。

 ここからは、ウエスピアの海であり、モーリス公爵家が制海権を握る海域である。


 しばらく海を行くと、前方に十数隻の船団が現れた。船団はヤマトとすれ違いざまに左右に展開して、ヤマトを包囲する陣形をとった。


 「海賊か!」


 「違うのう、ほれ、正面の船の舳先《へさき》に女が立っておろう。あの顔にはモーリスの面影があるな。おそらく、モーリスの血族じゃろうで。」


 「公爵家のお出迎えか?」


 「モーリスは元は海賊じゃ。出迎えも手荒いと聞いておるぞ。」


 「なるほど、やっぱり海賊か。」


 モーリスの船団はしだいに包囲を縮め、船の甲板では白兵戦の準備をしている。ヤマトに乗り移り、王家の戦艦を拿捕《だほ》するつもりなのだ。


 「何のために王家の戦艦を拿捕するなりか?」


 「おそらく、海の戦力は王家よりもモーリス公爵が上だとマウントを取りたいんだろうな。それに、王家の力を値踏みしている。」


 「値踏みなりか?」


 「このまま易々(やすやす)と拿捕でもされたら王家の恥さらしになるということだ。そんな王家とまともに交渉する価値があると思うか?」


 「王家の実力を試して交渉のカードにするなりね。」


 「そういうことだ。王家の実力を試してるんだよ。」


 「モーリスには、なかなかの策士がいるなりね。」


 「どうだ、炎の剣でモーリスの船団を焼き払うか?」


 「面白うそうなりね。でも、ここは平和的に行くなり。目的は食料の補給をお願いすることなり。ならば、相手の肝度《どぎも》を抜いてやるのが肝要《かんよう》なり」


 「じゃ、私(・)の(・)風(・)で敵の度肝を抜いてやろう。」


 「何をやるなりか?」


 「まあ見てろ… 船が揺れるから、みんな体を固定しろ!」


 水夫たちはロープで自分の体を船に括りつけた。

 幸村君やエルキス殿も水夫不たちに習った。



 << 人間五十年! 下天の内を比ぶれば! >>


 私が詠唱すると、ヤマトの船底の海が風に押さえられて歪んだ。


 << 夢幻の如くなり! >>


 「風よ、舞い上がれ!」


 私が風の力を解き放つと、海を押さえつけていた風が反転して上昇気流となった。

 上昇気流はヤマトの帆を突き抜けんばかりに膨らませ、船をを水面から引きはがしたのだった


 「ヤマトが飛んだなり!」


 「わーはっはっはっは! これが飛行戦艦ヤマトだーっ!」


 私の脳内では、再びあの勇壮なメロディーが響いていた。


 ヤマトはモーリス水軍の船を飛び越えた。

 舳先《へさき》にいた女がヤマトを見上げている。

 ヤマトが水面に着水するまでのわずかな瞬間、呆然とした女の顔は満面の笑顔に変わっていた。


 私は女に目で問うた。


 「どうだ」と、


 女の瞳が、「面白い!」と笑っている。





 ----ザザーン!!!


 「ヤマト、着水!」


 船体がバラバラになるほどの衝撃だった。



 「みんな無事か?」


 「大丈夫なり!」


 「寿命が縮んだのう。」


 乗組員の無事を確かめると、私は船尾へ向かった。

 ヤマトが飛び越えたモーリス船の船尾には、荒くれ者の海賊を従えた女が立っていた。

 

 ブロンドの髪に碧い瞳、鎧からのぞく肌は陽に焼けて褐色である。

 身に着けた鎧は、三成君がツキヨミ殿にデザインしたものよりも露出度が高い。

 海賊の鎧だから露出が多くて当然なのかも知れないが、若干目のやり場に困る。

 歳は三十路を少し過ぎたといったところか。

 精悍な顔つきだが、妙に気品がある。

 船団を率いるほどの者だ、それなりに地位のある者なのだろう。



 先に口を開いたのは女のほうだった。


 「ウェスピアへ、ようお越し! あんたが王家の軍師はんかいな。そっちは英雄・真田幸村はんやな。しょっぱなからオモロイもん見せてもろうたわ。」


 「あなたは?」


 「ウチはノーラ・モーリス。公爵ウラノス・モーリスの長女や。王家との協議は全てウチに任されとるさかい、よろしゅう頼みまっさ。」


 「ノーラ殿、お出迎え痛み入る。こちらこそ、よろしくお願いする。」


 「エライもん見せつけといて、痛み入るもへったくれもあるかいな。」


 「これは申し訳ない。だが、先に攻撃の気配を見せたのはそっちだぞ。」


 「あはは! 海賊はなぁ、しょっぱなに出会ったものは敵と見なすんや。せやないと、海の上では生き残れへん。」


 「なるほど、『船乗りは板子一枚下は地獄』というからな。だから私は空を飛んだ。」


 「空を飛んだら、船の板子一枚下には船があったって。ほんまにオモロイ男やなぁ、軍師殿は。」


 「その軍師殿と言うのも止めてくれ。お(・)へ(・)そ(・)のあたりがこそばゆくなる。」


 「ほんなら、何とお呼びしたらええんや?」


 「先生でいい。」


 「ただの先生でええんか?」


 「みんなそう呼んでいる。」


 「ほな、センセー! いくでー!」


 ノーラ殿は軽くジャンプしてこちらの船に乗り移ってきた。

 身のこなしも見事なものだ。


 船から船へ飛び移るその軽やかな跳躍は、まさに国境を超えるが如く大胆なものだった。

 ノーラ殿はつま先からヤマトの甲板に着地した。



 「握手や!」


 ノーラ殿は握手を求め、私はしっかりとその手を握り返した。


 この握手には、部下の海賊たちも一様に驚いている。

 ノーラ殿がヤマトに乗ったということは、彼女自身が一時的にせよ王家の人質になったことを意味するのだ。

 それは友好と信頼の証であるとともに、その見返りとしての義務を無言のまま私たちに課すことになる。

 彼女はこうした微妙な駆け引きの達人らしい。


 ノーラ殿が振り向き、海賊たちに指示した。


 「野郎ども―! センセーの船をブルーベルまで丁重にご案内したってやぁ!」


 ---おおーっ!



 海賊、そうモーリスの一族はウエスピアの海を拠点とした海賊なのである。

 魔王討伐の折には水軍の力で初代王アマテラスを支え、その功によりウエスピア公爵に封じられた。

 今では海運と商業の発達で巨万の富を稼ぎ、洗練した文化を持つに至っているが、モーリス水軍の本質は変わっていない。

 

 モーリスの船団は陣形を組みなおし、ヤマトを守るように隊列を整えた。

 さすがは海賊、見事な操船である。


 「どうや! これがモーリス自慢の水軍や! 空は飛べへんけどな。」


 「すごいなりね! 16世紀の南蛮船みたいな船なり!」


 幸村君は海上を滑るように航行する帆船の優雅さに見とれてる。



 「ところでノーラ殿、こたびは公女様自らのお出迎え、痛み入ります。」


 「センセー、あんたさっきから痛みってばっかりや。船を飛ばしといて、痛み入るもへったくれもおまへん。」


 「申し訳ない、公女様。」


 ノーラ殿の関西弁にまくし立てられた私は、もう謝るしかないと思った。


 「センセー、公女なんて呼ばんといてや。ウチはモーリスの長女やけど側室の娘や。ウチみたいなもんが公女とか名乗ったら、いろいろ疑われたりするんや。せやから、公女って言葉は禁止や。」


 「あっああっー、分かった、了解した、承知した。」


 「ごめんや、ポンポン言うて。ウチのしゃべり方はな、ウエスピアの庶民の言葉なんや。ウチの母親はいっつもこんな感じでポンポン、ポンポンもの言うてた。ウチの母親は庶民の生まれなんや。」


 なんとなく、ノーラ殿のことが理解できて来たような気がした。

 長女だけど側室の子、庶民の子。

 庶民の言葉を使い、権力には興味を示さない。

 時に政治家のようにふるまい、官僚の論理的な頭脳を持ち、水軍の指揮官でもある。

 そして、無類のおしゃべり。


 「庶民いうてもな、ウエスピアの庶民は豊かやで。海運に商売、広大な平野は農業地帯や、貧乏人なんておらへん。貴族かってな、あんまりエラソーにしてないんや。元は海賊やって、みんな知っとるから、エラソーにしてもお里が知れとるんや。ウエスピアは貴族から庶民まで、格差が少ないんや。ウエスピアはえーとこやで!」


 今度はお国自慢か。

 モーリスの船団に守らたヤマトがブルーベルに到着するまでの間、ノーラ殿は他愛のない話題をしゃべり続けた。

 私はときどき質問をしながら彼女の話を聞いた。

 話を聞きながら、彼女がいくつかの話題を巧妙に避けていることに気づいた。

 私はその話題をあえて持ち出すことによって、彼女をけん制してみることにした。


 「そいうえば、公爵家の世継ぎはノーラ殿の弟君《おとうとぎみ》でしたな。」


 ノーラ殿の目が一瞬、こわばった。


 「ポセイドゥスは確かに弟やけど、正室の子や。ウチとは違う。モーリスの正当な後継者や。弟はな、あと3か月で15歳になる。モーリスの男は15歳で成人や。ウチはポセイドゥスが立派な公爵になるって信じとるんや。」


 ノーラ殿は目を細めている。

 弟君《おとうとぎみ》がかわいくてしょうがないのだろう。


 私は、今回の公爵家との交渉が、公爵家の継承問題と何らかの関りがあると感じた。

 ノーラ殿はおしゃべりの中にたくさんのヒントを散りばめていたに違いない。

 交渉とは情報の読み取り合いだと、彼女は言っている。



 夕刻、船団はブルーベルの港に入港した。

 ウエスピアの州都ブルーベル、「海の都」と呼ばれる海港都市である。


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