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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅴ、共振編

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40,さらばノーザン・テリトリー

 マドンナとの交渉の結果、私たちはノックス城を放棄することとなった。

 その引き換えに、マドンナはノーザン・テリトリーの魔物には手を付けないと約束した。

 だが、約束は反故《ほご》にされる可能性がある。

 私たちはノックス城を二度と使用できないように徹底的に破壊しなければならない。


 「先生、ノックス城からの撤退が完了したべ!」


 マリータ殿の報告である。

 撤兵を終えたノックス城に残っていたのは私とマリータ殿だけである。

 

 「では、私たちも城を出て、下山しよう。」


  

 ノックス山の麓には、ドワーフの精鋭たる義勇軍が整列していた。

 グルジ殿が率いる兵は既にモーガル川を渡ってノーザン・テリトリーへ引き上げていた。

 ノックス城の破壊後、敵の追撃を受ける可能性がある。

 敵に後ろを見せる撤退には常に危険がつきまとうのだ。



 私が下山すると、幸村君がエルキス殿と打ち合わせをしている。

 魔力を共振させるためのレクチャーを受けているのだ。


 「先生、ちょうど良いところに来られましたのう。」


 「エルキス殿、幸村君はいけそうか?」


 「先生も、いけそうですかな?」


 「私は魔力を共振させるだけでいいのではないのかね?」


 「いやいや、先生にも手伝っていただかねば…」


 「そうか、では、どうすればいい?」


 幸村君が手のひらをかざしながら近づいて来る。


 「背中を借りるなり。」


 「また、サインでもするのか?」


 「違うなり。先生の魔力をもらうなりよ。」



 エルキス殿が私の背中をポンと叩いた。


 「先生、ちょっとしゃがんでくれんかのう。」


 「こうか?」


 私は膝を折って地面にしゃがんだ。


 「幸村殿、先生の背中に手を置きなされ。」


 幸村君は私の背中に左手を置いた。


 「何をするんだ?」


 「先生、こうしているとじゃな、魔力が共振しておるのを感じぬか?」


 「おお、確かに幸村君の魔力を感じる。」


 「あたしもビンビン感じてるなりよ。先生の魔力をもらうなり!」


 「どうじゃな、先生、幸村殿。魔力が先生から幸村殿に流れていくのが分かるじゃろう。これはエルフの魔導士のみが使える高等技術じゃが、召喚者の魔力を持ってすれば容易《たや》いことじゃろうて。」


 「エルキス殿、感じるよ、魔力の流れを…。次はどうするのだ?」


 「そのまま魔力の共振状態を高めていくのじゃ。」


 「来たなり、来たなり! 魔力が膨れ上がっていくなり!」


 私が振り返ると、幸村君の体が発光している。

 幸村君が右手を上げると、手のひらに魔力が集中して輝き始めた。


 <<臨《りん》! 兵《ぴょう》! 闘《とう》! 者《しゃ》! 皆《かい》! 陣《じん》! 列《れつ》! 在《ざい》! 前《ぜん》!>>


 -----ぎゅん!


 鈍い音がしただけだった。


 -----ドォーン!!


 ノックス城がその山頂ごと消し飛んだのだ。

 破壊された岩山の破片が飛散し、岩石がガラガラと崩れ落ちた。


 「先生、もう一発撃つなり!」


 -----ぎゅん!


 -----ドォーン!!


 二発目の火炎弾《ファイヤーボール》、いや、速すぎるせいか火球が飛んでいるのさえ確認できない。


 二発目は山の中腹を吹き飛ばした。


 「もう一発なり!」


 -----ぎゅん!


 -----ドォーン!!


 凄まじい爆発だった。ノックス山は土煙に包まれた。


 私は立ち上がって土煙がゆっくりと消えていくのを眺めた。土煙の中から姿を現したのはがれきの山である。

 かつてノックス山と呼ばれた岩山は、そこにはなかった。地形そのものが変わってしまったのだ。


 

 ノックス山は上半分を吹っ飛ばされた。

 もはや暗黒魔法を発信する電波塔の役割は担えない。

 あの高さがなければ、ノックス城の再建は無理なのだ。


 真田幸村の破壊力にマドンナも戦慄しているだろう。

 マドンナと魔物の軍団は、踵を返して地平線の向こうへと帰っていった。



 *** 

 

 ノックス山の崩壊を見届けた私たちは、ドワーフの兵たちと共に神殿都市ゴーレアへ戻った。

 ゴーレアの民衆たちは、凱旋するドワーフの義勇兵たちの雄姿を歓呼の声で迎え、マリータ殿とヴァン殿を英雄と称えた。


 ゴーレアではドワーフ12支族の族長が顔をそろえ、族長会議が開かれた。

 会議において、ドワーフが魔族に対して王家と共同戦線を張ることが承認された。

 王家と魔族が戦闘状態に入った場合、ドワーフは背後から魔族を攻撃するのである。

 ドワーフ軍の総司令官には満場一致をもってヴァン殿が選ばれた。

 ノックスの英雄は謹んで拝命した。


 もう一人の英雄マリータ殿はヴァン殿に替わって傭兵隊長となり王都に登ることとなった。

 ヴァン殿は傭兵隊長の剣をマリータ殿に渡した。

 マリータ殿はうやうやしく両腕で剣を受け取り、傭兵隊長交代の儀式が行われたのである。

 


 私のノーザン・テリトリーでの仕事は終わった。

 グランローゼ城へ帰るのだ。


 宿ではささやかながら私たちの送別会が開かれた。

 短い間であったが、別れはつらいものである。



 私は軽く別れのスピーチをした。


 「みなさん、私はノーザン・テリトリーで多くのことを学んだ。ドワーフの文化、獣人のこと、そして何より、ここで生きるすべての人たちの勇気と希望だ。ありがとう、ノーザン・テリトリー!」


 皆が拍手し、乾杯した。


 酔ってしまうまえに、皆に挨拶してまわろう。


 「ヴァン殿、いや司令官殿とお呼びしようか?」


 「堅苦しい呼び名はご免ですぜ。先生とはここでお別れですが、魔族を討伐してイースタリアで合流といきやしょう。」


 「魔族の挟撃だ。それからマリータ殿は借りていく。新しい傭兵隊長としてな。」


 「マリータ殿もノースタリアを出るのは初めてだ。広い世界を見る絶好の機会でさぁ。 マリータ殿! 先生がお呼びだぜ。」


 マリータ殿がヴァン殿の隣に座った。


 「マリータ殿は私たちと同道するのだな。よろしく頼む。」


 「我《われ》も広い世界が見でみだぐなった。先生にはいろいろ教えでいだだぎてえ。」


 「学ぶことはたくさんある。王都は広い…」


 私が言うと、幸村君がしゃしゃり出てきた。


 「そして頭の中はもっと広いなり!」


 幸村君とマリータ殿はハイタッチをした。

 この二人はウマが合うようだ。




 「ファビア君、君の文才は大したものだね。いつか私が学校を作ったら王都へ来るかい?」


 「はい、ボクは先生から多くのことを学びたいのです。」


 「私も学びつつある者だ。私から学ぶのではない。共に学ぶのだ。」


 「はい! 共に学びます。」


 いい返事だ。




 そして、私には言葉を贈らねばならないもう一人の少年がいた。

 ユリス君である。

 ユリス君は父君であるタリス殿の遺影を抱いて送別会に参加していた。

 遺影はユリス君が描いた肖像画である。


 「ユリス君、父君のことは何と言っていいか…」


 「父は戦士として立派に戦い、異世界に転生したのです。これほどの名誉はありません。」


 「それがウォルフ族の戦士としての文化なのだな。だが、ユリス君、君にひとつだけ言葉を贈ろう。」


 「言葉ですか?」


 「そうだ。」


 「この僕に、何を?」


 「死ぬな、だ。」

 

 ユリス君は父君の遺影に目を落とした。そして再び顔を上げて私に言った。


 「その言葉、忘れません!」


 私には肖像画の中のタリス殿が笑っているように見えた。


 これからも戦いは続く。多くの人が死にゆく運命にある。

 だから生きてくれ。

 私はその思いを込めてユリス君に言葉を贈ったのだ。


 

 夜も更けて、送別会も終わりに近づいたころ、幸村君がやってきた。

 私たちは軽く乾杯をかわし、カウンターに腰かけた。


 「今夜でみんなともお別れなりね。」


 「明日の朝、港に向かい船に乗るんだ。」


 「ヤマトなりね。」


 「男の船だ。」


 「男ばかりの船はつまらないなりよ。」


 「まったくだ…」


 「魔族を倒してスローライフなりね。」


 「まったくだ…」


 「ヒミカ様に早く会いたいなりか?」


 「まったくだ…」


 私は酔いぶれて、そのまま眠ってしまった。

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