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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅳ、北辺編

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32,女族長マリータ・マリウス

 「マリータ殿、この場に証言者を呼ぶことを許されたい。」

 

 「証言者だど?」


 「400年前、魔族と戦った経験のある証言者だ。」


 「400年前の生き残り、エルフが?」


 「そうだ、エルフの魔導士だ。」


 「魔導士殿!」


 マリータ殿の声には尊敬の念が込められていた。

 エルフの魔導士ともなれば、ドワーフにも一目置かれるというわけだな。



 扉が開いて、エルキス殿が入ってきた。

 禿げ頭を撫でながら、申し訳なさそうにひょこひょこ歩く。

 せっかく尊敬されるエルフの魔導士なのだから、もう少し堂々としていて欲しいものだが、これがエルキス殿の良さでもある。



 「わしのような年寄りの話を、このような立派な会議で話すのは気が引けるのう。」


 「エルキス殿の経験は貴重なものだ。ドワーフの族長たちに聞かせてやってくれ。」



 「では、初代王がどうやって魔物を退治したかじゃ。」


 エルキス殿はしばらく間をおいてから静かに言った。


 「ダンジョンを焼き討ちにして、魔物たちを皆殺しにしたのじゃよ。」


 エルキス殿は初代王アマテラスがダンジョンを焼き討ちし、魔物を根絶やしにしたことを語った。

 そして、その様子がいかに惨《むご》かったかを族長たちに話して聞かせた。


 ドワーフの文化は魔物との共存を重んじている。

 族長たちは戦慄した。


 「地下のダンジョンで何事もなぐ暮らすてら魔物だぢ焼ぎ殺すとしゃべらぃだが!」

  

 長老格のガルード殿が声をあげた。


 「そのうようなごど神々がお許しになんねぇ。」


 鋭い目をしたグルジ殿の声が震えている。


 「初代王アマテラスはそんな非道なことをしたのですか?」


 若きジュード殿もショックを隠せないようだ。



 「初代王は召喚者だった。」


 私がそう言うと、族長たちが一斉に顔を向けた。


 「初代王は召喚者だった。400年前の私たちと同じ世界から来た戦国武将だ。織田信長という。彼は戦国の乱世を統一した。そのために古き物をすべて焼き払った。英雄とはそういうものだ。残酷で、非道で、何もかも焼き尽くす。そして、が(・)れ(・)き(・)の上に新しい時代を打ち立てる。」


 グルジ殿も、ガルード殿も、ジュード殿も沈黙した。

 だが、マリータ殿だけは愉快そうに笑っている。


 「はっはっは! たいした男だべ。 天下統一の大義のためには手段を選ばぬが。」


 「そうだ、魔族の兵力の供給源であるダンジョンを焼けば、敵の兵力を削ぐことができる。マリータ殿にはできるかな?」


 私は少し意地悪い質問をしたかもしれない。

 マリータ殿の目に影が宿った。

 だが、勝気な性格が彼女をしてこう言わしめた。


 「神々さ背ごうが、我《われ》はダンジョン焼ぎ討ぢにでぎるべ。だが、魔物どの共生を説いでぎだドワーフの文化は滅びる。それは、ドワーフの死を意味するべ。」


 私はマリータ殿の言葉に大きく頷いた。

 マリータ殿の言う「ドワーフの死」とは生物としての死を言っているのではない。

 ドワーフの文化が滅びたとき、概念としてのドワーフは死ぬということだ。

 マリータ殿の高度に形而上化された思考がそこにはある。

 

 すべてを滅ぼし、自ら滅びてさえも、歴史の歯車を進める。

 それが幸福と安寧を約束してくれるのか誰にもわからない。

 それでも歴史はその歩みを止めない。


 「魔物ど共にドワーフも滅ぶ。それしかねえべ。ダンジョン焼ぐしかねえ。」


 マリータ殿は自分自身に言い聞かせるように言った。


 

 さて、私にはもう一つの作戦がある。

 なんだか湿っぽい雰囲気になったので言い出しにくくなったが、ここは元気出していこう!


 「ほかに方法が無いわけではない。」


 「別の手があんのが?」


 マリータ殿が目を見開いた。


 「ある!」と、私は言った。


 「聞かせるべ!」


 「あわてるな。背景を理解しておく必要がある。まず、魔物とは何かだ。」


 「魔物とは何か、だど?」


 「私は定義してみた。魔物とは魔族に使役できる生命体のことだ。ゴブリンたちのような魔物と強力な魔獣に分類される。」


 「そだこどは分がってる。その先さ話せ!」


 「エルキス殿、先を話して欲しいらしいぞ。」


 「わしか? ならば話して進ぜよう。魔獣は強力じゃが魔導士の魔法で倒せる。召喚者の魔法ならば複数の魔獣も敵では無い。いちばんやっかいなのがゴブリンじゃ。奴らは数が多い。何万、何十万の兵力になりよる。ゴブリンを雑魚だと思ってはならぬ。初代王もゴブリンには手を焼いた。だからダンジョンを焼いたのじゃ。」


 エルキス殿は語り続けた。


 「ゴブリンがやっかいなのは数だけではない。奴らは命令系統を持っておる。ワイズ・ゴブリンは高い知能を持っておる。ワイズ・ゴブリンが小隊を指揮し、その上のキング・ゴブリンが大隊を動かしよる。いちど命令を受けたゴブリンは死を恐れるということがない。殺しても殺しても次々に襲い掛かってくる。」


 マリータ殿はエルキス殿に質問した。


 「魔導士殿、ゴブリンたちの数はどれくらいだべか?」


 「初代王が戦った魔族の兵力はゴブリン20万の大軍じゃった。初代王は異世界から召喚した500の荒くれどもと共に魔族を討伐した。」


 「20万 対 500の戦いだったべか。」


 「500といっても召喚者じゃ。20万の魔物に対して互角の戦いをしよった。だが、あくまで互角じゃ。敵が30万ならおそらく勝利はなかったじゃろう。」


 「20万だど! 初代王は敵の兵力が増えることを恐れてダンジョンを焼いたのが。」

 

 マリータ殿は何十万という魔物の数に戦慄したようだ。

 そんなマリータ殿に私は言った。


 「そうだ、マリータ殿。背景を理解するには魔物の兵力というリアリティーが必用なんだ。この続きは幸村君から聞いてくれ。」


 幸村君がほ(・)い(・)ほ(・)い(・)と前に出た。


 「エルキス殿の話から計算してみたなり。セントラル、ノーザン・テリトリー、イースタリア、ウエスピア、サウスティカ、5つの地方のダンジョンにはそれぞれ40万の魔物が生息していたなり。」


 「幸村殿。つまり、アマテラーザ全体の魔物は200万いだのが?」


 「セントルから西のダンジョンの多くは初代王によって壊滅させられたなりよ。残っているのダンジョンは小規模なものばかりなり。」


 「問題はイースタリアどノーザン・テリトリーづーわげが。」


 「マリータ殿、そのとうりなり。イースタリアの西半分のダンジョンは初代王に攻撃されたなり。でも東半分は残ってるなり。ここから概算して、イースタリアの魔物は20万とみるなり。」


 「だら、ノーザン・テリトリーにはまだ40万もの魔物がいんのが?」


 「そういうことなり。敵はイースタリアの魔物20万で王家を攻めるのが不安なり。」


 「ノーザン・テリトリーの魔物を加えれば魔族の兵力は60万にものぼんのが。そんだがら敵はノーザン・テリトリーの魔物が是が非でも欲しいわげだ?」


 「ご明察なり。」


 「だら、やっぱしダンジョンを焼がねばなんねぇ。」



 ここからは私が話そう。


 「さてだ、魔族がノーザン・テリトリーの魔物を手に入れたいなら、ノーザン・テリトリーを攻めればいい。だがそうしないのは何故だと思う? マリータ殿。」


 「魔族は王家滅ぼしてセントラルを手中にしてえ。先にノーザン・テリトリーを攻略すれば魔族もただでは済まねえ。ドワーフど戦えば兵力が消耗する。それは避げでえ?」


 「そうだ、そこで魔物のみをイースタリアへ呼び寄せることにしたんだ。」


 「暗黒魔法を発動させで魔物呼び出してんのが?」


 「おそらくはな。私たちが遭遇した土蜘蛛や大イノシシはその先兵にすぎない。やがてゴブリンたちが隊列をなしてイースタリアへ向かうことになる。」


 「だら、どうするべか?」


 「元凶を断つんだよ。」


 「元凶を断づ?」


 「ノックス城だよ。魔族たちはノックス城から暗黒魔法を発信している。」


 「ノックス城をどうするべ?」


 ふふふ、と私は笑った。

 

 幸村君がニヤリと笑い、言った。


 「ノックス城を落とすなりよ!」


 幸村君がマリータ殿ににじり寄っていく。

 

 「まさが、討って出んのが?」


 「生きんと欲すれば死に、死なんと欲すれば生きるなり!」


 幸村君とマリータ殿が視線を合わすと、スパークするような火花が散っているように見えた。


 「おもしれぇ! 我《われ》は死ぬぞ、そして生ぎるぞ!」


 マリータ殿には歴史が動き出すのが見えたようだ。

 だが、他の族長たち三人は凍り付いたように席を動かない。

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