31,ドワーフの族長たち
ドワーフは12の支族を持ち、その合議で政治的な決定がなされる。
私は12人の族長たちが会議に参加するものと思っていたが、違った。
3つの支族を大族長が束ねる。
今回のような緊急性の高い会議の場合は大族長の会議となる。
幸村君がドワーフの大族長たちを見まわしながら私の耳元でささやいた。
「なるほどなりね、緊急に物事を決める場合は会議の出席者は少数のほうが効率的なり。」
「幸村君、ドワーフの合議制はそれなりに洗練されているようだな。」
ゴーレア神殿に4人の大族長たちが顔をそろえた。
会議は神々の前で、円卓を囲んで行われる。
「ヴァン殿、族長たちの情報が欲しいんだが、教えてくれないか?」
「わかりやした、先生。真ん中にいるのがバーリア族のグルジ・ドーラル殿でさぁ。族長たちの中でも最長老ですぜ。」
「グルジ殿が、この度の会議の進行役を務めるようだな。」
「左側がグリード族のガルード・ワーデン殿ですぜ。」
「中年の働き盛りの族長だな。鋭い目をしている。」
「右に立ってるのが、ジャガル族のジュード・アビス殿でさぁ。」
「聡明そうな若者のようだ。」
「そして、族長たちの後ろに立ってる大女。あれがヤーマン族のマリータ・マリウス殿ですぜ。」
「美人だが男よりもでかいな。」
マリータ殿は私にチラリと目線を送ってきた。
私は軽く会釈をした。
まずは大族長たちが円卓に着座し、オブザーバーであるフォクス族のファビア君にも席が与えられた。
「王家の使者殿、こぢらへ。」
最長老のグルジ殿が私に着席を促し、私も円卓会議の一員となった。
幸村君とヴァン殿は私の後ろに座った。
「王家の使者殿、こだびの魔族復活のごど、まずは聞がへでいだだぎてぇ。」
グルジ殿の要請に応じて、私は話し始めた。
「マドンナと名のる召喚者が、暗黒魔法を習得したアーレス・トクーガを解放した。 魔族は魔物たちを兵力として、王家を攻略しようとしている。そして、魔物たちの供給源はイースタリアだけではなくノーザン・テリトリーのダンジョンにも及ぼうとしている。」
続いて、幸村君が魔物との戦闘の経緯を語った。
「魔物との遭遇は、デレス山でゴブリンの大軍に襲われたのが最初なり。魔物を操っていたのはマドンナなりよ。マドンナはワイバーンやリバイアサンなどの魔獣も従えていたなり。」
幸村君は戦闘の様子を見ぶり手ぶりをして話す。
その臨場感は族長たちに魔物や魔獣の脅威を訴えた。
そして大イノシシを倒したときの一部始終をお芝居のように再現したのであった。
「あたしは炎の剣を振り上げたなり! そして一刀両断なり!」
族長たちの脳裏には真二つに裂かれて大地に崩れ落ちる大イノシシの姿が浮かんでいたに違いない。
「あれが召喚者か…」
「真田幸村殿だ。」
族長たちが小声で囁き合った。
最長老のグルジ殿は私たちの話を聞き終わると、唸るような声で言った。
「魔族の復活。それは一大事じゃ。再び魔族支配の時代どなれば、このドワーフの国の平和も脅がさぃる。」
若きジュード殿が発言した。
「おそらく魔族はセントラル攻略し、これを併呑したのち、ノーザン・テリトリーへも攻めて来ましょうな。」
ジュード殿の言葉にはノーザン・テリトリー特有のなまりがなく、王都グランローゼで話されている言葉に近い。
ジュード殿はドワーフの中でも、王家に対して親近感があるということだろうか。
続いて鋭い目をしたガルード殿だ。
「王家とドワーフが組めば、魔族を挟み撃ぢにでぎるでいうわげだすな。王家の使者殿。」
「そうです。」 と、私は答え、続けた。
「我々は協力して魔族に対抗しなければならない。」
「しかし、我らドワーフは王家のためさ戦うのは面白ぐねぇ。」
グルジ殿が生臭い目をして私を見た。
「王家と共に戦うのは面白くないと?」
「そうじゃ。我らは王家の家臣ではねぇ。」
「ドワーフの国」という言葉を聞いた時から私は何か引っかかるものがあった。この際だ、ドワーフの本音を聞いておこう。
「では、わたしが説明しましょう。」
ジュード殿だ。
「我らドワーフは400年前の魔族との戦いに際して援軍を送りました。初代王アマテラスはその見返りとしてノーザン・テリトリーの地を我らに与えたはずです。我らは魔王を倒しこの国を平和に導いた初代王に感謝し、定期的に貢物をしておりました。ところが3代王ラウスは王城警護のため、ドワーフに兵を送るように命じてきたのです。我らはアマテラーザの平和のため、王家の要請に応じました。ドワーフは平和を志向します。王家との争いは無益だと考えたのです。」
そういうことか。
ヴァン殿が傭兵隊長として王都に常駐していたのには、そういった歴史的背景があったわけだな。
ドワーフとしてはノーザン・テリトリーは独立国だと思っていたのに、王家は臣下と考えるようになったわけか。
これも時代の流れだ。王家の力が大きくなり、セントラルの国力がノーザン・テリトリーの倍以上になったのだから、そう考えても不思議ではない。
「そして8代王ミュルスはドワーフの族長たちに人質を送ることも要求してきました。これは我らにとって屈辱です。」
「それで、ドワーフは人質を出したのかね?」
「いえ、8代王ミュルスはアマテラス王家継承戦争を引き起こし、人質どころではなくなったのです。」
「継承戦争でうやむやになったのだな。」
「ご明察です。王家の使者殿。」
「その王家の使者殿というのは、止めていただきたい。おへそのあたりがこそばゆくなる。」
「では、何とお呼びすれば。」
「みんな、先生と呼んでるなり!」
幸村君の元気な声だ。
「では、先生。先生のご意見を伺いたい。」
ご意見か…
ドワーフの国の歴史がおぼろげながら理解できた。
ならば、我らが進むべき歴史について語ろう。
「王家はグランローゼ一年戦争で国力を消耗させた。イースタリアは魔族に乗っ取らた。アマテラーザの約半分が混乱の渦中にある。魔族を退けて、再び平和が戻ったあかつきには、アマテラーザは連邦制に移行する。これには女王も同意している。」
「なんじゃど、連邦制じゃど…」
グルジ殿が唸った。
「先生、連邦制とは我らドワーフの国もアマテラーザの政治に参加することができるということですね?」
ジュード殿、理解が早いな。
この若者はやはり聡明だ。
若くして大族長になったのも納得だ。
「そうだ。セントラル、ノーザン・テリトリー、イースタリア、ウエスピア、サウスティカ、五つの地域の代表が王都グランローゼに集まり、合議でアマテラーザのかじ取りをするんだ。」
「それは素晴らしぇ!」
ガルード殿は目を輝かせた。
「だが、連邦制には条件があるぞ。」と、私は言った。
「条件とは何じゃ?」
グルジ殿が再び生臭い目になった。
「このノーザン・テリトリーでも、ドワーフだけで政治を行うのではなく、獣人たちも政治に参加させることだよ、グルジ殿。」
「この国の獣人は少数民族じゃ。少数の者の意見を取り入れるごどはでぎねぇ。」
「アマテラーザの人口比率は人族が6割、ドワーフが2割、あとの2割はエルフ族や獣人、または亜人だと聞く。ドワーフは少数だから意見を聞く必要はないのかね?」
私の問いかけに、ジュード殿が膝を打った。
「これはやられましたな。先生! 確かに、確かに…」
「ジュード殿、少数意見の尊重だよ。大勢の意見が必ずしも正しいわけではない。ドワーフや獣人の少数の意見が未来を切り開くこともあるんだ。」
円卓の末席でファビア君が背筋を伸ばしている。
嬉しいのだろう。
だがここで喜色を表すことを我慢しているのだ。ドワーフたちの誤解を招かないように平静を装っている。
「グルジ殿!」
と、ジュード殿が最長老に詰め寄っている。
「グルジ殿、先生の提案、お受けしましょう。そして我らも魔族討伐の兵を出すべきです。」
「ジュードよ、おぬしはまだまだ青ぇ。王家がどごまで信用でぎるのが、それを考えでみよ。まだ、裏切らぃるだげがもすれん。」
「しかし、私は先生の提案は良き事と思います。この機会を逃せば、我らドワーフはこの北の地で孤立するばかり。」
「ふん、未来は若ぇ者に委ねよ言いてぇようだな。各支族長だぢは年寄りが多ぃ。その多ぐが王家さ不信感を持っておる。おめんど若ぇ者の考えに同意するがのう?」
ここでヤーマン族のマリータ・マウリス殿が沈黙を破った。
女性の大族長だ。
マリータ殿は他の族長たちを威圧するように目線を走らせた。
その声には気迫がこもっている。
「王家が信じるに値しねえだど。だらドワーフが王家滅ぼすのみよ! まずは魔族だ。そだ世迷い事は、魔族を倒してがら言うべぎだべ!」
マリータ殿は私をギロリと睨んだ。
「よく言われた、マリータ殿。まずは魔物を倒す。」
「先生どやら、作戦はあんのが?」
「それを話し合うために来たんだ。」
マリータ殿の目が笑っている。
私もこの時、マリータ殿と同じ目をしていた。




