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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅳ、北辺編

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30、フォクス族の少年

 豪雪地帯であるノーザン・テリトリーだが、ゴーレアの街には雪が少ない。

 ここから10キロほどキロほど北に行ったところに活火山があり、地熱のため雪がすぐに溶けてしまうらしい。

 ここは温泉の街でもある。


 私たちはこの街に宿をとった。

 ドワーフの12支族の長たちのうち8名はすでに到着しているらしいが、遠方の4支族はまだのようだ。

 それまでの数日はこの町の見学である。


 まっ、温泉にでも浸かって、観光でも楽しむか。

 それもドワーフたちの文化や考え方を探るいい機会になるだろう。


 幸村君は温泉三昧である。

 風呂で旅の垢を落とし、この街の名物であるハンバーガーのようなものを旨そうに食べている。

 

 「旨そうだな…」


 「ひとつ食べるなりか?」


 「おう、ありがとう。」


 私はドワーフのハンバーガーを口にした。


 「なんだこれは! このような食材をハンバーガーのように調理するとは、この料理人は旨いものを食ったことがないらしいな。」


 「先生、また人格が変わってるなり。」


 「愚か者め、おまえはこれが何なのかわかっているのか!」


 「ハンバーガーなり。」


 「幸村君、ほんとうに旨いものを食わせてやる!」


 「それは嬉しいなり。」


 私たちは宿屋の厨房を借りた。

 厨房ではこの宿の料理人が休憩中だった。


 「おやじ、このパンの生地をくれ!」


 「へい、これでよろしいでしょうか?」


 「うむ、この生地を薄く、丸く延ばす。生地の上にこのトマトに似た野菜で作ったソースを塗る。そして野菜と肉を並べるんだ。そこにチーズをトッピングする。」


 「わかったなり! ピザを焼くなりね。」


 「今ごろわかったのか、愚か者め!」


 「愚かでも何でもいいなり。早くピザを焼くのだ。食べたいなり!」


 「慌てるな、あとは焼くだけだ。おやじ、パンを焼く窯はあるか?」


 「へい、そちらにありますぜ。」


 「なんだこの窯は、これでは火力が足らぬではないか!」


 「へい、ドワーフのパンはだいたいこんな窯で焼きますのでねぇ。」


 私は幸村君をギロリと睨んだ。


 「幸村君、君の力が必用だ。」


 「わかったなり。強い火力でボワッと焼くなりね。ピザが食べられるなら何でもやるなり。」


 「さすがだ、その食い意地だけは誉めてやろう。」


 「いくなりよ!」


 <<臨《りん》! 兵《ぴょう》! 闘《とう》! 者《しゃ》! 皆《かい》! 陣《じん》! 列《れつ》! 在《ざい》! 前《ぜん》!>>


 -----ボワッ!


 「こんがりピザの焼き上がりなり!」


 旨い、異世界に来て初ピザだ!


 「とろけたチーズがたまらないなり!」


 「おやじ、おまえも食《しょく》してみよ。」


 「へい、ではご相伴に…」


 「どうだ、おやじ?」


 「こ、こんな旨いものがあったとは…」


 「おやじ、この味をしかと憶えておけ。」


 「へい、このピザとかいう料理、この宿の名物にしとうございます。」


 「はっはっは、よかろう、料理の腕を磨き、精進するのだぞ。」


 「ありがとうございます。もしやあなた様は、高名な美食家の先生では?」


 「うむ、グランローゼ城の美食倶楽部の主《あるじ》とでも言っておこう。」



 「幸村君、もう2・3枚焼こう。それからワインだ。」


 ドワーフの食文化にはチーズを焼くという発想はないようだ。

 だからピザは新しい味としてこの街の名物になるだろう。



 「なんだか、すごく美味しそうな匂いがしてますねぇ。」


 厨房に中学生くらいの少年が入ってきた。

 獣人だ。キツネのような耳をしてるからフォクス族か。

 王都の貴族のような服を着ている。

 少年は好奇心旺盛な目をして私に問いかけた。


 「こんなところで人族の方にお目にかかるなんて。あなた方は、王家の使者の方ですか?」


 「そうだが、君は?」


 「ボクはフォクス族のファビア・ノール。この度の族長会議に獣人代表のオブザーバーとして出席いたします。」


 「ほう、君が獣人の代表か。歳若いのにたいへんな任務だな。頑張りなさい。それよりどうだ、ピザを食っていくかね。」


 「ありがとうございます。ご相伴にあずかります。」


 ファビア君はピザをひとかじりすると、とろけるような顔になた。


 「美味しいです。とろけたチーズがたまらない。」


 「そうだろう。これは異世界の料理だ。」


 「異世界の食べ物ですか? ならばあなた方は…」


 「そうだ、私たちは召喚者だ。」


 「では、そちらの方は?」


 「真田幸村なり。」


 「お噂は聞いております。大イノシシを一撃で倒されたとか。感激です!」


 「そんな話はどうでもいい。旨いものを食うときは、ひたすら食うんだ。ファビア君。」


 私たちは厨房の片隅でピザをパクついて、なごやかに話した。

 会話していてよくわかった。ファビア君はとても頭がいい。あらゆる話題に的確に反応できるのだ。

 そういえばユリス君が言っていた。フォクス族は獣人のなかでも頭脳明晰な種族だと。

 


 「ところでファビア君、君は親御さんと共に族長会議に出るのかい?」


 「いえ、ボクひとりです。昨年の夏、父が体を壊しまして、ボクが父の名代です。」


 「それは大変だな。でも他の獣人の代表が助けてくれるだろう。」


 「いえ、会議に出るのはフォクス族だけです。」


 「獣人代表は君ひとりかね?」


 「はい。でもオブザーバーですから…」


 オブザーバーというのは傍聴者のことである。

 会議に出席はするが発言権はない。


 「オブザーバーとはどういうことだ?」


 「はい、ここはドワーフの国です。ボクたち獣人には発言権はありません。」


 そういうことか。少数民族はこの国の政治に参加できないということなのだ。

 フォクス族以外の獣人たちは、それを当たり前のことだと思っている。

 だから族長会議に獣人が出席するなどおこがましいと、始めからあきらめているのだ。


 「それでもオブザーバーとして出席できれば、この国で何が起こっているか、どんなことが決定されたのかが分かります。我らフォクス族はそれを聞いて、それぞれの獣人の代表に知らせるのです。」


 「大事な仕事だな。」


 「ええ、だからボクは…」


 「頑張らないとな。」


 「はい!」


 「ほら食え。ピザをもっと焼こう。幸村君、たのんだぞ。」


 「ファビア君、もっと食べるなりか?」


 「はい!」


 いい返事だ。

 彼の聡明さがこの国の獣人たちの助けにならんことを…

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