30、フォクス族の少年
豪雪地帯であるノーザン・テリトリーだが、ゴーレアの街には雪が少ない。
ここから10キロほどキロほど北に行ったところに活火山があり、地熱のため雪がすぐに溶けてしまうらしい。
ここは温泉の街でもある。
私たちはこの街に宿をとった。
ドワーフの12支族の長たちのうち8名はすでに到着しているらしいが、遠方の4支族はまだのようだ。
それまでの数日はこの町の見学である。
まっ、温泉にでも浸かって、観光でも楽しむか。
それもドワーフたちの文化や考え方を探るいい機会になるだろう。
幸村君は温泉三昧である。
風呂で旅の垢を落とし、この街の名物であるハンバーガーのようなものを旨そうに食べている。
「旨そうだな…」
「ひとつ食べるなりか?」
「おう、ありがとう。」
私はドワーフのハンバーガーを口にした。
「なんだこれは! このような食材をハンバーガーのように調理するとは、この料理人は旨いものを食ったことがないらしいな。」
「先生、また人格が変わってるなり。」
「愚か者め、おまえはこれが何なのかわかっているのか!」
「ハンバーガーなり。」
「幸村君、ほんとうに旨いものを食わせてやる!」
「それは嬉しいなり。」
私たちは宿屋の厨房を借りた。
厨房ではこの宿の料理人が休憩中だった。
「おやじ、このパンの生地をくれ!」
「へい、これでよろしいでしょうか?」
「うむ、この生地を薄く、丸く延ばす。生地の上にこのトマトに似た野菜で作ったソースを塗る。そして野菜と肉を並べるんだ。そこにチーズをトッピングする。」
「わかったなり! ピザを焼くなりね。」
「今ごろわかったのか、愚か者め!」
「愚かでも何でもいいなり。早くピザを焼くのだ。食べたいなり!」
「慌てるな、あとは焼くだけだ。おやじ、パンを焼く窯はあるか?」
「へい、そちらにありますぜ。」
「なんだこの窯は、これでは火力が足らぬではないか!」
「へい、ドワーフのパンはだいたいこんな窯で焼きますのでねぇ。」
私は幸村君をギロリと睨んだ。
「幸村君、君の力が必用だ。」
「わかったなり。強い火力でボワッと焼くなりね。ピザが食べられるなら何でもやるなり。」
「さすがだ、その食い意地だけは誉めてやろう。」
「いくなりよ!」
<<臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 列! 在! 前!>>
-----ボワッ!
「こんがりピザの焼き上がりなり!」
旨い、異世界に来て初ピザだ!
「とろけたチーズがたまらないなり!」
「おやじ、おまえも食してみよ。」
「へい、ではご相伴に…」
「どうだ、おやじ?」
「こ、こんな旨いものがあったとは…」
「おやじ、この味をしかと憶えておけ。」
「へい、このピザとかいう料理、この宿の名物にしとうございます。」
「はっはっは、よかろう、料理の腕を磨き、精進するのだぞ。」
「ありがとうございます。もしやあなた様は、高名な美食家の先生では?」
「うむ、グランローゼ城の美食倶楽部の主とでも言っておこう。」
「幸村君、もう2・3枚焼こう。それからワインだ。」
ドワーフの食文化にはチーズを焼くという発想はないようだ。
だからピザは新しい味としてこの街の名物になるだろう。
「なんだか、すごく美味しそうな匂いがしてますねぇ。」
厨房に中学生くらいの少年が入ってきた。
獣人だ。キツネのような耳をしてるからフォクス族か。
王都の貴族のような服を着ている。
少年は好奇心旺盛な目をして私に問いかけた。
「こんなところで人族の方にお目にかかるなんて。あなた方は、王家の使者の方ですか?」
「そうだが、君は?」
「ボクはフォクス族のファビア・ノール。この度の族長会議に獣人代表のオブザーバーとして出席いたします。」
「ほう、君が獣人の代表か。歳若いのにたいへんな任務だな。頑張りなさい。それよりどうだ、ピザを食っていくかね。」
「ありがとうございます。ご相伴にあずかります。」
ファビア君はピザをひとかじりすると、とろけるような顔になた。
「美味しいです。とろけたチーズがたまらない。」
「そうだろう。これは異世界の料理だ。」
「異世界の食べ物ですか? ならばあなた方は…」
「そうだ、私たちは召喚者だ。」
「では、そちらの方は?」
「真田幸村なり。」
「お噂は聞いております。大イノシシを一撃で倒されたとか。感激です!」
「そんな話はどうでもいい。旨いものを食うときは、ひたすら食うんだ。ファビア君。」
私たちは厨房の片隅でピザをパクついて、なごやかに話した。
会話していてよくわかった。ファビア君はとても頭がいい。あらゆる話題に的確に反応できるのだ。
そういえばユリス君が言っていた。フォクス族は獣人のなかでも頭脳明晰な種族だと。
「ところでファビア君、君は親御さんと共に族長会議に出るのかい?」
「いえ、ボクひとりです。昨年の夏、父が体を壊しまして、ボクが父の名代です。」
「それは大変だな。でも他の獣人の代表が助けてくれるだろう。」
「いえ、会議に出るのはフォクス族だけです。」
「獣人代表は君ひとりかね?」
「はい。でもオブザーバーですから…」
オブザーバーというのは傍聴者のことである。
会議に出席はするが発言権はない。
「オブザーバーとはどういうことだ?」
「はい、ここはドワーフの国です。ボクたち獣人には発言権はありません。」
そういうことか。少数民族はこの国の政治に参加できないということなのだ。
フォクス族以外の獣人たちは、それを当たり前のことだと思っている。
だから族長会議に獣人が出席するなどおこがましいと、始めからあきらめているのだ。
「それでもオブザーバーとして出席できれば、この国で何が起こっているか、どんなことが決定されたのかが分かります。我らフォクス族はそれを聞いて、それぞれの獣人の代表に知らせるのです。」
「大事な仕事だな。」
「ええ、だからボクは…」
「頑張らないとな。」
「はい!」
「ほら食え。ピザをもっと焼こう。幸村君、たのんだぞ。」
「ファビア君、もっと食べるなりか?」
「はい!」
いい返事だ。
彼の聡明さがこの国の獣人たちの助けにならんことを…




