17,和平を…
グランローゼ城内が色めきたっている。
王女ツキヨミと大公家の後継者ガストン・トクーガの婚儀の件は秘密裏に運ぶはずだったのだが、講義の時、王女の部屋にいた女官の口から洩れたのだ。
かん口令を敷いていたのに、この城はどこもここもが緩い。
何も聞かされていなかった重臣の方々の不満を、ギヨーム殿が抑え込んでいる。
だが、彼ら重臣にしても、これで和平が成るのだ。
内心、ほっとしているはずだ。
ますは大公だ。
これまでビールでつないできた大公との関係がここで生きる。
私はヴァン殿をともなって地下の座敷牢を訪れた。
「おおー、魔王か。」
「大公、元気にしていたか。」
「ビールはどうした?」
「今日はビールは無しだ。ここを出してやる!」
「へっ!」
大公はきょとんとしているが、私はおかまいなしに鉄格子を開けて大公を外に出した。
「ヴァン殿、手はずどおりにたのむ。」
「ほいきた!」
ヴァン殿は大きなずだ袋を大公にかぶせた。
「大公、しばらく我慢してくれ!」
ヴァン殿は大公が入ったずだ袋をかついで座敷牢を出た。
座敷牢の外では幸村君と三成君が控えていて、大公の護衛についた。
この城には大公を仇と狙う者もいる。用心だ。
私たちは大公を女王の応接の間まで運んだ。
女王の居住区域は宮殿の奥だ。
限られた女官しか立ち入りを許されない聖域なのだ。
ここがいちばん安全だし、このあと大公を女王に会わせなければならない。
女王の応接の間に着くと、私たちは大公をずだ袋から出し椅子に座らせた。
「いったいなんじゃというのだ!」
「悪いな、大公、緊急事態だ!」
「緊急事態???」
「悪い話ではない。」
私はツキヨミ殿の決意を大公に話して聞かせた。
王女ツキヨミとガストンの婚儀の件だ。
大公の表情がみるみる変わっていくのが分かった。
「それがツキヨミ殿のご意思だ。」
私が言うと、大公は顔を伏せた。
泣いているのだ。
「そうか、ツキヨミ様、かたじけない!」
「では、準備が整い次第、女王と王女に謁見してもらう。」
ここからは迅速に事を進めねばならない。
「その前にお風呂に入るなり!」
「臭うござるぞ、大公殿!」
「ヴァン殿、風呂に入れてやれ。」
風呂上がりの大公は髪を整えひげを剃った。
礼服も用意した。大公殿にふさわしい軍装である。
謁見の準備完了だ。
「大公、ほかに必要な物はないか?」
「ある。」
「なんだ?」
「ビールを一杯、所望じゃ。」
私を見るとビールが欲しくなる。
条件反射のパブロフの犬だ。
***
女王ヒミカと王女ツキヨミが応接の間に入ってきた。
この場ですべてを決めてしまう。
婚儀の件、すべてだ。
そして公式に発表するのだ。
誰にも文句は言わせない。
女王と王女はソファーに腰かけ、大公は女王に跪いた。
「大公殿、大儀であった。」
「女王様にはご機嫌うるわしゅう。この大公、つつしんで拝謁たまわります。」
「こたびの件、聞いておられるか?」
「魔王殿より聞きましてございます。まことにかたじけのうございます。」
「これより、我らは親戚となる。末長ごうお願いいたすぞ。」
「もったいないお言葉にございます。」
王女ツキヨミが大公の手を取った。
「父上様、これからは父上様とお呼びしとうございます。アマテラス王家とトクーガ大公家のため、民の平和のため、あい努めとうございます。」
「なんと慈悲深いことじゃ、ツキヨミ様。 我が子ガストンに嫁いでくだされば、この国も安泰じゃ。それにのう、ガストンは優しい子じゃ。なによりも平和を願うておる。ツキヨミ様とは似合いの夫婦じゃ。」
大公、調子に乗って余計なことを言うなよ。
私の心配を知ってか知らずか、大公はしゃべり続けた。
ビールを飲ましたのが失敗か。
まあいい、場の雰囲気はなごんでいる。
「そうじゃ、ツキヨミ様、子をな、子をたんと生みなされ。長男はアマテラス王家の後継ぎじゃ。次男には大公家を継がせる。さすれば天下泰平の万々歳じゃ!」
幸村君が扇で大公の頭をペチンと叩いた。
あっ、幸村君、何すんだ!
「女は子どもを産む道具ではないなり。」
現代社会の価値観はこの異世界では通用しない。
だが、これで大公の軽口も止まった。
幸村君、グッジョブだ。
この直後、ツキヨミ王女とガストン・トクーガの縁談話が城内を駆け巡った。
異議を唱える者はなかった。
大公は宮殿内に居室を与えられた。
もちろん、警備は万全のかごの鳥だ。
大公には人質としての役割を果たしてもらわなければならない。
***
「先生、次にやるべきことは何なりか?」
「次はガストン・トクーガ殿に使者を立てる。」
「魔王殿、わしがガストンに手紙を書く。」
「助かる。使者が到着する前にガストン殿に知らせておく必要がある。大公殿の手紙なら万全だ。」
忙しい! 大回転だ。
そんなところに暇そうな爺さんが来やがった。
ウード卿だ。
「先生殿、こたびはまことに祝着じゃ。先生殿の活躍、この王国に平和をもたらし申した。あっぱれ、あっぱれじゃ!」
この爺さん、私に風が吹き始めたからすり寄ってきているのだ。
うっとしい。
もとを正せば、おまえら重臣が大公家を敵視したのが始まりだ。
こんな俗物に国のかじ取りは任せられん!
使者はゴドー・グリフィス殿に決まった。
今では王都防衛軍の司令官様だ。
使者には箔をつけなければならないとのことで、爵位をもらった。
「グリフィス男爵様なりね。」
この国に和平をもたらす名誉の使者だ。
ウード卿は、てっきり自分が使者に立つものと思っていたようだ。
名誉の使者になれないと知って、じだんだを踏んで悔しがったという。
思惑がはずれて悪かったな。
あんたには、一言だけ言っておく。
「ざまぁ、なり!」
幸村君、その「ざまぁ」は私のだ!
ゴドー・グリフィス男爵は、イースタリアのレガリア城においてガストン・トクーガ殿に謁見し、婚儀の旨を言上した。
大公家の後継者ガストン・トクーガは満面の笑顔でうなずいたと伝えられる。
そして、ガストンはその場で王都グランローゼへ登ることを決めた。
***
ツキヨミ殿とガストン殿の結婚は、グランローゼの民衆にも伝えられた。
それは、この国に平和な時代が訪れたことを知らせるものだった。
民衆は、城に押しかけて、お祝の言葉を述べた。
王女ツキヨミは、城のバルコニーに出て民衆の祝福を受け、城はわき上がるようなような歓声に包まれた。
王女は大きく手を広げて、祝福の声に応えた。
13歳の少女とは思えぬような、堂々たる姿だった。
「みなさま! 今こそ、和平を…!」
抜けるような秋空の下、歓喜の声がどこまでもこだました。
後の歴史家は、この日の出来事を以下のように記述した。
「この日をもってグランローゼ一年戦争が終結した」と。
●内政編、完結です。次回より復活編、乞うご期待!
「幸村君、次回から新展開だぞ。」
「復活編なりね。ここから魔族が復活するなり。」
「厳しい戦いになりそうだが、頑張ろう。」
「頑張るためには応援が欲しいなり。」
「フレー、フレー、ユ・キ・ム・ラ!」
「違うなり! 評価なりよ。」
「なるほど、下にある☆☆☆☆☆だな。」
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「ブクマも待ってるなりよ!」
「読者のみなさま、よろしくお願いいたします。」
「ペコリなり!」




