18,スローライフ
平和の到来は、民衆の心を安堵させた。
国には活気がみなぎっている。
王国再建のために誰もが忙しく動き出しているのだ。
この間までの忙しさが嘘のように、私は暇になっていた。
ときどき、王女の家庭教師をする。
ツキヨミ殿はニコニコして私の講義を聞いている。
ツキヨミ殿も来春にはガストン殿に嫁ぐのだ。
これが最後の青春になるのかもしれない。
幸村君も暇そうにしている。
戦いが終わったからだ。
日の本一の兵の出番はもうない。
「幸村君、王国再建の仕事ぶりを見に行こうではないか。」
「退屈していたところなのだ。視察にいくなり!」
私たちは馬車に乗って城を出た。
幸村君が手綱をにぎって馬車は城外に出た。
***
三成君がいる。
三成君の仕事は外堀と城壁の修復である。
「先生、悩んでいるでござるよ。これからの平和の時代に、街を取り囲む城壁が必要なのでござろうか?」
「そうだな。中世から近世に移行していけば、城壁は必要がなくなっていく。楽市楽座で商人たちが集まってくれば町の規模も大きくなる。城壁は邪魔かもしれないな。」
「そうなのでござるよ。城壁の再建には莫大な費用がかかり申す。その費用を産業の育成や、軍備の増強に充てたほうが合理的でござる。」
「三成君、君の頭の中ではすでに結論が出ているんだろ。ならば、思うようにやりなさい。」
「分かり申した。城壁の再建は中止でござる。」
三成君は、外堀だけは修復するようだ。
外堀にはいくつもの橋をかけ、その外にはさらに町を広げていくのだ。
***
馬車は外堀をこえて、南下した。
目の前に丘が現れた。
この間の戦いで大公が本陣にしていた丘である。
幸村君が大勝負に勝った場所でもある。
「なんか懐かしいなりね。遠い昔のことのように思えるなり。」
馬車は丘へ登り、丘の上からは遥か遠くが見渡せた。
丘のふもとにある神殿は、私が召喚された所だ。
さらに向こうには広大な農業地帯が広がっている。
ヴァン殿がいる。
畑に水をひくための用水工事をしているのだ。
ドワーフ族には土属性の魔法使いが多い。
彼らの詠唱で土が盛り上がったり、崩れたりするのだ。
「ヴァン殿、せいが出るな!」
「おー、先生、いいとことへ来なすった。用水路が堀りあがったところでさぁ。細かい土とか泥とか、先生の風で吹き飛ばしてくだせぇ!」
「よーし、分かった。いくぞ!」
<< 人間五十年! 下天の内をくらぶれば! >>
-----ごぉぉぉぉ!
用水路のお掃除完了!
水門を開くと、用水路が水で満たされていく。
これで少々の干ばつがあっても大丈夫だ。
農民たちは大喜びをしている。
こんな風景を見ていると、平和というものを痛感する。
***
私たちの馬車は、さらに東に向かった。
そこには練兵場があり、常備軍の訓練はここで行われている。
常備軍は、王都防衛軍というのが正式な名称なのだが、誰もその名で呼ぼうとしない。
「俺たちゃ冒険者部隊よ!」
常備軍に志願した元冒険者たちは誇りをもってそう名のったのだ。
冒険者だった剣士たちが、足並みを揃えて行進し、号令に合わせて一斉に剣を抜く。
これを繰り返し練習しているのだ。
「ゴドー殿、訓練は順調なりか?」
「ようやく、行進ができるようになったところだ。個人技を磨きぬいてきたのが冒険者だ。その足並みを揃えるのは一苦労だった。」
近代的軍隊というのはそういうものだ。
冒険者には地味な訓練かもしれないが、戦場では絶大な威力を発揮するのだ。
向こうでは、魔法使い部隊が訓練している。
今日はギヨーム殿自らが訓練の指揮をとっている。
「ギヨーム殿、魔術部隊はどかね?」
「みな個性的過ぎて、どうしようかと思案中です。」
「冒険者の魔法使いは我流で魔法を学んだ者が多いからな。」
「そうなんですよ。驚くほど強力な魔砲弾を撃てる者などいますが、魔力のコントロールがでたらめなんですよ。そのくせ、自己主張も強い。」
「『我こそは、最高の魔法使い!』 とか言っているなりね。」
「冒険者の魔法使いには中二病が多いからな。幸村君、中二病を打ち砕いてやってくれ。君の火魔法を披露して、格の違いをみせてやれ!」
「承知なり。」
<< 臨! 兵! 闘! 者! 皆! 陣! 列! 在! 前! >>
いけー! 炎の剣を見せてやれ!
-----ギュイーーーーーーーン!
魔法使いたちが、あんぐり口を開けている。
「最高の魔法使いの諸君! どうだね?」
平和な時代には、私の風魔法も水路の掃除くらいしか出番がない。
幸村君の炎の剣もデモンストレーションの見世物だ。
これから、どう生きるかだ。
***
夕日の中を、私たちの馬車がゆっくりと進んでいる。
「先生、これからどうするなりか?」
「そうだな。農業でもやるか。まず、コメを作る。味噌や醤油も作る。冬には酒造りだ。日本酒を作ろう。」
「それはいいなりね。よだれがでてきたのだ!」
「スローライフも悪くないかもしれん。」
「そうなりよ、異世界と言えばスローライフなり。」
「ああ、最強とか無双とか言ってる奴らの気が知れんな。」
「あたしは狩りがしたいなり。」
「魚釣りもいいぞ。」
「食べることばかりなりね。」
そうだ、食べることもいいが、私は歴史学者だ。
「それだけじゃないぞ。私はこの世界の歴史を研究するつもりだ。」
「さすが先生なりね。この世界の歴史は半分神話のなかなのだ。」
「だから、文献を集めて読みあさる。それから各地に残った神話や伝承を集めるんだ。」
「その中から、おぼろげに歴史の実像が姿をあらわすなりね。」
「楽しいぞ!」
「あたしも手伝うなりよ。」
「いいな、二人で歴史の研究をしよう。」
「決まりなりね。」
「まずは、初代王アマテラスだ。私は彼が何者かを知りたい。」
「魔王を倒した王様なりね。400年前に人族と魔族の激しい戦いがあったなり。」
「そうだ。彼がどこから来て、どこへ行ったか。歴史の謎だ。」
「初代王アマテラスは召喚者だったなりよ。」
「なんだと! 誰から聞いた!」
「ヴァン殿なり。ドワーフの伝説では初代王は召喚者なり。」
「ほんとうか?」
「伝説なりよ。本当かどうかは分からないなり。」
初代王アマテラスは召喚者という伝説があるのか。
神話や伝説は歴史ではない。
しかし歴史の真実が潜んでいる可能性がある。
ここから解き明かせば、私たちはこの異世界の歴史にたどりつくことができるかもしれない。




