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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅱ、内政編

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15,マドンナ降臨

 新しいスーツができあがった。

 裁縫のできるドワーフの傭兵が縫ってくれたのだ。

 ジャケットに腕を通し、ネクタイを締める。

 気分も新たになる。



 「先生、大変です!」

 

 「ギヨーム殿、何があった?」


 「イースタリアで大規模な魔力反応がありました。」


 「どういうことだ?」


 「おそらくは召喚魔法かと…」


 「つまりは大公領で異世界召喚が行われたということか!」


 大公の後継者ガストン・トクーガが、異世界から何者かを召喚したと推測される。


 ガストン・トクーガ、大公の三男でありながら跡継ぎの座についた。

 ヴァン殿は意気地なしのガストンと呼んだが、それは生粋の平和主義者だからそう揶揄《やゆ》されてはいるだけだ。

 大公がグランローゼ城を落としていれば、この平和主義者がこの国を治めることになっていた。

 大公は来るべき平和の時代を治める人材としてガストンに白羽の矢をたてたのだ。

 

 おそらくガストンは、大公の奪還を考えているはずだ。

 父親がこのままグランローゼ城の捕虜になったままならば、面目がたたない。


 私を含めて、王家には召喚者が三名いる。

 これに対抗するために、ガストンは召喚者を呼んだわけだ。


 「サスケ君、居るか!」


 居ないか…


 仕方がない、幸村君に相談だ。



 「すでにサスケと影一族を東に走らせたなり!」


 「手回しがいいな。さすがだ!」

 

 「ところで、影一族というのはなんだ?」


 「猫人族《びょうじんぞく》は影一族に改名したなり!」


 「確かにな。忍者みたいな者だから影一族のほうがカッコいいな。」



 ***


 サスケ君が帰還したのは、それから一週間後のことだ。


 「サスケ君、イースタリアで見てきたことを報告してくれ。」


 「はいニャ!」


 召喚されたのは女性だという。


 「戦国武将ではないのかね?」


 「召喚者はマドンナと名のったニャ。」


 「召喚したのはガストン・トクーガか?」


 「そうニャ。先生が寝返ったので、そのあとがまニャ。歴史学者らしいニャ。」


 ほう、歴史学者か。ならば敵も歴史チートを使えるということだ。

 やっかいなことをしてくれる。


 「サスケ、似顔絵を描くなり。」


 「はいニャ!」


 サスケは鉛筆を持つと、まるでインクジェット式のプリンターのように手を動かし、モノクロ写真のような絵を描いた。


 「これがマドンナか…!」


 こいつは大河内瑠奈、私から戦国武闘伝の監修を奪った女だ。


 マドンナの正体が大河内瑠奈とは大笑いだ。

 マドンナだと、その名前は僭越《せんえつ》というものだ。

 三流歴史学者に何ができる。


 「大河内瑠奈は知ってるなりよ。よくテレビに出てたのだ。」


 歴史の研究よりもテレビ出演を優先させていたような奴だ。

 政治家や財界人にすり寄って、


 「総理はまるで織田信長のようですわ」


 とか、


 「社長は武田信玄のような気概がありますわ」


 などとお世辞にお世辞を重ねていたのを見たことがある。



 「大河内瑠奈は政治家になろうとしてたなり。そういうウワサがあったなり。」


 「権力が大好きな女だな。」


 「しかしアニメ版・戦国武闘伝の監修をするのではなかったのか?」



 「大河内瑠奈は戦国武闘伝の監修を降ろされたでござるよ。」


 「三成君、君は私の後から召喚されたから、その後の様子を知っているのだな。」


 「そうでござる。大河内瑠奈は戦国武闘伝に『腐』の要素を入れると宣言して歴女さんから猛反発をくらったのでござる。」


 なるほど、大河内瑠奈は戦国武闘伝に「腐」の要素を入れて歴女さんに媚びようとした…

 それが裏目に出て、炎上したのだな。


 「それんな事は許されないなり! 戦国武闘伝にこれ見よがしに『腐』なんか入れたら台無しなり。」


 「そうでござる。我ら歴女は武田信玄公と上杉謙信公の間にはもしかして何かあるんじゃないかと、それは愛なんじゃないかと、遠く想いをはせるのでござる。」


 「男同士の友情とか愛情とか、ほんのり楽しむのが歴女のたしなみなり!」


 「言ってることがよくわからんが、私の考えが正しかったことを証明してくれてありがとう!」


 「先生が正しいなり!」


 「そうか! うれしいぞ!」



 *** 


 第二報がもたらされたのは、さらに四日後のことである。

 影一族の猫耳忍者が戻ってきたのだ。


 マドンナは貴族に列せられ、大公家の軍師になったそうだ。

 イースタリアに資本主義を導入するとぶちあげたらしい。


 「おーほっほっほ! アタシたちの世界を支配しているのは資本主義ですわぁ。資本主義こそ最強! イースタリアを資本主義で最強の国にしてみせますわぁ!」


 おそらくそういうことを言ったんだろう。

 馬鹿だ。果てしのない馬鹿だ。

 これで、マドンナには歴史チートが使えないことがよく分かった。

 恐れるに足らずだ。


 「幸村君、この世界に資本主義が導入できると思うかね。私の授業を聞いていれば分かるはずだ。」


 「マックス・ウェーバーなりね。」


 「そうだ。十八世紀の社会学者マックス・ウエーバーはその著書『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』のなかで、資本主義を可能にしたのはプロテスタトの倫理的・宗教的な価値観であることを指摘した。」


 「お金を貯めることが勤勉さの証明になって、神様の意思にかなっている、というアレなりね。」


 「この世界は中世末期くらいだ、そんな倫理観や宗教観があるとは思えん。」


 「この世界には楽市楽座くらいがちょうどいいなりね。」


 そういうことだ。歴史チートは歴史だけでなく社会学や経済学を分かっていないと使えない。

 ただの思い付きになってしまうんだ。



 ***  


 第三報、

 マドンナの資本主義政策は全く進んでいないようだ。

 どこから手を付けていいかすら分かっていないようだ。


 第四報

 マドンナはトクーガ大公家の軍師を首になったそうだ。

 そりゃそうだろう。

 ガストン・トクーガも馬鹿ではないな。


 第五報

 マドンナは貴族の地位を追われ、平民に落とされたそうだ。

 要するに、完全にお払い箱だ。



 私がマドンナ、いや大河内瑠奈に言うことがあるとすれば、


 「ざまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 その一言につきる。


 だが、この時点で私は予想もしていなかった。

 マドンナこと大河内瑠奈が、私たちの前に最悪の敵となって立ちはだかるということを…

 そして権力に魅入られた人間の醜さと恐ろしさを…


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