14,勇者 VS 知恵者
翌日、二回目の御前会議である。
王女ツキヨミが隣席し、私が進行役を務めることになった。
「さて、三成君、富国強兵の策を聞かせてくれ!」
「わかり申した。王家の直轄領セントラルが、ほかの地方に対して絶対的な有利なのは国の中央に位置していることでござる。つまり商工業の先進地帯なのでござるよ。」
「わかったなりーっ! 楽市楽座なりね!」
「幸村殿、正解にござる。商工業者に対する税金を安くする。あるいは免除するのでござる。」
「すると商人や職人たちがセントラルに集まってくるなりね。商工業が栄えれば経済が活性化して富が集まってくるなり。」
楽市楽座は織田信長の政策である。
農業中心の中世において、商工業の重要性に目を付けたのはまさに革新的な発想だった。
「三成君、商工業は楽市楽座でいこう。では農業はどうする?」
「税を安くして農民の暮らしを楽にしてやりたいと申したいところでござるが、それでは新しいことができませぬ。」
「新しいこととは?」
「農業は国の根本。治水工事により農業生産力を底上げします。さらには土地の開墾、農具の開発、やることは山積みでござる。」
「税金の使い道だな。税金を民のために使うということだな。」
「そうでござる。富める者からは多めに税金を取り、貧しいものからは少しだけ税金を取りまする。累進課税でござる。取った税金を農業開発に投入し生産力が上昇すれば、たくさん税金を取られた金持ちも文句は言いますまい。」
「三成君、あとは教育だな。」
私が言うと、三成君は実にうれしそうな顔をした。
教育こそがこれからの時代を切り開く。
「学校を作るのでござる。庶民の中にも優秀な資質を秘めたものがいましょう。教育によって、その資質を開花させるのでござる。優秀な者を登用して豊かで強い国を作りましょうぞ。」
よくわかってるじゃないか。
たいした知恵者ぶりだ。
中世のくびきを脱して、近世の扉を開くのだ。
三成君は早口でまくし立てていく。
ギヨーム殿も、ヴァン殿も、ゴドー殿も三成君の頭の回転についていくのがやっとだ。
「先生、これが歴史チートですかい。目が回るようだわい。」
「ヴァン殿、これは手始めだ、まだまだ先がある。ついてこれるかい?」
「やれやれだわい。」
「歴史チート、恐るべきですね。」
と、今度はギヨーム殿がため息をついた。
「未来がみえるかい?」
「少しだけ…」
ギヨーム殿は自嘲的に笑った。
さすがにゴドー殿はついていけないようだ。
勇者と呼ばれる男で、もとは冒険者だった。
経済や政治には暗いらしい。
だが、軍制についても議論しなくてはならない。
ゴドー殿の意見は貴重だ。
「三成君、富国の件は承知した。つぎは強兵だ。」
「承知でござる。常備軍の創設が肝にございましょう。」
近代国家の条件は中央主権と常備軍だ。
この秀才はまことに的確である。
「三成君、常備軍と言っても農民を徴兵するわけにはいかない。農民を徴兵すれば生産力が下がる。それにこの世界の発展段階では国民皆兵は不可能だ。分かるな。」
「分かっておりまする。国民軍の創設には国民国家という新たな国の形が必要でござる。まだ三百年ほど先のことでござろうか。」
「では、どうする?」
「冒険者でございます。魔族は400年も前に滅ぼされました。魔物を使役していた魔族がいなくなったことで魔物たちはダンジョンにもぐり、たまに人里を襲うくらいにございます。もはや冒険者は無用。常備軍に吸収でござる。」
「待った!」
ゴドー殿だ。
怒りに肩を震わせている。
「三成殿、少なくなったとはいえ魔物に殺される人間がどれほどいるか知っているのか? その魔物を誰が退治する! 魔物がひとたび現れるとダンジョンも放っておけない。その攻略は誰がやる! 冒険者がいなければ、民は魔物の餌食となる。冒険者は無用とは、どういうことだ!」
「ご安心召されよ、魔物退治は常備軍の仕事になりまする。たった数人の冒険者パーティーよりも、軍勢を押し出して魔物を倒したほうが早うござる。」
「ふざけるな!」
三成君の論理的な指摘は、勇者ゴドー・グリフィスの怒りに油を注いだ。
三成君、やっちまったな。
君の頭の良さに、誰もがついていけるわけではない。
ゴドー殿は冒険者出身の誇り高き剣士だ。
それが「冒険者は無用」とまで言われたのだ。
歴史上の石田三成もそうだった。
彼の合理的な考えに加藤清正や福島正則など武勇をもって知られる武将たちは反発した。
その人望のなさが、三成をして「関が原」で敗北させることになる。
ここは私の出番だ。
「ゴドー殿、気持ちはわかるが、三成君の言っていることは正しい。」
「先生までこいつに味方するのですか!」
「味方するのではない。分かるように説明するんだ。」
「説明ですと… 今さら何を…」
「ゴドー殿は常備軍がどんな物か分かっていない。」
「常備軍ですか…?」
「そうだ。冒険者パーティーには様々な役割の者がいるな。剣士、魔法使い、ヒーラー、僧侶、遊び人というのもあったな。」
「ひとりひとりが役割を果たして魔物を倒します。」
「それをひとりじゃ無くしたものが常備軍だ。つまり剣士が1000人、魔法使いが1000人、ヒーラーが100人だ。いわば巨大な冒険者パーティーだ。」
ゴドー殿の顔色が変わったぞ。
ちょっとは分かったか?
「先生、ちょっと待ってください。頭が混乱して何が何だか…」
ゴドー殿は直立して目を閉じた。
何かを考えているようだ。
長い沈黙が続いた。
「何か見えたかい?」
「見えました。ものすごい光景が見えました。」
「教えてくれ。何が見えたか?」
「1000人の剣士と1000人の魔法使いが魔王軍に立ち向かっています。」
「それは豪勢だな。」
「すごい! 剣士たちが集団で斬り込みをかけています。魔法使いが一斉に魔砲弾を撃ち込んでいます。火炎弾、水塊弾《ウオタ―ボール》、閃光が魔王軍を焼き尽くしていきます。」
「勝ったかい?」
「勝ちました!」
ゴドー殿は目を見開いた。
そして、こぶしを握り締めてガッツポーズをとったのだ。
「三成殿、すまなんだ。俺の考えが浅かった。」
分かればいい。
ゴドー殿は言葉では分からなくても、映像で理解することができるようだ。
即座に過ちを認めたゴドー殿に、みんなが拍手を送った。
「みなさま!」
王女ツキヨミの声だった。
誰もが静まり返った。
それは王女ツキヨミが私たちに向けて発した初めての言葉だった。
「みなさま、このツキヨミ、感動いたしました。
幸村殿の武勇、三成殿の智略、ギヨーム殿の魔力、
ヴァン殿の胆力、ゴドー殿の勇気、
すべては民のためにあります。
そして王家もまた、民のために…
そのことを教えてくださったのは、先生です。
先生、あなたは素晴らしい!」
私はキョトンとして立ちすくんでしまった。
王女ツキヨミは赤くなった顔を両手で隠して、小走りに会議室を出ていった。
「なんだ、ありゃ!」
「先生、ツキヨミ様に惚れられたみたいなりね。」
「幸村君、勘違いするな。相手は13歳の子どもだ。」
「女心が分からない朴念仁なりねぇ。」
「馬鹿なことを言うな。」
***
翌日、私たちは冒険者ギルドを訪れることにした。
戦いが終わり、グランローゼ城を出た冒険者たちは仕事を求めてギルドに集まっていた。
私とゴドー殿だけでいいというのに、幸村君と三成君も来るという。
若侍の恰好をして、腰には日本刀を差して、《《ほいほい》》ついてくるのだ。
「冒険者ギルドには一回行ってみたかったなり。」
「異世界と言えば冒険者ギルドでござるよ。」
気楽なものだ。
「冒険者ギルドは荒くれたちのたまり場だ。めんどうは起こすなよ。」
私の心配を知ってか知らずか、幸村君と三成君は勇んでギルドの扉を開けた。
「いるなり、いるなり、荒くれ者が!」
「異世界、満喫でござるな!」
いかにも荒くれ者といった風体の冒険者がさっそくちょかいを出してきた。
「おめぇ、大そうな格好だが、女だな。」
相手にするなよ、幸村君、三成君。
「幸村殿、もしかして、いま荒くれ物の冒険者にからまれているでござるか?」
「確かにからまれてるなりよー。こんな体験ができてラッキーなり!」
「そうでござるな、冒険者ギルド体験、サイコーでござるな。」
「冒険者ギルドにきて、よかったなりねぇー。」
荒くれ物の冒険者がきょとんとしているぞ。
幸村君、三成君、ちょっとは相手をしてやれ。
ゴドー殿がカウンターに腰かけた。
「マスター、いるかい?」
「おう、ゴドーじゃねぇか。久しぶりだな。王家に仕えたと聞いていたが、首になったか。おめぇには宮仕えは無理だな。」
「そうでもないんだ。今回は宰相ギヨーム・エクストン卿の使いできたんだ。」
「エクストン卿だと! 白の魔導士か?」
「そうだ白の魔導士様が冒険者を集めている。」
「どれくらい必要なんだ?」
「うん、剣士1000人に、魔法使い1000人だ。」
「なんだと! この冒険者ギルドの登録者がみんないなくなっちまうぜ。そんなの無理に決まってるだろ!」
さっき幸村君に絡んできた荒くれ者がマスターに言った。
「マスター、俺たちゃ仕事にあぶれてるんだぜ。王家の仕事だろうがなんだろうが、俺はやるぜ!」
マスターは頭をぐしゃぐしゃと掻いて困り果てている。
「最近は魔物の奴らも出てこねぇし、ダンジョンもめっきり減っちまったからな。冒険者ギルドも店じまいか。失業だよ、失業!」
「マスター、心配しなくていい。」
「ゴドー、俺に仕事でも世話してくれるってかい?」
「マスターには冒険者の指導者の仕事を用意した。」
「ゴドー、おまえの勝だちだ。コノヤロー!」




