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異世界★戦国武闘伝~歴女と歴史学者の異世界戦記  作者: 近森 元
Ⅱ、内政編

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13,歴史チート

 王国再建のための御前会議を行うことになった。

 御前会議というのだから当然ヒミカ女王が臨席するものと思っていたが、会議に姿を現したのは王女ツキヨミ殿であった。


 「ウード卿をはじめとする重臣の方々が女王の臨席を妨害しているのです。」


 ギヨーム殿は沈痛な面持ちだった。


 そういうわけで、女王殿は重臣たちを集めて御前会議、私たちの会議にはツキヨミ殿が代理で出席というわけか。

 まあ、それでもいい。

 私たちのやるべきことは、情報を交換し、意見をすり合わせることだ。

 ヒミカ殿には気の毒だが、今回は重臣たちの人身御供になっていただこう。


 それよりも気になるのはツキヨミ殿だ。

 相変わらず暗い瞳で私を見つめている。

 

 出席者は以下の通りだ。

 私と幸村君、三成君。三名の召喚者。

 宰相、ギヨーム・エクストン卿

 ドワーフの傭兵隊長、ヴァン・ダイクン殿

 勇者、ゴドー・グリフィス殿


 もう少し有志の者を集めたかったのだが、王家に仕える家臣たちは我々改革派と重臣たちの守旧派のどちらに着くかで日和見《ひよりみ》をしていたのだ。


 三成君はこの一か月、若手の官僚たちを集めてこの世界の情報を収集していた。

 膨大な資料を精査して、この国の情勢をわずか十枚ほどのレポートにまとめていた。


 「三成君、まずは基本的なことから説明してくれ。」


 「まずは一枚目からです。これがこの国アマテラーザの地図です。」


 アマテラーザは大陸の東方に位置する弓なりの細長い国土を持ち、五つの地方に分けられる。

 

 なんとなく日本列島に似ているな。

 違っているのは、日本海がなく、代わりに三千メートル級の巨大な山脈が横たわっているのだ。

 この山脈の向こうは巨大な砂漠が広がっているという。

 

 「二枚目をご覧ください。各地方の生産力の比率です。」


 セントラル (中央部):6 アマテラス王家直轄領 【近畿地方】

 イースタリア(東部) :6 トクーガ大公領【関東地方】

 ウエスピア  (西部) :5 モーリス公爵領【中国地方】

 サウスティカ(南部) :4 シーマ辺境伯爵領【九州地方】

 ノーザン・テリトリー(北部) :2 未開の地【東北地方】


 【】内は、私が日本列島をイメージして書き込んだメモである。


 「今や王家と大公家の国力はほぼ同じにござります。」


 では三成君、ひとつ質問だ。


 「君が大公なら、どう動く?」


 「北でございます。ノーザン・テリトリーを併呑《へいどん》し国力を8として王家に対抗します。」


 ほう、未開の地を攻めるわけか。

 秀才らしい戦略だが、どうかな?

 現実にはそんな簡単にはいかないのではないかね。


 「どうだ?」


 私はみなに問い、ヴァン殿が答えた。


 「ノーザン・テリトリーは我らドワーフの故地でさぁ。攻め入れば森に潜むドワーフのゲリラ部隊の返り討ちに会いますぜ!」

 

 「ヴァン殿、その話、もう少し続けてくれ。」


 「わっはっは、それではドワーフに伝わる言い伝えをお聞かせいたしますぜ。」


 ドワーフの伝承は語る。

 そもそもこは誰の国でもなかった。

 ドワーフ族も、人族も、エルフ族も、獣人族も、それぞれがそれぞれの神を信じ、互いに交易をしながら平和に暮らしていた。


 「そこに、奴らが来たんでさぁ! 魔族の奴らが…」


 約1000年前、魔王率いる魔族の軍団が国土を蹂躙した。

 ドワーフは魔族と戦いながら、じりじりと北へ追い詰められていった。


 「人族や獣人族は魔族の奴隷にされたんですぜ。我らドワーフだけは戦い続けたんでさぁ。」


 「ドワーフの誇り高い歴史というわけだな。」


 私がそう言うと、ヴァン殿は我が意を得たりとうなづいた。


 ヴァン殿の得意げな顔に、遠い昔を思い出すようにしてギョーム殿が言った。


 「400年前、魔王は初代王アマテラスによって倒され、魔族はこの国を追われました。私はその当時、まだ小さな子どもでした。」


 ギヨーム殿の発言に誰もが驚いたようだ。

 私だって驚いた。

 

 「ギヨーム殿は初代王アマテラスの時代に生まれておられたのか?」


 「先生、エルフの平均寿命は千年です。五歳の時、私は一度だけ初代王アマテラスの後姿を見たことがあります。」


 「ほう、どうだったね?」


 「ただ恐ろしかったです。私は泣くことさえできず震えていました。」


 初代王アマテラス。魔王を倒し、魔族をこの国から追い落とした男か。

 いったい何者なのだ?


 「わたしたちエルフ族は初代王の手足となり、魔族の討伐に尽力しました。」


 「ギヨーム殿、我らドワーフの援軍についても忘れてもらっちゃ困りますぜ。」


 「憶えていますとも。魔王との決戦に際して、北からドワーフの騎馬軍団が大挙して現れたことを。わたしは勇気をもらいました。」


 初代王アマテラスによって、この国アマテラーザの歴史が始まった。

 魔族支配の時代は神話の霧の中だ。


 「あとはウエスピアとサウスティカはどうなっている?」


 私の問いに三成君が答えた。


 「レポートの五枚目と六枚目でござる。ウエスピアはモーリス公爵の治める土地。モーリスは元は海賊であったらしゅうござる。また、魔道具を使うことにとにも長《た》けておると聞いております。」

 

 「魔族との戦いでは水軍の機動力と魔道具で戦功があったわけだな。」

 

 「サウスティカのシーマ辺境伯爵領は南方の蛮族の土地と接しておりますゆえ、争いの絶えぬ地にござります。初代王アマテラスの副将を務めたシーマを始祖としておりまする。」


 「初代王の副将か。辺境伯に封ぜられたということは、強兵をもって知られていたということだ。」

 

 「ご明察! さすが先生でござる。これだけの説明で歴史を見抜いておられる。」


 


  

 「みなさん。」


 と、私は言った。


 「これでこの国の地理と歴史がおおまかに把握できました。私たちが来た世界はこの世界より400年以上進んだ歴史の中にあります。」


 「先生、あたしたちは未来から来たということなりか?」


 幸村君は驚いたように顔をしている。


 「そうだ、歴史の進歩にはある程度の法則がある。私たち召喚者は未来を知っているということだ。つまり、それが歴史チートなんだよ。」


 誰もが私の言葉にとまどっている。

 

 今日の会議はここまでだ。

 各人、今日の会議の情報を頭の中で整理して明日の会議に臨んでくれ。

 開散!

 

 私は会議室からみなが出ていくのを見守った。

 みんながこの国の未来について考え始めている。

 私には会議に臨席して一言もしゃべらない王女ツキヨミの目が、少し笑ったような気がした。



 ***  


 その夕刻、私は囚われの大公を訪ねた。

 城の地下室である。

 大公は地下の座敷牢に幽閉されている。

 貴人用の座敷牢だから衛生状態は悪くないが、粗末なものである。


 座敷牢に大公を訪ねるのは、これで三度目だ。

 初めて訪ねたとき、大公は怒り狂って私をなじった。

 私はスーツの下に隠した瓶ビールを取り出した。

 栓を抜くと、ビールが「シュワ」と泡をたてた。


 大公はつ(・)ば(・)を飲み込んだ。


 「飲むかい。」


 と言うと、大公は「おう」と、鈍い声で応じた。


 ビールを一口飲むと、大公は目を閉じて「うまい」と言った。


 二度目もビールを持って行った。


 だから、大公は私が来るとうれしそうにしているのだ。



 「飲むかい?」


 「おう」


 大公がビールを一口飲んだところで、私は話を切り出した。


 「大公よ、王家に統治能力が無いというのが分かったよ。」


 「いまさら分かっても遅い。魔王よ、おまえはどうしようというのだ。」


 「この国を生まれ変わらせるだけよ。」


 「そんなことができるのか…。」


 「できる。ただ時間がかかる。」


 「ふん」と大公は鼻で笑って、静かに語り始めた。


 「平和をな、わしは平和を望んでおった。

 先代の王、ヴァルゴ様とわしが築いた平和じゃ。

 なにものにも代えがたい。

 じゃが、女王の取り巻き連中は、わしを煙たがった。

 大公家を敵視し始めたのじゃ。

 だから、わしは力を蓄えるしかなかった。

 力を蓄えれば、王家と大公家は同格となる。

 我が子ガストンと、王女ツキヨミの婚儀を願った。」


 「だが、女王はそれを許さなかった。」


 私はそのことを言い、大公は話を続けた。


 「そうじゃ。このままでは、王家の力が衰え再び乱世になると思った。乱世になる前に、わしが取って代わらねばと思ったのじゃよ。」

 

 「大公よ、よくわかった。それだけ聞かせてもらえればいい。」


 そう言って私は立ち上がった。


 「魔王よ、もう行くのか?」


 「私は忙しいのだよ。」


 「もう少し、おまえと話がしたかった…。」


 私には大公が哀れに思われた。

 彼は戦いに負けただけだ。


 歴史は勝者が作る。

 敗者は悪者にされる。

 ほんとうの正義がどちらにあるのか?

 答えを与えることができるのは、後世の歴史家だけだ。


 そんなことを考えながら地上に出ると、日はとっぷりと暮れていた。

 蒸し暑いな。

 もう夏だ。


 私はスーツのジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めた。


 「あー、ビールが飲みたい!」

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