12,美食の宴
戦争で避難していた民衆が、グランローゼの城下町に戻ってきた。
大公との戦いで破壊された街には槌音が響き、再建の途上にある。
私は幸村君と三成君をともなって、視察に出ることにした。
二人は若侍の姿で、腰には二本の刀を差している。
三成君は城の外に出るのは初めてだ。
何もかもが物珍しいらしい。
「これが異世界でござるかー。」
好奇心で目が輝いている。
グランローゼ城の西には港町があり、たくさんの船が停泊している。
港は、国中からあらゆる物資が集められる商業地域なのである。
この世界は中世の末期を終えようとしている。
これからは近世に近づいていくはずだ。
近世は貨幣経済が発展する。
海運や商業は貨幣経済の原動力になる。
私たちは港町を視察しながら、そんなことを話し合った。
「お腹すいたなりねー。」
「もうお昼だな。どこかで飯でも食おう。」
「ヴァン殿から、おいしいシーフードレストランの情報を聞いてきたなり。」
ここは海に面した町だ。海産物が豊富なのだ。
私たちは「シェリード」という看板のかかったレストランに来た。
ここがヴァン殿が教えてくれた店だ。
テーブルにつくと、メニューが運ばれてきた。
メニューには料理の絵が並んでいる。
「これはエビフライみたいなのだ。あたしはこれにするなり。」
「これはカニではござらぬか。拙者はカニのスパイス焼きにするでござるよ。」
私は魚の塩焼きが食べたかったが、そういうメニューは無いらしい。
仕方がない、サーモンのムニエルにしよう。
料理が運ばれてきた。
城内では肉料理が中心だったから魚料理は久しぶりだ。
幸村君はエビフライをパクつき、三成君はカニをほじっている。
私はフォークとナイフでムニエルを切り分け口に運んだ。
うまい、実にうまい。
付け合わせには、サラダと穀物の油炒めがついていた。
これは何だ?
穀物を一口食べたとき、私の味覚に電流が走った。
「これは!」
「先生、どうしたなりか?」
「幸村君、この店の亭主を呼んでくれ!」
「どうしたなりか、先生。なんか怖い顔になってるなりよ。」
「私は食べ物のことになると人格が変わってしまうことがあるのだ!」
しばらくして、店の亭主が現れた。
「これはこれは、お城の方々でございますか。当店の料理に何か不都合でもございましたでしょうか?」
「亭主! おまえは私に何を食わしているのか分かっているのか!」
私は亭主をギロリとにらんだ。
「はい、サーモンのムニエルにございます。」
「お前は何も分かっておらん。この白い穀物だ。これは何だ?」
「それはライスと申しまして南方から輸入しました食材にございます。」
…これはコメではないか。この異世界にコメがあったのだ。
「亭主! おまえはライスのほんとうの食べ方を知っているのか?」
「はい、このように油でいためて、少々塩を振ります。」
「愚か者め! お前はうまい物を食ったことがないのか!」
「はあ、そう申されましても…」
「厨房を貸せ!」
私は店の厨房に入った。
食材の中に、コメがあった。
私は鍋を借りて、コメを炊いた。
「亭主! サーモンを出せ!」
「はい、フライパンもご用意しましょうか?」
「フライパンなどいらん! 焼き網を出せ。」
サーモンの塩焼きを作るぞ。
こうして、白いご飯と、鮭の塩焼きが出来上がったのである。
「どうだ幸村君、三成君、久しぶりの日本食だ。」
「かーぁ、日本人に生まれてよかったなりー。」
「日本食は最高の御馳走でござるなー。」
いやぁー、久々の日本食に満足した。
「亭主! 世話になった。駄賃ははずませてもらうぞ!」
「はい、ありがとうございます。もしや、あなた様は高名な美食家の先生でございますか?」
「名のるほどの者ではない。うまい物を食いたければ、城の美食倶楽部に来るがいい。」
「へへーっ、またのお越しを!」
***
そうかー、ここは港町、魚介類の宝庫だ。
刺身が食いたい。
「お刺身なりー!」
港町の魚屋でタイに似た大きな魚を買った。
それから、エビとカニである。
これを城に持って帰って調理する。
料理は私の趣味なのだ。
城の厨房を借りたのだが、包丁の切れ味が悪い。
肉ばっかり切ってるからしかたがない。
刺身を切るには、繊細な切れ味が必要なのだ。
「三成君、金の魔法でこの包丁を研いでくれ!」
「承知でござる!」
<< 大一! 大万! 大吉! >>
三成君の詠唱で包丁が輝きだした。
これでタイを三枚におろす。
タイは皮がうまいのだ。
この皮を火であぶってウロコをパリパリにする。
身は生のまま、皮は火であぶって香ばしさを出す。
「幸村君、たのんだぞ。君の火魔法であぶってくれ!」
「承知なり! いいなりかぁー。いくなりよー。」
<< 臨! 兵! 闘!… >>
「まてまてまて、ここで炎の剣なんか撃つなよ。」
「分かってるなり。小さな火なりな。」
「調理用のガスバーナーくらいだぞ。タイの黒焼きなんて食いたくない。」
「ちょびっとの火なりね。いくなりよー。」
「いいか、皮だけだぞ、皮だけパリっと焼くのだ!」
<< 臨! 兵! 闘!… >>
-----ぶぉ!
「おお焼けた! 皮がパリパリだ!」
「お醤油がないのが残念なりね。」
「何を言う。タイは塩だ。塩で食べるのだ。愚か者めが!」
新鮮なエビは皮をむいて生で食う。
カニは鍋にする。
「日本酒が欲しいなり―!」
「白ワインで我慢しろ。」
魚介類に白ワイン。
私たちは厨房の片隅で酒を飲み、うまい物を食う。
グランローゼ美食倶楽部だ。
魔道不覚悟に私たちは背いてしまった。
魔法を私利私欲どころか、食欲のために使ってしまったのだ。
オルス卿、許してくれ。
私たち日本人にはささやかな贅沢なのだ。




