11,召喚者は石田三成
幸村君は実に楽しそうに「戦国武将図鑑」のページを繰っている。
「そんな物、どこから持ってきたんだ?」
「召喚されたときの荷物に入っていたなり。」
「荷物と一緒に召喚されたのか?」
幸村君は、こくりとうなずいた。
私の場合は身一つで召喚されたんだがなー。
これはどういうことだ。
そいうえば、幸村君が着ているの市松模様の小袖と黒い袴だ。
こんな衣装がこの世界にあったのか?
「これも荷物の中に入ってたなり。」
そういえば、幸村君は戦国武闘伝のプレー中に召喚されたんだったな。
戦国武闘伝は各武将のお着換えプログラムを実装している。
これも監修者の私が提案したものだ。
ゲームの気分を出すのに衣装は重要だからな。
要するに、このこの世界の魔法が召喚したのはゲーム上の存在なのか?
不思議だ。まぁ、不思議だから魔法なんだけどな。
これ以上考えても無駄だ。
「幸村君、お楽しみのところ申し訳ないが、召喚する戦国武将は決まったかね?」
「うーん、悩んでいるのだよ。」
「織田信長なんてどうだ?」
「信長様なんか呼んだら、この世界が根本的変わってしまうような気がするなり。」
「そうりゃそうかぁ。この世界には強烈すぎるな。」
「やはり頭が良くて忠誠心がある武将がをピックアップしてるけど、目移りして仕方がないなり。」
「竹中半兵衛、黒田勘兵衛、石田三成。頭脳明晰な武将と言えばこのあたりが代表だな。」
「竹中半兵衛君は線が細そうで、ちょっと不安なり。」
「黒田勘兵衛はあわよくば天下を伺いそうだしな。」
「そうなると石田三成君一択になるなり。でも三成君となると大谷刑部君も一緒に呼びたくなるのだ。」
「一人だからな。」
「それが問題なり。」
***
数日前、戦国武将を召喚したいという幸村君の希望にギヨーム殿が難色を示した。
「召喚魔法は膨大な魔力を必要とします。一部の例外はありますが、我々エルフ族の魔導士をしてかろうじて可能な魔法です。それに、召喚魔法は私の寿命を一年縮めることになります。」
なんと寿命を削る魔法なのか?
「しかし、エルフ族の寿命は人間の十倍くらいあると聞いたぞ!」
「はい、平均寿命は約千年と言われています。」
「千年の内の一年だったらいいじゃないか。」
「いや、わたくしは真田幸村殿の召喚で、すでに一年の寿命を削っております。」
「じゃあ、もう一年だけお願いできないだろうか?」
「もう一年だけですよ…」
交渉成立である。
ただし、おひとり様限りの条件付きだ。
***
召喚の儀である。
ギョーム殿は身を清め、神殿に籠った。
ここで一週間、詠唱を続け、魔力をドロワという魔石に注入していく。
ドロワは魔法の電池みたいなものらしい。
そして魔法陣の作成である。
魔導士たちが数人で精密な模様を地面に書き記していく。
これも神経を削るような作業のようだ。
神殿から出てきたギョーム殿は衰弱して見えた。
一週間、飲まず食わずで詠唱していたのだ。
ご苦労様である。
魔法陣の周囲に魔法電池ドロワが並べられ、準備完了だ。
あとは、月が満ちる夜を待つ。
三日後が満月の夜だ。
召喚の儀はおごそかに執り行われた。
魔導士たちが魔法陣の周りを取り囲み詠唱をする。
<< ドロワ オム カヤタ オン バラサ ソワカ >>
ギョーム殿が天を仰ぎ「召喚!」と叫び、魔導士たちが唱和する。
「「「「 召喚! 」」」」
ギョーム殿の頭上に光の粒子が集まり、異世界の扉が開こうとしている。
そして、ゆっくりと召喚者が降りてきたのだ。
魔法陣の上に降り立ったのは幸村君と同じようの小袖と袴姿の男だった。
小柄な男だと思ったが、よく見ると女だ。
「石田三成君なりか?」
召喚された女性はきょとんとしている。
幸村君の言うように、黒いケースが一緒に召喚されている。
ケースには、「大一 大万 大吉」の文字が刻まれている。
大一 大万 大吉
石田三成の旗印だ。
***
彼女の名前は佐和山美里、戦国武闘伝で石田三成になってプレイをしていたところを召喚された。
彼女は東京科学技術大学でロボット工学を学んだ理系女である。
日本でも有数の産業用ロボットメーカー、「アキハバラ・エレクトロニクス」に就職し、優秀な研究成果を残した。
しかしだ。彼女よりも成果を出していない同期の男性社員がどんどん出世して、彼女は取り残された。
ガラスの天井。
女性の出世には見えない天井があるということだ。
彼女は自暴自棄になり、会社を辞めようと悩みぬいていたらしい。
「どこか遠くへ行ってしまいたいと思ったでござるよ。」
佐和山君は力ない声で言った。
「そして、遠くへ来たわけだな。」
と私は言った。
「異世界でござるかぁ。生きなおしてみるのも面白いかもしれませぬな。」
そう言って、彼女は笑った。
なかなか可愛い笑顔だ。
私も含めて、今のところ召喚者は三名である。
その全員が戦国武闘伝に関係している。
これは何か意味があるのだろうか?
ギョーム殿に聞いてみたところ、
「わたくしは幸村殿に教えられた石田三成なる人物をイメージしただけです。」
と、いう答えだ。
イメージか、あいまいだな。
おそらく、この世界の魔法には検索エンジンのようなものがあって、勇者で検索すると戦国武闘伝に行きついてしまうのだろうと私は推論した。
***
三成君の魔法テストの結果、属性は「金」であることが分かった。
「金の属性か、どんな属性だ?」
ギヨーム殿が「面白い属性」だと言った。
「戦闘には不向きな属性ですが、様々な物を錬成できます。上級者になると、一本の鉄の棒から剣を錬成したりできます。」
「武器が作れるのか?」
「召喚者の魔力をもってすれば、どんな剣が生み出せるか楽しみです。」
さっそく、やってもらおう。
「三成君、詠唱の言葉を考えてくれ。魔法には詠唱が必要だ。」
「詠唱でござるか?」
しばらく考えてから、三成君は意を決したように鉄の塊に手を添えた。
<< 大一! 大万! 大吉! >>
「えい!」
三成君が気合を入れると鉄の塊が光を放ち、一本の日本刀が錬成された。
この刀は真田幸村にちなんで村雨と命名され、幸村君の佩刀となった。
***
それからしばらく、幸村君と三成君は親し気な関係になっていった。
同じ歴女同士で話は尽きないようだ。
私は先日の戦いでの幸村君の活躍を話してやった。
「いやぁー、幸村殿、すごいでござるよ!」
三成君は大喜びだ。
「これからは治部殿にも活躍してもらうなり!」
「ひゃぁー!」
三成君が妙な声を出した。
頬を赤らめているではないか。
どうしたのだ?
「幸村殿、いまの響きがものすごく良かったでござるよ。」
何のことを言っているんだ?
「その、治部殿という響きがたまらぬっ!」
石田 治部少輔 三成。
自部少輔は三成の官職名である。
大河ドラマなどでも「治部!」とか「治部殿!」と呼ばれるシーンが多い。
ようするに三成になりきっこしているのだ。
幸村君も目を輝かせている。
「あたしも呼んでほしいのだ!」
「では、いきまするぞ…、左衛門佐 どの」
「はぁぁぁぁ、すごく気持ちよかったなり。」
真田 左衛門佐 幸村
これも幸村の官職名だ。
「では、こちらももう一度いくなりよ…、治部どの。」
「左衛門佐どの!」
「治部どの」
「左衛門佐どの…、よいのぉ!」
おまえらいったいいつまで呼びあいを続けるつもりだ。
歴女の考えることはわからん。
ついていけん!
そんなところにギョーム殿がひょっこり顔を出した。
「お邪魔ではございませんか?」
三成君が目が輝やかして言った。
「これはこれは刑部どの、よう来られた、ささ、こちらへ。」
大谷 刑部少輔 吉継、
関ヶ原の戦いでは共に西軍として戦った石田三成の盟友である。
この時からギョーム・エクストン卿は大谷ギョームと名を改めることになったのだ。
「改めません!!!」




