9 勇者へ
あの後すぐ、俺たちは国王陛下と謁見することになった。
聞いた話だと、国王陛下は俺たちとの謁見をするためにすべての日程をキャンセルしたそうだ。それくらい、この事件を重く受け止めているらしい。
緊張する俺に国王陛下が言う。
「ケイスケよ。貴殿を正式にシェーンブルグ王国の勇者と認定する。息子の婚約者を救ってくれて、心から礼を言う」
王太子殿下も続く。
「本当にありがとう、グレーテルを助けてくれて。貴殿には王太子の名において、「スプーンマスター」の称号を授けよう」
スプーンマスター?
他になかったのか?それに勇者だと!?
思考が追いつかない俺に王太子殿下は言う。
「無理な頼みだとは思うが聞いてほしい。どうかグレーテルの呪いを解く手助けをしてくれないだろうか?我は誰よりもグレーテルを愛している。グレーテル以外の者と結婚することは考えられない。どうかこの通りだ」
王太子殿下に頭を下げられて、「嫌です」とは言えないだろう?
しかし、本当に大丈夫か?俺の武器はスプーンだぞ!!
勇者になって姫の呪いを解き、世界を平和にするなんて、しがないスプーンおじさんには荷が重すぎる。
謁見が終り、俺は王城の客室に案内された。
部屋でゆっくりしていたら、グレーテルお嬢様が訪ねて来て、頭を下げてきた。
「ケイスケ、すまぬ・・・厄介事を背負い込ませてしまって・・・」
「気にしないでください。グレーテルお嬢様を助けられただけで十分ですよ。それにあの時は、ああするしかありませんでしたしね」
「そう言ってもらえると有難い。それで今後のことじゃが・・・」
グレーテルお嬢様が言うには、ここまで急いで俺をシェーンブルグ王国の勇者にしたのは、俺の戦闘力を危険と判断して、どうせならこの国で囲い込んでしまおうと国王陛下が判断したかららしい。
王太子殿下は俺にすがる思いで、グレーテルお嬢様の呪いを解いてほしいと懇願したわけだが、国王陛下は俺を利用しようと画策しているようだ。そして、グレーテルお嬢様も・・・
「命の恩人であるケイスケを政治的に利用してしまって、すまぬ・・・」
グレーテルお嬢様の従者である俺を勇者として国に仕えさせる対価として、グレーテルお嬢様は正式に王太子妃になるそうだ。そして今後は俺のマネジメント業務を請け負うという建て前で、王城に住むことになったようだ。
「ケイスケの意に添わぬ依頼は極力断るようにする。どうしても断れない場合もあると思うが・・・」
「大丈夫ですよ。できることはやりますからね」
「それで悪いのじゃが、早速日程について相談させてくれ」
日程を確認して驚いた。
1ヶ月後に勇者認定式を大々的に行うようだ。
「いきなり勇者と言われても、王都の民衆はケイスケに馴染みがない。じゃから、スプーン曲げをしながら、地道に活動して民衆の支持を得る。活動先も大手商会や有力貴族だけでなく、孤児院や福祉施設も考えておる」
「今までと活動内容は変わりませんので、大丈夫ですよ。いきなり魔物討伐をさせられるかと思ってましたよ」
「それはおいおいになるじゃろう。今日はゆっくりしておけ。活動は明日からじゃ」
そして次の日から勇者としての活動がスタートした。
まあ、今までとほとんど活動内容は変わらなかったけどな。
★★★
勇者としての活動を開始して2週間が過ぎた。
「ケイスケよ。すまんが、魔物討伐もぼちぼちしてもらうことになった」
「やっぱりですか・・・」
「妾は反対したのじゃが、『スプーンを曲げるだけの芸人に高い金を支払うことはできん』と言われてしまってな・・・」
まあ、そうなるのも分かる。
だって俺の給料は、月に金貨200枚になったからな。日本円で月収200万円だ。スプーン曲げだけをする芸人に払っていい金額ではない。それにこの王都でも「勇者」と呼ばれず、「スプーンおじさん」と呼ばれているし・・・
「魔物討伐の件はお受けします。ただ、一人では無理です。最初は慣れた人の同行をお願いしたいのですが?」
「それについては、既に手配しておる。アンヌも同行させるが、専門家に依頼することにした」
因みに俺とグレーテルお嬢様の関係だが、従者と主人からタレントと芸能プロダクションの社長のような関係になった。グレーテルお嬢様が仕事を受けて来て、俺に割り振ってくれる感じだ。
俺の嫌がるような仕事は極力避けてくれているが、それにも限界があるだろうから、今回の話は受けることにした。それに折角この世界に来たのだから、戦闘とかも少しはしてみたいと思ったしな。
そしてやって来たのは、冒険者ギルドだった。
アルトナー伯爵領の領都クルンにもあるにはあったが、王都のギルドは比べ物にならないくらいの規模だ。多くの冒険者がひっきりなしに出入りし、併設されている酒場では、昼間から大宴会をしている冒険者もいる。
何度かここでもスプーン曲げをしたことがあり、気軽に声を掛けてくる冒険者もいた。
「おい!!スプーンマン!!いっちょ頼むわ」
スプーンマンか・・・
また新しい称号だ。
仕方なく、スプーン曲げを披露する。
「ケイスケ!!そんな飲んだくれは放っておけ。ギルマスルームに行くぞ」
酔っ払いの冒険者を振り払い、ギルマスルームに入った。
そこには、筋肉隆々でスキンヘッドの如何にも冒険者といった感じのおっさんがいた。説明によると、彼がギルマスのスタンリーさんらしい。
「おお、グレーテル嬢。そっちが勇者様だな?
話は聞いている。打って付けの奴らを用意したからな。おい!!入ってくれ」
ギルマスが合図をすると黒髪の小柄な女性と茶髪の少年が入って来た。
あれは!?
「コイツらは新人だがセンスがあるし、それになんと言っても、勇者様と同郷だからな」
黒髪の小柄な女性が杉本佳代さん、茶髪の少年が鈴木翔太君。
女神の神殿で、俺と最後まで女神の世話をしていた二人だった。
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