8 王都へ(覚醒)
この世界にやって来て半年が過ぎた。
特に代わり映えのしない日々を送っていた俺だが、今日は少し事情が違う。
グレーテルお嬢様と共に王都へ向かうことになった。というのも、グレーテルお嬢様は正式に王太子妃候補を辞退したわけではないそうで、王太子殿下のご機嫌伺いに向かうそうだ。
「こんな姿になっても、殿下は妾と結婚したいと言ってくれる。しかし、この体じゃ。今のままでは、王妃にはなれん・・・そろそろ結論を出さねばならんのじゃが・・・」
グレーテルお嬢様は、落ち込んでいる。
「お嬢様も苦労されているんですね」
「お前が気にすることではないぞ。お前はその芸で、人を笑顔にすればいいのじゃ。王都にも貧民街はある。そこで、いつもの芸をやってほしいのじゃ」
「もちろんですよ」
そんな話をしながらも馬車は進む。
俺たちに同行しているのは、従者筆頭のアルフさん、アンヌさんを含む護衛の騎士3名、それに御者の少年だ。かなりこじんまりしているが、アルトナー伯爵領の財政状況を考えてのことらしい。
「ケイスケのお蔭で財政状況は改善したが、無駄遣いはしたくないからのう」
しばらく街道を進んでいたところ、ドカーンという爆発音がした。馬車を停車し、すぐに周囲を確認したら、武器を持った盗賊団30人くらいに取り囲まれていた。こちらは護衛が3人、向こうには魔導士がいるようだし、普通なら勝てる相手ではない。
「ケイスケよ。お主だけでも逃げよ。狙いは妾じゃろう。とうとう直接行動に出てきたか・・・」
「大丈夫ですよ。俺も戦います。こんなこともあろうかと訓練をしてきましたからね」
それは本当だ。
実際、戦闘しなければならないことを想定して、試行錯誤してきた。だってこの世界には普通に魔物がいるし、戦争も頻繁に起こっている。スプーンの楯はそれなりに使えるけど、それだけでは心許ないからな。
アンヌさんが盗賊たちに警告する。
「アルトナー伯爵令嬢と知っての狼藉か!?即刻立ち去れ!!」
「だからだよ!!こっちは高い金を貰ってるんだ。この人数差だ。グレーテル嬢を置いて逃げるなら、他の奴は助けてやるぜ」
「我らを舐めるな!!お嬢様は死んでも守る!!」
グレーテルお嬢様は配下の者にも人気がある。見た目は幼女だけど、領民思いで優しい。今も騎士に下がるように言って、馬車から降りた。
「用があるのは、妾だけであろう?
妾を好きにするがよい。後の者は解放してくれ」
こんなの見せられたら、何とかしたくなるだろ!!
俺は馬車に隠れながら、集中する。
スキルレベルが上がり、今では30本のスプーンを出すことできる。
それがどうしたって?
俺は裏技を見つけてしまったのだ。
「出でよ先割れスプーン!!」
学校給食でしか使わないアレだ。社会人になってからは1回も使っていないが、試行錯誤の末、これには形状変換できることが分かった。どうやらスキルもスプーンと認識してくれるようだった。そして大きさだが、ショベルカーのアームくらいの大きさまで大きくできる。もちろん鋼鉄製で先割れスプーンのフォーク部分を可能な限り尖らせる。
そうなると結果は分かるだろ?
俺は30本の特大の先割れスプーンを盗賊団の頭上に出現させた。巨大な先割れスプーンが盗賊たちに降り注ぐ・・・
ここからは、あまり語りたくはない。大量殺人犯になってしまったからだ。ほとんどの死体が原型を留めていなかったしな。
★★★
それからのことだが、護衛の騎士の一人が王都まで状況説明に向かい、その後、多くの国軍の騎士がやって来て現場を確認していたのだが、皆が絶句していた。事情を聞かれ、やったことを再現してみせた。
国軍の騎士隊長が言う。
「これはヤバいぞ・・・こんなの騎士団が丸々全滅するレベルだ。すぐに国王陛下に報告せねば・・・」
自分でも思ったが、やり過ぎた・・・
咄嗟のことだったので、今できる最大限の大きさと強度で先割れスプーンを作ってしまったしな。
国軍からの事情聴取が終わった後にアンヌさんが声を掛けてきた。
「ケイスケ殿には感謝しても感謝しきれない。しかし・・・ちょっとやりすぎだな」
「それはそう思います」
「できれば、一人くらいは生け捕りにしてもらいたかったがな」
「初めての実戦でしたので、そんな余裕がなくて、すみません・・・」
よくよく考えれば、背後関係を捜査するために何人か生け捕りにすればよかったと思う。
「冗談だ。グレーテルお嬢様を守れただけでもよかった。本当に感謝する。ありがとう」
そんな話をしていたところにグレーテルお嬢様がやって来た。
「ケイスケ、本当にありがとう。妾だけでなく、配下の者を救ってくれて、礼を言う。しかし、分かっていると思うが、ちとやり過ぎじゃ」
「申し訳ありません・・・」
「ケイスケにはずっと仕えてもらいたかったが、そうはいかなくなりそうじゃ・・・」
クビってこと?
俺が困惑しているとアンヌさんが話を引き継ぐ。
「シェーンブルグ王国自体がケイスケ殿に目を付けたということだ。一伯爵領の従者にしておくには、貴殿は危険すぎるからな。まあ、これでグレーテルお嬢様が王太子妃に確定したと思っていいだろうが・・・」
つまり、魔法やスキルがあるものの、他の装備は地球でいう中世と大差ないこの世界において、俺の戦闘力は危険すぎるレベルということだった。
例えるなら、戦国自体にタイムスリップして、ミサイルをぶっ放すみたいなもんだからな。
そして、俺がグレーテルお嬢様に仕えるのではなく、王家に仕えることになれば、その対価としてグレーテルお嬢様が王太子妃になるということらしい。
こうして俺の、スプーン曲げをしながらのんびり暮らすという当初の目標は、呆気なく終了してしまったのだった。
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次回から新章となります。勇者となったケイスケの活躍は続きます。




