78 挑戦者
どうしたらいんだろうか?
勇者の町に帰還した俺は、カヨさんからは「早く何とかして」と言われ、ボルタ王女からは「いつ結婚式をするんだ?合同でするのか?」と質問され続けている。
ボルタ王女の扱いは、意見が分かれるところである。
グレーテルお嬢様は「国際問題になるから、そのまま結婚するように」との意見で、転移者の女性陣は「二人も妻がいるなんて、許せない」という意見だった。
俺だって、どちらかというと、後者の意見だけど・・・
だから俺の悪い癖で、この問題を先延ばしにしている。
そんな時、一人の若者が訪ねて来た。
青髪の20歳前後の小柄な青年で、名前はテムラン。騎馬王国からボルタ王女とともに勇者の町にやって来た従者の一人だ。
「ケイスケ殿。貴殿に決闘を申し込みます」
「はい?」
全く意味が分からない。
俺が彼に恨みを買うようなことをした覚えはない。とりあえず、詳しく話を聞いてみる。
「僕は昔からボルタ王女に想いを寄せていました。しかし、そこにケイスケ殿が現れて・・・ケイスケ殿の強さならと納得していましたが、どうも最近のケイスケ殿の態度を見ると、ボルタ王女を大切にしているとは思えません」
「そ、そんなことはないですよ・・・ボルタウンの管理を任せていますし・・・」
「僕には体よく遠ざけているとしか思えません」
それはそうなんだけど・・・
その時、名案が浮かんだ。
この決闘に負ければ、ボルタ王女を譲れるんじゃないのか!?
「分かりました。その挑戦、受けます」
早速、カヨさんに報告する。
★★★
我ながら名案だと思ったが、カヨさんにツッコミを入れられる。
「決闘でケイスケさんに勝てる人なんて、大陸中を探してもいませんよ。それに明らかに手を抜けば、それはそれで問題です」
それはそうだけど・・・もう受けると言ってしまったし・・・
とりあえず、グレーテルお嬢様に相談をした。
「いい案だと思いますよ」
「それはそうなんですが、どうやっても私が勝ってしまいますし・・・」
「だったらスプーンを使わなければいいだけです。私に考えがあります・・・」
なるほど!?
それなら何とかなる。
カヨさんにも伝える。
「流石はグレーテルお嬢様ですね」
「はい、それで騎馬王国の国王にも了解を得るとのことでした。決闘まで少し時間がありますから、もうしばらく待ってください」
1ヶ月が経った。
騎馬王国からは国王以下が勇者の町にやって来た。かなりの人数だ。そして町はというと、もうお祭り騒ぎだ。決闘で賭けまでする者も出てくる。
アイーシャ皇女が言う。
「年に1回でもこんなイベントをしてくれれば、収益が上がって言うことはないんですけどね」
「そうですけど・・・流石に年に1回決闘を受けていたら、身が持ちませんよ」
アイーシャ皇女も逞しくなったものだ。
今回の決闘は普通の決闘ではない。
騎馬王国伝統のヤーシュティで行う。ヤーシュティは、相撲と柔道を合わせたような競技で、相手を押さえつけて動けなくするか、相手が降参すれば決着がつく。打撃は禁止なので、安全に決着がつくのだ。
俺は、スキルレベルが上がったことで、それなりに身体能力も向上している。テムランは小柄な体型だ。多分、俺のほうが強いだろう。
俺の作戦としては、テムランを何度か投げ飛ばし、それでも向かってくるテムランに感動して、勝ちを譲るというものだった。
これなら、ボルタ王女を厄介払いしたくて、決闘を受けたと思われなくても済むからな。
決闘が始まる。
ここで予想外のことが起きた。軽くテムランを相手にするつもりだったが、俺のほうが投げられ続けた。すぐに降参しようと思ったが、流石に不味い気がする。散々人を集めて、あっという間に勝負がついたのであれば、「金返せ!!」とか言われるかもしれない。
こういう考えになるのも、領主という立場からだ。だから、もう降参したいけど、何度も立ち上がっている。
30分程、そんなことを続けていたが、次第に足がふらついてくる。もう限界に近い。もう十分だろうと思っていたところで、ボルタ王女が叫んだ。
「もうやめてくれ!!二人の私を思う気持ちは受け取った。だから・・・」
ここですかさず、言った。
「俺の負けです。潔くボルタ王女は諦めます。テムラン殿、よろしくお願いしますね」
「僕はヤーシュティのチャンピオンです。素人のケイスケ殿が勝てるわけがありません。僕はケイスケ殿の気持ちを確かめたかっただけなんです。正直、ここまでケイスケ殿が頑張るとは思いませんでした。ボルタ王女は譲ります」
あれ?
テムランがヤーシュティのチャンピオンだなんて聞いてないぞ。それにボルタ王女を譲ってくるなんて・・・
「いえいえ、ボルタ王女を幸せにできるのは、テムラン殿しか・・・」
「いえいえ・・・ケイスケ殿のほうが・・・」
ボルタ王女が怒鳴る。
「ちょっと待て!!貴殿らは、我を押し付け合っているのか?」
俺とテムランは顔を見合せた。
「テムラン殿のほうが、ボルタ王女のことを大切に思っていると感じました。よって、私はボルタ王女を諦めます」
「僕は誰よりも、ボルタ王女のことを愛しています。ケイスケ殿のような力はありませんが、それでも幸せにします」
大きな拍手が起こった。
騎馬王国の国王もこれを承認した。
「何はともあれ、ボルタの婿が見付かってよかった。勇者を倒したというだけでも、テムランは英雄だ。まあ、尻に敷かれるだろうがな・・・」
こうして長い間、頭を悩ませてきたボルタ王女の問題が、運よく解決したのだった。
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