64 呪いと加護
エルフの少女が来て3日後、サクラさんがやって来た。
グレーテルお嬢様が到着するまでにもうしばらくかかるから、接待要員として派遣されたのだ。
この効果は大きかった。
「じゃあ、今日は一緒にうどんを作りましょうね」
少し飽きかけてきたところだったので、サクラさんが来てくれて、本当によかった。今もエルフの少女は、楽しそうにうどんを捏ねている。これでしばらくはもつだろう。
それから3日後、グレーテルお嬢様が到着した。
今回は王太子殿下も同行されている。グレーテルお嬢様の呪いが解ける瞬間に立ち会いたいと無理をしてこちらに来られたようだ。
「到着が遅れたのは、我の所為だ。ケイスケよ、引き止めご苦労であった」
「気にしないでください。私が同じ立場でも、そうしたと思います」
「では早速、面会を致そう」
丁度その頃、エルノールさんとサチコさんもやって来た。
「ケイスケ殿、ご連絡ありがとうございます。始祖様にお会いできるのは、エルフ族としても、大変名誉なことですからね」
「ちょっと疲れたよ。徹夜で作業を終わらせてきたからね」
エルノールさんの同行者のエルフは、いつもよりも多い。
みんな楽しみにしていたのだろう。
★★★
領主館に全員が揃ったところで、エルフの始祖様ことエスタエーデル様が登場する。すぐにエルノールさんとお付きのエルフが平伏する。
「エスタエーデル様、私は現エルフ族の族長エルノールです。お会いできて、大変光栄でございます」
「うむ。苦しゅうないぞ」
続いて、王太子殿下とグレーテルお嬢様が挨拶をする。
その時、グレーテルお嬢様を見て、エスタエーデル様が訝しげに言った。
「うむ・・・お主、強烈な加護を持っておるな?」
「加護?呪いではなく?」
グレーテルお嬢様が驚愕の表情を浮かべている。
「加護じゃ。寿命を飛躍的に伸ばすものじゃ。その反動として、精神年齢が大きく年を取る。体に似合わず、老人のような精神状態になるのじゃ。まあ、妾がそれなのじゃがな」
原因は分からないが、グレーテルお嬢様の症状は、呪いではなく、加護だったようだ。
「その加護を取り除くことは、可能でしょうか?」
「できんことはないが、折角の加護じゃ。本当によいのか?」
「構いませぬ。妾は、こちらにおられる殿下と共に同じ時を生きたいのですじゃ」
エスタエーデル様は、少し考えて言った。
「ところで、妾は、どうしてここに来たんじゃったかな?年を取ると、物忘れが酷くなるのう・・・」
★★★
エスタエーデル様は、一度気になることがあると、他のことができない性分のようで、ずっと「ああでもない。こうでもない」と言っている。
仕方なく、最初に俺とした会話について話した。
「そういえば、エスタエーデル様は、私たちが火山や氷山などに立ち入らないことを怒っておられましたが・・・」
「そうじゃ!!妾は、お主らに様々なフィールドに挑戦せよ、と言いにきたのじゃ」
「なぜ、それが必要なんですか?」
「なぜと言われてもなあ・・・それは折角作ったんじゃから、挑戦してもらいたくなるのが、人情であろう?」
言っている意味が全く分からない。
俺もそうだが、ここにいる全員がキョトンとしている。
「作ったというのは、何をですか?」
「この草原も、森も、火山も、氷山も、砂漠もすべて、妾が作ったのじゃ」
何を言っているんだ、コイツ!?
そう思ったが、怒らせてはいけないと思い、冷静に話を続ける。
「凄く立派ですね。火山や氷山にもアースドラゴンみたいなのが、いるのでしょうか?」
「もちろんじゃ。ただ、森はポイントが足りなくなって、知り合いのワイバーンに頼んでいるのじゃがな」
知り合いのワイバーンって・・・
「もしかして、ノワールさんのことでしょうか?」
「知っておるのか?」
「もちろんです。呼んできましょうか?」
「そうじゃのう。久しぶりに会ってみるか」
全く意味が分からない。
ハイエルフの始祖に伝説のブラックワイバーンの組み合わせなんて、理解不能だ。
流石のグレーテルお嬢様も絶句している。
★★★
しばらくして、ノワールさんとネーラちゃんがやって来た。
「お久しぶりです、エスタエーデル様。エスタエーデル様のお蔭で、この子も無事に生まれました。ネーラ、挨拶をしなさい」
「ネーラです。初めまして」
「ほう・・・あの死に掛けの卵が、立派になったものじゃ」
「その節は、本当にありがとうございました」
どうやら、知り合いらしい。
会話の内容から推察すると、ネーラちゃんが卵の時に発育不良で、命の危機にあり、それを救ったのが、エスタエーデル様だったそうだ。そのことに恩義を感じたノワールさんは、森の守り神的な存在になったそうだ。
「エスタエーデル様が旅立たれてから、ずっとこの地を守ってきましたが、一体何から、何を守るのかを聞いておりませんでしたので、ご期待に添えたかどうかは分かりません」
「うむ、立派にやっておると思うぞ」
会話が途切れたところで、すかさず話に入る。
「あのう、話が全く見えないのですが、どういったご関係なのでしょうか?」
「そんなのダンジョンマスターとエリアボスの関係に決まっておろうが」
「まるで、ダンジョンみたいですね・・・」
「ダンジョンみたいではなく、ここは世界初のオープンフィールド型のダンジョンなのじゃ!!」
ここはダンジョンだったのか・・・
どおりで、無茶苦茶な自然環境だと思った。
でも、とりあえずはグレーテルお嬢様のことを何とかしないとな。




