61 降臨祭 2
とうとう降臨祭当日がやって来た。
多くの来賓が詰めかけ、町は異常な熱気に包まれている。
前日までの公式行事も無事に終了した。
これには、グレーテルお嬢様やアイーシャ皇女の活躍だけでなく、ランダス公国のリネール公子とフラレンス王国のステラ王女の活躍も大きい。各国の国王たちよりも、早めに現地入りしてもらい、各種調整に尽力してくれた。
普通なら絶対にもめ事に発展するところを上手く収めてくれたり、各国の外交が円滑に進むようにもしてくれた。彼らはまだ若く、彼らがそれぞれの国の中枢にいれば、この世界の将来は明るいと思えた。
そんな中、式典の前に馬鹿女神を呼び出す。
当初は、観衆の目の前で降臨させることを考えていたが、ぶっつけ本番は危ないと判断して、事前に呼び出して、最終チェックをすることにした。
前回と同じようにマリアさんが、降臨の儀式を開始した。
しばらくして、魔法陣が光輝き、馬鹿女神が姿を現した。
あれ?女神の他にもう一人いる・・・
「みなさん、お久しぶりです。あれ?やけに観衆が少ないですね?」
俺は事情を説明した。
「そういうことですか・・・分かりました」
「ところで、そちらの方は?」
「こちらは天使のルシルです。先日、私の実力と能力が認められ、中級神に昇格いたしました。中級神になると、秘書として天使が配属されるのです。細かい雑務は彼女に指示してくださいね」
紹介された女性は、なんと天使だった。
ルシルさんは、ザ・天使といった感じの見目麗しい女性で、背中に白い羽が生えている。
「エリス様の秘書を務めさせていただいております。ルシルです。よろしくお願いいたします」
礼儀正しい人だった。
挨拶もそこそこに打ち合わせを始める。俺たちが一生懸命に説明しても、馬鹿女神は上の空だった。
「大体のことは分かりました。後の細かいところはルシルに指示してください。それはそうとマリアさん、前回の続きのお話を致しましょう」
「はい!!エリス様」
馬鹿女神は、マリアさんと共に別室に移動した。
俺たちには分からないマニアックな話をするようだ。残された形になったルシルさんだが、驚きの言葉を口にする。
「お久しぶりです、皆さん。実は私も皆さんと同じ電車に乗っていた108人の乗客の一人なんですよ。すぐに転移させられたので、顔を見た程度でしょうが・・・」
全く見覚えがないなあ・・・
「ところで、どうして天使を?」
「実はですね・・・」
壮絶な経験をされたようだ。
ルシルさんが転移したのは火山の火口だったそうだ。そして、転移3秒後に短すぎる第二の人生を終えたそうだ。
「それからですが、親切な神様に拾われました。転移してすぐにこの世を去ったことがトラウマになってしまい、新たな人生に不安を感じていたのですが、その神様に相談したところ、落ち着くまで天使でもやってみないかと言われまして・・・」
ここにも馬鹿女神の被害者がいたようだ。
馬鹿女神に殺され、今度は馬鹿女神の下で働くなんて、ルシルさんは、一体どんな気持ちなんだろうか?
「本番まで、時間がないんですよね?早速打ち合わせを始めましょう」
そこからは話が早かった。
元日本人で社会人経験もあるようだったので、順調に進んで行く。
「皆さんの要望は分かりました。最大限協力させていただきます。それと、エリス様は、お酒や食べ物類は、かなり気に入っておられますので、心配はないと思います」
★★★
メインイベントの女神降臨が始まる。
実際は別室に控えている馬鹿女神が、魔法の演出を使って、登場するだけだけどな。
打ち合わせどおり、女神が登場すると大歓声が起きる。
馬鹿女神も満足そうだ。
そこに打ち合わせどおりにマリアさんが問いかける。
「エリス様、他種族や異教徒にどう接すればいいのでしょうか?」
厳かに女神は答える。
これだけ見れば、立派な神様に見えるんだけどな。
「種族が違うから、信仰が違うからという理由で、迫害してはなりません。相手の立ち場や信仰を尊重しましょう。きっと良い未来が待っているはずです」
これにはどよめきが起きる。
元奴隷の獣人や亜人たちは大喜びし、反対に教会の関係者は頭を抱える。だって、今まで自分たちが主張していたことが、全否定されたからな。
「この町は素晴らしい。信仰も種族も違う者たちが共存しています。その成果を私に見せてください」
興奮冷めやらぬ中、エリスブランドの認定式が始まる。
馬鹿女神の前にエリスブランドの商品が所狭しと並べられる。
「なんと美味しいお酒なんでしょう。それにこちらのおつまみと合わせると、更に美味しい・・・」
豪快に酒を煽り、燻製肉にかぶりつく。
神様的にはOKなのか?
そんな心配をよそに女神は更に酒を煽る。
しばらくして、馬鹿女神は呂律が回らなくなってきた。
ルシルさんが言う。
「エリス様は、お忙しい神様です。今日のところはこれで失礼いたします。皆さんが平和に幸せに人生が送れるように、私もエリス様も心から祈っております」
しばらくして、ルシルさんと馬鹿女神は消えてしまった。
少し予定とは違うけど、エリスブランドの許可も出たし、多種族共存の教えも伝わった。とりあえず、合格と言っていいだろう。
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