6 夜会 2
とうとう夜会が始まった。
今回は子供たちを主体にした会なので夜間の開催ではなく、昼過ぎから開始することにした。会場も中庭でガーデンパーティー形式にした。そして俺はというと・・・
「レンナ様!!包丁を振り回してはいけません!!ブルーノ様、きちんと量を計ってください!!」
子供たちに翻弄されている。
従者や使用人の子供では上手くいったが、貴族の子供は我儘でやりたい放題だ。堪らず、グレーテルお嬢様が一喝する。
「お主ら!!いい加減にせよ!!きちんと言うことを聞くのじゃ!!」
グレーテルお嬢様に叱られたことで、何とか大人しく従ってくれた。
結局、何をしているかというと子供たちに料理をさせている。子供が作った料理であれば、多少味が悪くても褒めてくれるしな。まあ、メニューはハヤシライスとバーベキューだから失敗のしようがないんだけどな。
本当はカレーライスを作ろうと思っていたけど、スパイスが用意できなくてこうなった。まあ、似たようなもんだし大丈夫だろう。
調理が進むにつれて、次第に子供たちも一生懸命になっていく。
「結構楽しいな」
「出来上がりが楽しみだわ」
「絶対美味しいわよ」
料理が出来上がったところで、大人たちが会場にやって来る。
子供たちは嬉しそうに出来上がった料理を親たちに持って行く。
「お父様!!これはハヤシライスといいます。美味しいですよ」
「この肉は私が焼いたのよ」
「味は保証しますよ」
親たちは嬉しそうに子供たちが持ってきた料理を食べている。
参加者の多くはグレーテルお嬢様にお礼を言っている。
「素晴らしい経験をさせてもらった。礼を言う」
「あの子にこんなことをしてもらったのは、初めてよ」
「ウチもだ。信じられん・・・」
ある程度お腹が落ち着いたところで、俺は衣装に着替えて登場する。
「スプーンおじさんがやって来たよ!!3・2・1・・・ハイ!!」
俺はスキルで出したスプーンをいつものように曲げる。いつも通り、子供たちから歓声が上がる。
そこからはいつもどおりだ。かなり場数を踏んだことで、トークも上手くなり、会場は大盛り上がりだ。例のごとく、子供をアシスタントにしてスプーン曲げやスプーンを使った手品を披露していく。
大人たちも子供たちが大喜びしているのを見ながら、楽しんでくれていた。
最後の演目が終る。
会場からは割れんばかりの拍手が鳴り響く。
「もっと見たかったな」
「次はいつやってくれるの?」
「我が領に来てやってほしい」
子供たちからは、もっとやってほしいという声が上がる。
大成功と言っていいだろう。後はグレーテルお嬢様にお任せして、俺は裏方に戻ろう。
★★★
そう思っていたところ、事件が起きた。
銀髪のロング、きつい目をしたご令嬢が声を上げた。コローナ・ブロンベルク侯爵令嬢だ。懸案事項として、彼女が何らかの妨害工作を仕掛けて来ることはある程度予想していた。
グレーテルお嬢様や俺を含めた従者たちに緊張が走る。
「お子様用の料理を食べさせられ、挙句の果てには子供騙しの余興を見せられて、一体何を考えているのかしら?体が幼くなれば、考え方も幼くなるのかしらねえ・・・皆様も付き合い方をお考えになったほうが、よろしくてよ」
会場は静まり返り、俺たち従者は殺気立つ。
このコローナ嬢は、グレーテルお嬢様に呪いを掛けた犯人ではないかと噂されている。グレーテルお嬢様の専属護衛のアンヌさんは拳を握りしめ、必死で怒りを耐えている。それでも、小声で悪態をついていたけど・・・
「アバズレ女め。どの口が言っているんだ・・・」
俺はアンヌさんを宥める。
「アンヌさん、聞こえたら不味いことになりますよ。ここは俺に任せて下さい」
俺だって腹が立っている。
グレーテルお嬢様は本当にいい方だし、彼女が王太子妃となったら、この国はもっと良くなると思う。コローナ嬢がグレーテルお嬢様に嫌がらせをしているのは、自分が王太子妃になりたいからだ。こんな奴が王太子妃になったら、絶対に国は良くならないだろう。
俺はコローナ嬢の前に歩み出て、声を掛けた。
「コローナ様、どの辺りが子供騙しなのでしょうか?」
「スプーンを曲げるだけしょ?誰だってできるわよ」
「そうですか?だったら曲げてみてください」
俺はスキルで出せる最高強度のスプーンを出現させた。材質は、鋼鉄。それをコローナ嬢に手渡す。
「多分、曲げることはできませんよ」
コローナ嬢が、必死で曲げようとするが曲がらない。怒ったコローナ嬢は、護衛を呼び出した。大柄で筋骨隆々の護衛が必死で曲げようとするが曲がらない。
「曲がりませんよね?ブルーノ様、少しお手伝いをしてくれませんか?」
今回のイベントを通じて、仲良くなったフンデル子爵家のご子息であるブルーノ様を呼び寄せた。軽く耳打ちをする。
「よし!!僕が曲げてやるよ。3・2・1・・・はい!!」
一瞬でスプーンが曲がる。
会場は大盛り上がりだ。更にローリング子爵家の双子メリダ様、ロイド様にも協力してもらって同じようなことをさせた。更に会場は盛り上がる。
コローナ嬢を見ると真っ赤な顔で、護衛を叱りつけている。
俺はここで閃いた。
「コローナ様、コローナ様にも少し協力していただきたいのです。見たところ、コローナ様には才能を感じますので・・・」
少しコローナ嬢の表情が明るくなる。
「あら貴方、分かってるじゃないの」
多分、自分を目立たせてくれると思っているのだろう。
まあ、目立つことには目立つけどな・・・
俺はコローナ嬢に耳打ちをする。
「分かったわ。こう言えばいいのね?出でよスプーン!!」
そうしたところ、コローナ嬢の口から大量のスプーンが吐き出される。
子供たちは大ウケだが、大人たちはドン引きだ。
「貴方!!何を・・・ウップ・・・ウエ・・・」
何かを喋ろうとしたところで、またスプーンを口から出現させる。
この国では、口から物を出すのは最大級のマナー違反だから、コローナ嬢は令嬢として最大級の辱めを受けていることになる。
「もう気分が悪いですわ!!私はこれで帰ります!!」
怒ってコローナ嬢は会場を後にした。コローナ嬢が去った会場では、大人たちも笑い始めた。
「傑作だな」
「あの高慢ちきなコローナ嬢が、ああなるとはな」
「だが後が怖いぞ」
そんな中。アンヌさんに声を掛けられた。
「ケイスケ殿、流石にやり過ぎでは?まあ、胸がすく思いだったがな」
しばらくして、グレーテルお嬢様がやって来た。
かなり怒っている。
「ケイスケ!!妾が、あれ程『口からスプーンは出すな』と言ったのを忘れたのか!?」
「もちろん覚えてますよ。でも「口から出すな」とは言われましたが、「口から出させてはいけない」とは言われてませんけど・・・」
まあ、屁理屈だけど・・・
「もうよい!!ケイスケ、お前はしばらく減俸じゃ。反論は認めん!!」
減俸は正直辛いけど、まあ仕方がない。
それに俺をこの場で叱らないと、最初からコローナ嬢を嵌めようとしたと思われても困るからな。グレーテルお嬢様も仕方なく俺を叱ったのだろう。
去り際、グレーテルお嬢様が小声で言った。
「感謝する、ケイスケ・・・じゃが、こんなことは二度とするなよ」
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