5 夜会
夜会の前にアルトナー伯爵領とグレーテルお嬢様を取り巻く環境を少し話しておく。
グレーテルお嬢様は、シェーンブルグ王国の王太子妃候補だ。
アルフさんが言うには、呪いで幼女の姿にされてしまったようで、この姿になる前は、それそれはお美しいご令嬢だったそうだ。それに王太子殿下もグレーテルお嬢様のことを憎からず思っており、国王もグレーテルお嬢様のことは気に入っているそうだ。だったら、何の問題もないと思うのだが、そうはいかない。
他の王太子妃候補から恨みを買うことになる。
特に露骨に嫌がらせをしてくるのは、コローナ・ブロンベルク侯爵令嬢だ。何かにつけて、グレーテルお嬢様をこき下ろしているらしい。そして、グレーテルお嬢様が幼女の姿になってからは、更に動きが活発になった。
アルトナー伯爵領に対し、実家の権力を使って経済封鎖を行っている。グレーテルお嬢様が幼女の姿になり、王太子妃候補から外れて、コローナ・ブロンベルク侯爵令嬢が正式に王太子妃になるという噂もあり、渋々ブロンベルク侯爵家に協力する貴族も多いという。それで、アルトナー伯爵領の財政状況はかなり悪化している。
アルフさんが涙ながらに語る。
「お嬢様は誰もが認める王太子妃候補で、婚約間近でした。それが呪いに掛けられてこんなお姿に・・・本当にお優しい方なのです。幼女の姿になってからは、それまでお嬢様にすり寄ってきた取り巻きたちが一斉に離れてしまい、求心力も地に落ちてしまっているのです。その所為でアルトナー伯爵領も窮地に立たされ、少しでも求心力を高めようと、ケイスケ様にお願いした次第なのです」
ここで夜会の話に戻るのだが、グレーテルお嬢様が夜会を開く目的は自身の求心力を高め、少しでも財政状況を改善するためだ。
「分かりました。それでは夜会を通じて特にこちらの陣営に引き込みたい貴族をリストアップしていただけますでしょうか?」
「リストは用意しております。最低でも、こちらの三家が味方になってくれれば・・・」
カッテ男爵家、フンデル子爵家、ローリング子爵家はアルトナー伯爵領と隣接している。こちらの三家が味方になってくれれば、財政状況は大きく改善するという。
ただ、俺がいくらスプーン曲げを見せたからといって、必ずこちらの味方になってくれるとは思えないんだよな・・・
「もうちょっと詳しい資料はありませんか?」
「と言いますと?」
「特にこの三家を中心に夜会に参加するのは、どのような人物で何が好みなのか、また家族構成なども教えてもらいたいのです」
「分かりました。すぐに手配します」
次の日には、資料を手渡された。
資料を見ながら、思案する。夜会というものは、どうも堅苦しいもののようだ。着飾ったご令嬢や紳士が集い、自慢話や策謀を巡らす。サラリーマン時代の忘年会とは全く違う。当たり前だけど・・・
俺の強みは、子供に絶大な人気があることだ。
でも、着飾ったご令嬢や紳士へのウケは未知数だ。演目を変更したほうがいいのか?
待てよ・・・
資料を再度確認する。
カッテ男爵家、フンデル子爵家、ローリング子爵家にはいずれも10歳前後の子供がいる。それに参加予定の他家にも・・・
普通の夜会では子供は出席できないようだが、だったらそれを逆手に取ろう。
「アルフさん。少し奇抜なアイデアですが、子供が楽しめる夜会をコンセプトにしてはどうでしょうか?」
「子供が楽しめる夜会ですか・・・そんな夜会は聞いたことはありませんが・・・」
「私の祖国のことわざに「将を射んとする者はまず馬を射よ」というのがあります。まずは私のスプーン曲げで子供たちを懐柔し、それからその親でもある領主たちを味方につけてはどうでしょうか?」
少し考え込んだアルフさんは言う。
「面白いアイデアではあります。ただ、私の一存では決められませんので、一度お嬢様に伺いを立てます」
★★★
早速、お嬢様に説明をするとあっさりと承諾してもらった。
「ふむ・・・「将を射んとする者はまず馬を射よ」か・・・ケイスケの家系は武人の家系か?」
「い、いえ・・・」
「よし、その案で進めてくれ。普通の夜会を開いたとて、上手くいくかどうか分からんからのう。ここはケイスケに賭けてみよう」
「ありがとうございます」
「思いっきりやるがよい。但し、口からスプーンを吐き出すなよ」
それから、企画書を作成する。
この辺はサラリーマン時代と同じだ。これなら接待でホームパーティーを開いたことは何度もあるので、何とかなる。ホームパーティーで結構大事なのは、子供を退屈させないことだからな。
退屈して、いたずらを始める子供ほど、厄介な者はいない。それに今回は貴族のお子様だしな。
次の日には企画書を書き上げた。
グレーテルお嬢様も流石に驚いたようだ。
「こんなことは、ケイスケの祖国では普通のことなのか?」
「そうですね。特に親御さんは喜びますよ」
「ふむ・・・まあよい。一か八かやってみよ。責任は妾が取る」
承認はいただいたが、こちらの世界ではかなり珍しいことなので、リハーサルを行うことにした。従者や使用人の家族を呼び、企画書に沿って進行していく。思った以上に盛り上がっていた。
「ここまで盛り上がるとは、妾も思わなんだ。この調子で本番も頼むぞ」
グレーテルお嬢様はご満悦だ。
しかし、慌ててやって来たアルフさんの報告を聞いて、表情が一変する。
「なに!?奴が来るというのか?」
「そうでございます。どこかで話を聞いて、強引に・・・」
「爵位はあちらが上じゃ・・・断るわけにもいかんしな・・・」
アルフさんから聞いたところ、グレーテルお嬢様に嫌がらせをしている張本人であるコローナ・ブロンベルク侯爵令嬢が夜会にやって来るようだ。グレーテルお嬢様の味方を増やさせないためだろう。
「ケイスケよ。お前が気にすることではない。お前は夜会を成功させることだけを考えてくれ。たとえ奴の所為で失敗するようなことになっても、構わん」
サラリーマン時代の接待でも、迷惑な客がやって来ることは多々あった。多少のトラブルなら何とかなるんだがな・・・




