4 従者として
グレーテルお嬢様の従者見習いとなった俺だが、スプーン曲げのほかに文官の仕事も手伝うようになる。スプーン曲げだけをして給料を貰うなんて気が引けたからだ。この辺は社畜根性が抜けきっていないところだ。だって、月給が金貨50枚(日本円で約50万円)だからな。それもスプーン曲げは多くても週に3回程で、時間も長くて2~3時間だし・・・
従者見習いになって1週間、すぐに正式に従者として採用された。
「ケイスケは本当に頼りになる。父上もいい人材を従者にしたと言って大喜びじゃ。これからもずっと妾に仕えてくれ」
「ありがとうございます」
スプーン曲げよりも、文官としての能力を評価されたようだ。まあ、これでもサラリーマンとして20年近くやってきたからな。事務仕事なんて、そんなに大きく違わない。
でも本業はスプーン曲げだ。今日も今日とて、スプーン曲げを披露する。今日の相手は孤児院の子供たちだ。グレーテルお嬢様は、福祉活動にも力を入れていて、貴族や商人を相手にスプーン曲げをするより、孤児院や学校などでスプーン曲げを行うほうが多い。
サラリーマン時代、上司には数字のことしか言われなかったことと比べると、いい上司に恵まれて、よかったと思っている。
孤児院に着くと早速、子供たちがグレーテルお嬢様に群がってくる。グレーテルお嬢様は孤児院の子供たちからも慕われているのだ。
「皆の者!!今日は凄い者を連れて来たぞ!!楽しむがよい!!」
「「「やったあ!!」」」
大歓声が上がる。
満を持して、俺が登場する。最初は「あまりハードルを上げないでください」と思ったけど、場数を踏み、最近は自信がついてきた。
「僕はスプーンおじさんのケイスケだよ!!このスプーンに魔法を掛けると・・・ほうら、このとおり!!」
スキルで出したスプーンを子供たちの前で曲げる。
「凄い!!」
「何で曲がるの?」
「魔法?」
子供たちは興味津々だ。今日もツカミはOKだ。
一頻り、スプーンを曲げた後は、子供たちからアシスタントを募集した。これは観客を巻き込むことで、もっと盛り上がると宴会芸の本に書いてあったから実践している。実際、どこに行ってもウケはいいからな。
「じゃあ、スプーンおじさんを手伝ってくれる人は手を挙げるくれるかな?」
「「「ハイハイハイ!!」」」
すべての子供の手が上がる。
その中で12歳くらいの獣人の少女を選んだ。
「お名前は?」
「レオナです」
「じゃあ、僕の言ったとおりに魔法を唱えてくれるかな?」
俺は、予め用意していた箱の中にスキルで出したスプーンを入れ、箱の蓋を閉める。レオナちゃんに耳打ちをする。
「じゃあレオナちゃん、魔法を唱えてみて」
「はい。消えろスプーン!!」
蓋を開けると、スプーンが消える。子供たちから大歓声が上がる。
再度蓋を閉めて、レオナちゃんに合図をする。
「出でよ、スプーン!!」
蓋を開けると、あら不思議・・・スプーンが入っていた。
まあ、スキルで出したり、消したりしているだけなんだが、子供たちには大ウケだった。アシスタントに選ばれたレオナちゃんはというと、他の子供たちに囲まれて、質問攻めにされていた。
「どうやったの?」
「教えてよ、レオナちゃん」
「凄いよ!!」
そして最後は、口から大量のスプーンを出現させた。日本で口からトランプを出すマジシャンの真似をしたわけだ。
子供たちには大ウケだったが、孤児院の院長やグレーテルお嬢様は渋い顔をしていた。
俺の出番が終ったところで、再びグレーテルお嬢様が壇上に上がる。
「今日は楽しかったであろう?じゃが、これで終わりではないぞ。見たこともない菓子を用意してやったぞ。ケイスケを見てみよ!!」
俺は他の従者たちともに専用の魔道具で綿あめを作り、子供たちに配る。
「凄い!!雲を食べてるみたい」
「雲って甘いんだ・・・」
「これは雲じゃないぞ・・・でも、何だろうこれは?」
綿あめは、砂糖を熱して個体から液体にする。それを空気で冷やして再び糸状に固まったところを棒か何かで巻き上げればできあがりだ。こちらの世界に電気はないけど、魔法や魔石があるので代用できた。それに砂糖は現代日本よりは貴重品だけど、それなりには流通している。
こちらもかなり評判が良かった。
子供たちも大喜びだし、グレーテルお嬢様も満足そうに見ている。今日も大成功だ。
★★★
帰りの馬車の中で、グレーテルお嬢様から質問を受けた。
「ところでケイスケ、助手に獣人の少女を選んだのはどうしてじゃ?」
「それはですね・・・」
これは昨日、孤児院に打ち合わせに行ったときに院長と話をして思いついたことだ。レオナちゃんは孤児院に入所したばかりで、更に獣人であることから、他の子供たちと打ち解けられずにいるようだった。院長から「レオナには他の子供たちと仲良くしてもらいたい」と言われて、ステージに上げた。
俺がしたことが何かのきっかけになればと思ってだ。
「なるほどのう・・・」
「どんな仕事も事前のリサーチは大事ですからね。スプーン曲げの技術も大事ですが、一番はみんなに楽しんでもらうことですからね。綿あめを作ったのもその一環です」
実は、スプーン曲げと綿あめのセット販売は以前から考えていた。だっておひねりだけだと、収入が不安定だからな。昭和の紙芝居屋と同じビジネスモデルだ。まあ、そんなことをすることもなく従者になったんだが・・・
少し考え込んだグレーテルお嬢様は言った。
「では、ケイスケには今度の夜会の総合演出を任せよう」
「そ、そんな・・・私は夜会が何かも、よく分かっていませんよ」
「心配せずともよい。サポートにはアルフを付けるからのう」
アルフさんというのは、グレーテルお嬢様の筆頭従者で、落ち着いた、如何にも仕事ができる感じの老紳士だ。常にお嬢様と一緒に行動している。
「私もケイスケ殿が総合演出をするのは賛成です。きっと素晴らしい夜会となることでしょう。夜会の基本的な流れや注意点などは、しっかりご教示しますよ」
こう言われては、断れない。
「分かりました。お受けいたします」
「うむ、それで妾から言いたいことが一つある。絶対に口からスプーンは出すな。いいな?」
詳しく聞くと、この国では口から物を吐き出すのは、非常に下品で最大級のマナー違反らしい。
「ケイスケの祖国では、口から物を出すのは崇高な行為かもしれんが、ここではやめてくれ」
そんなことはない。口から物を出すのを推奨している国なんて、地球上にもないはずだ・・・多分。
「分かりました。口からスプーンは二度と出しません」
「うむ、それ以外は自由にしてくれていい。じゃが、絶対に口からスプーンは出すなよ」
グレーテルお嬢様は何度も念を押してきた。
そこまで言われたら、フリだと思ってしまう。芸人が熱湯風呂の前でよくやっている「押すなよ、押すなよ、絶対に押すなよ」というやつだ。
でもやったらクビだろうな・・・
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