3 俺はスプーン曲げで、生きていく
俺が転移したのは、シェーンブルグ王国アルトナー伯爵領、その領都クルンという町だった。街並みは中世ヨーロッパ風で、見た感じ西欧人が多く、中には獣人やエルフのような者もいた。
当面は女神に貰った金貨10枚があるので、生活には困らない。流石にスーツ姿では目立つので、それっぽい服を買い、着替えた。それと女神の計らいなのか、言葉も通じるし、文字も読めた。その辺はきちんと仕事をしていたんだなと思う。
屋台でホットドッグのような物を買い、広場のベンチに腰掛けて、物思いにふける。
これからどうすればいいんだろうか?
性能のいい神器を持っている奴らは、冒険者として生きる道もあるだろうけど、俺は何たって、スプーンだからな。今のスキルで最大限大きくしても、工事現場で使う普通のスコップくらいにしかならなかった。間違いなくスコップの劣化版だ。
まず考えついたのは、無理にスプーンで戦わないくてもいいんじゃないか?ということだった。
でもすぐに却下した。この年齢で今更剣術を習ったとて、到底「大いなる悪」に勝てるレベルになるとは思えない。この世界には魔法があるようだが、それを頑張って身に付けても、ちょっと火の玉が出せるくらいだしな・・・
だったらどうする?
108人も神器を持った奴がいるんだから俺一人、サボってもバレないんじゃないだろうか?
あの女神のことだ、絶対に108人を管理することなんてできない。だったら、世界平和のために頑張っている雰囲気を出しながら、俺以外の誰かが「大いなる悪」を討ち倒すのを待てばいいんだ。そんなことを思っている奴は、俺だけじゃないだろう。
だって、「高枝切りバサミ」のおばちゃんが、「大いなる悪」を討ち倒すところなんて、想像もつかないからな。
となると、何か仕事をして、生活できるようにしないとな。
女神に貰った金貨があれば、1ヶ月は余裕で生活できるから、その間に何とかしないといけない。とりあえずは、スキルの確認をしてみようか。
まず分かったのは、自在にスプーンを出したり消したりできるということだ。これは便利だ。神器がスプーンじゃなかったら、かなり有用だと思う。俺も剣や槍が、よかったなあ・・・
無い物ねだりをしても仕方がないので、引き続きスキルの確認を行う。
スプーンの形状だが、ある程度自由には変えられるが、誰もがスプーンだと認識できる形以外には、ならなかった。
チッ!!剣のようなスプーンにしてやろうと思ったけど、駄目だったか・・・
そうなると、フォークやステーキナイフだと、結構使えるかもしれない。切れ味をよくしたら、ステーキナイフなんて、その辺の剣よりも強いだろうしな。
クソ!!スプーンなんて、ハズレ中のハズレじゃないか!!
ただ、誰しもがスプーンと思う形であれば、自由に曲げたりはできるようで、最悪、最大まで、すくう部分を大きくして、柄の部分を曲げたら、楯にならなくはない。ただ、それが何になるんだとは思うけど・・・
そんなことを繰り返していたら、騒ぎが起きた。
子供たちが俺を指差して、騒ぎ出した。
「あのおじさん凄い!!」
「スプーンを曲げてるよ!!」
「魔法使いかな?」
それに釣られて、大人も集まり出した。
あれ?これなら、いけるんじゃないか?
俺は、集まって来た野次馬に語り掛けた。
「私はしがない旅芸人のケイスケ!!これからちょっとした芸をご披露させていただきます。気に入られましたら、少しばかりの心付けをいただければ、幸いでございます!!」
それからは意外に盛り上がった。レベル的には、忘年会の宴会芸レベルだけど、それでもスプーンは自在に曲がるからな。
子供が言う。
「もっと他のも見せてよ!!」
「いいけど、おじさんもお腹が空いたから、どうしようかな?」
すると子供の母親が出てきた。
「だったら銀貨1枚でどうだい?何か見せてやってくれよ」
銀貨1枚は、日本円で約1000円だ。意外に評価されている。俺としては銅貨1枚(約100円)くらいを想定していたんだけどな。
「ありがとうございます。ではこんなのはどうでしょうか?」
それからは、ハンカチを被せたスプーンが突然消えたり、魔法っぽい言葉を唱えたら、スプーンの本数が増えたりする手品を見せた。だいたいがコインやトランプでやるのだが、それをスプーンで代用した。でも、口からスプーンを出したときは、若干引かれたけど・・・
結果から言うと大成功だった。収益は銀貨3枚、銅貨13枚だった。
若干、「何で全部スプーンなんだ?」という声は上がったが、これなら細々となら十分暮らしていけるだろう。
当面はこれで、やっていこうかな・・・
★★★
この世界に来て3日が経った。領都の広場や市場を周り、芸を披露する。それなりに稼ぐことはできていた。そんな時、事件が起こった。いつもどおり、芸を披露して帰ろうとしていたら、警備兵に囲まれた。
「おい、お前!!きちんと許可を受けているのか?それにしても怪しい!!」
「そ、そんな・・・私は決して怪しい者では・・・」
「怪しい奴が、自分から『私は怪しい者です』とは言わないだろ?ちょっと一緒に来てもらおう、詳しく話を聞きたい」
そんな時だ。
金髪縦ロールの10歳くらいの幼女が現れた。
「その者を許可したのは、妾じゃ!!警備兵よ、何か問題はあるか?」
「グレーテル様に文句などありません。ただ、職務として・・・」
「分かっておる。お主らの働きには妾も、常々感心しておる」
「ありがとうございます。それでは、私たちはこれで失礼いたします」
警備兵は逃げるように帰って行った。
どう見ても、高貴なご令嬢だ。後ろには専属の護衛と執事っぽい人も控えている。
一応、お礼を言っておこう。
「助けていただき、ありがとうございます。公共の場で、芸を披露するのに許可が必要とは知らなかったのです。異国出身なもので・・・」
当然、日本でも許可は必要なのだが、ここで嘘をついてもバレないだろう。
「ほう・・・異国の者であったか。というのも妾は、お前をスカウトに来たのじゃ。妾の従者にしてやろう」
執事っぽいの老紳士が頭を下げて来て、状況を説明してくれる。
彼女はグレーテル・アルトナー。アルトナー伯爵家の長女で、歴とした伯爵令嬢らしい。年齢は17歳らしいのだが、呪いか何かで、10歳くらいの幼女の姿にされているという。それで、俺をスカウトしたのは近々、夜会を開くらしく、その場で俺にスプーン曲げをしてほしいとのことだった。
「分かりました。助けてくださった御恩もあります。詳しい話を聞かせてください」
交渉の結果、2ヶ月後にある夜会までは仮採用、夜会を含めた働きを見て、本採用になる契約を結んだ。当初はスプーン曲げをしながら、旅芸人をしようと思っていたが、貴族の従者となれば、安定した収入が得られるし、身分も保証される。
まあ、やることはスプーン曲げだから、旅芸人も従者も変わらないんだけどな。
俺は決意した。
スプーン曲げで、生きていく!!




