55 信仰心を集めろ
無事に植樹祭は終えたが、また問題が発生した。
俺の結婚問題ではない。少しその話をすると、グレーテルお嬢様が助け舟を出してくれた。「勇者の町がある程度発展するまでは、結婚どころではない」と言ってくれたのだ。まあ、ボルタ王女はこの町に住み着いてしまったけど・・・
それで問題というのが、信仰についてだ。
マリアさんから相談を受ける。
「つまり、信仰心があまり集まっていないということですね?」
「そうなのです。人族については、私たちの話を熱心に聞いてくれるのですが、獣人や亜人たちは、全く・・・」
獣人は聖獣様を崇め、エルフは世界樹と精霊様を敬い、ドワーフは酒と鍛冶道具に神が宿ると信じている。創造神エリスが入り込む隙がないのだ。
カヨさんも悩んでいる。
「獣人やエルフ、ドワーフに無理やり創造神エリスを信仰しろとは言えませんからね・・・」
難しい問題だ。
信仰なんて自由だし、そもそも、あの馬鹿女神を信仰するなんて、あまりお勧めはできない。ただ、信仰心を集めないと女神を降臨させられない。形だけでは駄目なのだろうか?
「形だけ祈ってもらったところで、効果は薄いですね。やはり心から信仰していただかないと」
「ケイスケさん、何かいい案はありませんか?」
いい案と言われてもなあ・・・
「たとえばですが、世界樹と一緒に創造神エリスを信仰するということは可能なのでしょうか?」
「それは問題ありません。大事なことは心から信じ、祈ることなのです」
だったら、やりようがあるんじゃないだろうか?
「それぞれの信仰を大切にしながら、創造神エリスもついでに信仰してもらうというのはどうでしょうか?」
「果たして、そんなことが可能でしょうか?」
マリアさんが帰った後にカヨさんに俺が考えたアイデアを話した。
「いい案だと思います。上手くいけば商売になりますし、この町を訪れる人も増えると思います」
「商売になると分かれば、商人たちも食いつくでしょうし、グレーテルお嬢様に頼めば、各国との調整もしてくれるでしょうしね」
★★★
俺のアイデアは、コラボ企画だ。
獣人を例にとると、聖獣様を信仰している。聖獣様に跨った創造神エリスのグッズでも販売すれば、聖獣様を信仰するついでに信仰してくれるのではないかと考えた。
これは現代日本でもよくやる手法で、無名の動画配信者でも、有名なインフルエンサーとコラボすることによって再生数が伸びたり、普通の筆箱にヒーロー戦隊のイラストを入れるだけで、売り上げが伸びたりする。それを応用したまでだ。
最初に話を通したのは、グレーテルお嬢様だった。
「なるほど、信仰心を集めるために他種族が信仰しているものを使うとはな。だが、それで創造神エリスは怒らぬのか?」
「その辺は、降臨されたときに上手く説得して・・・」
多分、あの馬鹿女神なら、交渉次第で何とでもなる。
「分かった。それで調整をしてみよう。幸い巫女も聖女も酒神も、まだこの町におるからのう。彼女たちを利用して・・・」
グレーテルお嬢様・・・悪い顔になってますよ・・・
すぐにサチコさん、マナミさん、ヒロコさん、サクラさんに集まってもらった。
事情を説明する。
一番に食いついたのは、酒神様ことマナミさんだ。
「それは有難いですね。是非ともお願いしたいです。新酒のPRに使えます。チュウハイを「女神の雫」とかにすれば、興味本位で飲んでもらえるかもしれません。飲んでもらえれば、こっちのものですしね」
サクラさんも続く。
「だったら、「女神うどん」なんてのはどう?これも売れる予感がするわ」
思いのほか、ウケがよかった。
カヨさんが言う。
「こういう企画を考えるのも楽しいですよね?私も考えようと思います」
聖女のヒロコさんが言う。
「私は織物でコラボしようと考えてます。聖獣ブラックシープの毛織物は数は作れませんから、代わりに羊毛で織物を作れば、一般人にも手に届く価格になりますね。そうなれば、羊人族の収入源にもなりますし・・・」
ただ、エルフの巫女サチコさんだけは、あまり乗り気ではない。
「私はあの女神のことは、あまり好きじゃないんだよ。だから、積極的には手伝わないよ」
まあ、かなり喧嘩していたし、女神はまだ謝ってもいないからな。
「分かりました。それでは、世界樹と女神のコラボグッズを作る許可だけは下さい」
「それならいいけど、使用料は貰うよ」
「それで話を進めさせてもらいます。使用料については後日、話し合いましょう」
ということで、プロジェクトは動き出した。
結果はというと、それぞれが思い思いの商品を作り、積極的に販売を開始した。勇者の町で、感触を掴んだサクラさんとマナミさんは早々に帰って行った。地元で販売戦略を練るのだという。
別れ際、サクラさんが言った。
「うどんの売れ行きが少し落ちていたのよ。粗悪な類似品が多く出回ったのが原因ね。こちらが元祖だって言っても、強欲な商人や貴族は『嘘をつくな。こっちが元祖だ』とか言って・・・だから、今回の企画は本当に有難いわ。何かあれば、協力するからね」
「ありがとうございます。そちらからも要望があれば、遠慮なく言ってください」
こうして、順調にプロジェクトは動き出したのだが、被害に遭った者もいる。アイーシャ皇女だ。
「わ、私には無理です。特に何もできませんし・・・」
「そんなことはないですぞ。我らが全面的に支援致しますし、そもそもワイバーンに乗れるなんて、普通の人にはできませんよ」
「それはネーラちゃんが、親切で・・・」
レンブラント辺境伯が企画したプロジェクトの犠牲者になっている。
レンブラント辺境伯の構想では、アイーシャ皇女を「竜姫」として、担ぎ上げ、自分たちのブランドを新たに作ろうとしているのだった。
聞いたところによると、アイーシャ皇女は帝国では、話題沸騰中らしい。世界一の大帝国を自負する彼らにとって、ワイバーンに乗れるアイーシャ皇女はウケがいい。次期皇帝に押す声も出ているようだ。
ワイバーンに乗れ、更に創造神エリスの加護も持っているという設定にすれば、間違いなく商売は成功することだろう。既に試作品も作っている。アイーシャ皇女と創造神エリスがワイバーンに跨る彫刻や絵画は、既に高位貴族の間で取引されているようだ。
心配なのは、ノワールさんだった。
そんな客寄せパンダみたいなことを娘にさせるのかと思っていたが、かなりチョロかった。
「ネーラがそこの小娘を乗せて、定期的に飛べば、我は旨い酒が飲めるのだな?」
「そのとおりで、ございます」
「だったら、協力してやらんでもない。ネーラも最近は体調が良くなったのでな」
ブラックワイバーンをドワーフの酒で釣るなんて・・・ある意味、レンブラント辺境伯は凄い人なのかもしれない・・・
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