51 獣医
町に到着し、早速植え替え作業を行う傍ら、ブラックワイバーンから事情を聞くことにした。
このブラックワイバーンは、ノワールという雌のワイバーンで、彼女の娘が重い病気に苦しんでいるとのことだった。
「原因が分からん。ただ、あの木の葉や実を定期的に摂取すれば、何とか生きてはいけている」
「ところで、あの木はどういった経緯であそこに?」
「100年程前、ワイバーンどもが、どこかの集落から木の実を大量に持ち帰った。その中の一つが、発芽したのだ。今にして思えば、直接、その実がある場所に行って、持ち帰ってくればよかった。いや、無理か・・・あの子の側を長時間離れられん」
ここで、100年前のエルフの国襲撃事件とつながるのか・・・
エルフたちは青ざめている。
今でこそ、サチコさんがいるので、容易くワイバーンを撃退できているが、ブラックワイバーンが突然やって来たら、大変なことになる。
それとなく、エルノールさんが話題を変える。
「ところで、娘さんの容態が気になります。それに特化したポーションを作れば、もっと適切な治療を施せるかもしれません」
「お前たちに娘を診断できるのか?」
「そ、それは・・・あっ!!適任者がいます。その方は伝説の聖獣フェンリルやブラックシープを治療した実績があるのです」
「それは本当か!?すぐに連れてこい」
エルノールさんは、獣王国の聖女ヒロコさんに丸投げするようだ。
まあ、エルフも自分たちが一番かわいいから、仕方ないことだが・・・
「すぐに連絡を取りますね。ただ、他国なので時間が掛かるかもしれませんが・・・」
★★★
意外にもヒロコさんの訪問は、すぐに実現した。
元々、獣人たちを保護してくれたお礼で、訪問を考えていたようで、グレーテルお嬢様を通じて、お願いしたら、二つ返事で来てくれた。
早速、事情を説明する。
「分かりました。それと、こちらからもお願いがあるのですが・・・」
ヒロコさんのお願いというのは、獣人族の移住についてだった。獣王国は、聖獣を従えた者が王として君臨するという習わしがある。そこで問題になるのが、この時代には、フェンリルとブラックシープという聖獣が二匹もいることだ。当然、争いが生まれる。
しかし、今は帝国と停戦しているとはいえ、いつ戦争が始まるかもしれない状況だ。国内で獣王を巡って争っている場合ではない。
「羊人族は、獣人の中でも争いを好まない種族の一つです。しかし、羊人族が望まなくても、担ぎ上げようとする者たちもいるのです。それで彼らは、聖獣様と一緒にこちらに移住することを望んでいるのです」
「分かりました。移住は会議で承認を得られれば、可能です。すぐに臨時の会議を開きますね」
「お願いします」
会議で羊人族の移住案は、予想通り承認された。
それどころか、獣人のほとんどが、大興奮している。
「我らの町に聖獣様が住まれるなんて・・・」
「感激です。生きていてよかった」
「獣人で反対する者なんていませんよ」
移住を承認する旨をヒロコさんに伝えると、ヒロコさんは安堵の表情を浮かべた。しかし、すぐに緊張した表情になる。
「移住を承認してもらえたのですから、何としても、ブラックワイバーンの治療を成功させないといけませんね。責任重大です・・・」
「できる範囲で大丈夫ですよ。ブラックワイバーンのノワールさんは、全く話が通じないワイバーンではありませんからね」
そうは言ってみたものの、やはり少し不安になる。
上手くいかなかったときのことを考えて、一応戦闘準備はしておかないとな。
★★★
それから3日後、ブラックワイバーンの親子がやって来た。
親のノワールさんが体長10メートル程なのに比べて、娘のワイバーンは、大型犬くらいの大きさくらいしかない。素人目に見ても元気がないように見える。
ノワールさんがヒロコさんに言う。
「其方が我が娘ネーラを診察するのだな?粗相があれば、命がないと思えよ」
「精一杯、診させていただきます。それでは、娘さんをこちらに」
「うむ」
怯えているネーラちゃんの周りをフェンリルとブラックシープが取り囲む。
「こ、怖いです・・・母上・・・」
「き、貴様ら!!何をしておる!?」
落ち着いて様子で、ヒロコさんが答える。
「この二匹が診察を手伝ってくれます。こういった特殊な個体の診察には、彼らの協力が必要なんです。怖いかもしれませんが、少し我慢してください」
「分かった。ネーラ、少し我慢しなさい」
「は、はい・・・」
ヒロコさんは、専用の魔道具を持ち出し、色々と調べている。
「分かりました。ネーラちゃんは、魔力欠乏症ですね」
「なんだと!?」
ヒロコさんが詳しい説明をする。
ワイバーンや聖獣と呼ばれる魔物は、基本的に食事を必要としない。待機中の魔素を取り込みエネルギーに変換するようだ。しかし、ネーロちゃんは生まれつき、その能力が著しく乏しいとのことだった。
「それで治るのか?」
「成長すれば、自然と魔素が取り込めるようにはなります。問題は、そうなるまでの栄養補給ですが、世界樹の葉や実を食べれば、少し体調が良くなるんですよね?」
「そうだが・・・」
「だったら、治療というか、栄養補給ですね。幸い、こちらに世界樹もありますし、それに魔力含有量の多い、キノコや薬草が豊富にあります。自然に魔素が取り込めるようになるまでは、それを食べてもらえればいいと思います」
ノワールさんに詳しく聞くと、ほとんど何も食べさせていなかったようだ。
「そんなことで・・・親として恥ずかしい・・・」
「気を落すことはありませんよ。大事なのは、これからです。私もしばらく滞在しますから、一緒に頑張りましょう」
「よろしく頼むぞ。貴殿にも礼を言う」
世界樹が領地に移植され、更にブラックワイバーンの親子も住み着いてしまった。もう聖獣様どころではない。王都に帰っているグレーテルお嬢様に通信の魔道具で報告すると、大変驚かれた。
「世界樹、聖獣、それにブラックワイバーンの親子じゃと!?一体お主は、何をやっておるのじゃ!?
まあ、今更か・・・すぐに妾もそちらに向かう。できるなら、帝国への報告は少し、待ってもらえ。色々と厄介なことになるからのう・・・」
一難去って、又一難か・・・
いつになれば、のんびりできるのだろうか?
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