37 親善大使
帝国領内に入った。
ここで俺たちは、一気に帝都を目指すのではなく、国境沿いの有力貴族を中心に挨拶回りをすることになった。これはアイーシャ皇女の地盤を固めることが目的だ。アイーシャ皇女は後ろ盾となってくれる貴族や有力者がほぼ皆無だ。何かあった時のために少しでも、協力者を集めるのが目的だ。
そのため、無駄に豪華な行列にしている。まるで大名行列のようだ。実際、見たことはないけど・・・
まず、領主に挨拶をして、友好の品を贈呈する。その後、孤児院などを周り、慈善活動、有力商会などを集めて夜会を行う。夜会といえば俺の出番だ。今日も今日とてスプーンを曲げる。帝国でもウケはいい。そして、アイーシャ皇女も・・・
「これからこのスプーンを曲げて見せます。3・2・1・・・ハイ!!」
大歓声が上がる。
アイーシャ皇女にもランダス公国のリネール公子と同じ、軽銅という特殊金属を使った熱で曲がるスプーンをプレゼントしている。どんな豪華な贈り物よりも喜んでくれて、渡した俺としては嬉しい。
「アイーシャ皇女の評価を改めなければならんな・・・」
「あんな凄い魔法使いを抱え、自分も凄い魔法が使えるなんてな・・・」
あまり期待されていなかったこともあり、逆にすり寄ってくる貴族や商会関係者も多くいた。
そして今日は、この作戦の山場を迎える。
相手は国境沿いの貴族で一番力を持っているレンブラント辺境伯だ。レンブラント辺境伯はかなり太った壮年の男性で、情報によると武人というよりは商人に近い。口では勇ましいことを言っているが、戦争をしたくない貴族の代表格と言える人物のようだ。
こちらが訪問すると、事前に情報を掴んでいたようで、かなり盛大なもてなしを受けた。
「シェーンブルグ王国には、勇者殿がおられるのですね。我が国にも一人くらい融通していただければ、報酬は弾みますよ」
「それは難しいのう・・・国王陛下の許可も下りんじゃろうし」
「それはそうですね。では依頼という形で、一つ頼みたいことがあるのですがね」
レンブラント辺境伯の依頼というのは魔物討伐だった。
対象となる魔物はグレートコングで、以前に討伐依頼を受けたワイルドモンキーの上位互換だ。単体ならBランク、群れならAランクとも言われている。軍隊が出動するレベルで、ワイルドモンキーよりも知能が高く、冒険者から鹵獲した武器も使うし、ワイルドモンキー以上に棲み処は要塞化されているみたいだ。
「勇者様に討伐してもらえるなんて、本当に幸運なことです。騎士団を搔き集めても多くの犠牲を出してしまいますからね」
その日の夜にグレーテルお嬢様から説明があった。
「レンブラント辺境伯は物腰が柔らかく、人当たりはいいが、とんだ食わせ者じゃな。魔物討伐でこちらの実力を把握できるし、運よく討伐できれば儲けものじゃしな」
「相手の手の平の上で転がされているようで、いい感じはしませんね」
「じゃが、断るわけにもいかん。それこそ、アイーシャ皇女が軽く見られてしまう」
★★★
次の日、俺たちはグレートコングの討伐に出発した。
アイーシャ皇女とレンブラント辺境伯も同行する。森の中を進み、棲み処の手前まで案内された。棲み処に近付くと、10匹ほどのグレートコングが襲ってきた。これをカヨさんとアンヌさん、バスラさんで、あっと言う間に討伐した。
レンブラント辺境伯が言う。
「なかなかの戦力をお持ちですね。皆さん冒険者ランクで言うとAランクはありますね。ただ、それだけでは討伐することができません。奴らが強さを発揮するのは、ここからです」
グレートコングは棲み処に引きこもり、籠城作戦に出た。
グレーテルお嬢様お抱えの魔導士たちが、魔法攻撃をするも、強固な棲み処はびくともしない。
「こんな感じです。多少の犠牲を覚悟しても、突撃するしかないのが現状です。安全策を取って兵糧攻めにしてもいいのですが、予算がねえ・・・」
グレーテルお嬢様が言う。
「ところでレンブラント辺境伯よ。多少、地形が変わってもいいのじゃろう?」
「構いませんが・・・」
「そういうことじゃ、ケイスケよ、やってしまえ」
グレーテルお嬢様から許可が出た。
俺はいつも通り、大量の巨大な先割れスプーンを空中に出現させた。この作戦に当たり、グレーテルお嬢様から「派手にやれ」という指示を受けていた。こちらが大きな戦力を保有していることを知らしめるためだという。
だったら、遠慮なくやってやる。
最近、スキルレベルが上がったようで、更に多くのスプーンを出せるし、大きさも更に大きくできるからな。
100本近くの先割れスプーンが棲み処に降り注ぐ。
それを5回ほど繰り返す。更地どころか、巨大なクレーターを作ってしまった。
「ケイスケよ・・・ちとやり過ぎじゃ・・・」
レンブラント辺境伯はというと、驚きで尻餅をついてしまっていた。
「こ、こんなことが・・・あり得ない・・・勇者がこれほどの実力だというのか?」
「我が国は3人の勇者がおるし、エルフの国やドワーフの国、獣王国にも、それに近い存在はおる。つまり、そういうことじゃ」
グレーテルお嬢様は暗に「戦争を吹っかけると大変なことになるぞ」と脅している。
「占領し、統治するとなるとそれなりに一般兵力が必要じゃろうが、更地にするだけなら何とでもなるのう」
「そ、そうですね・・・やっぱり平和が一番ですね」
これ以後、俺のスプーン曲げがウケなくなったのは、言うまでもない。
★★★
無事討伐任務を終えた俺たちは、いよいよ帝都に向かうことになったのだが、レンブラント辺境伯も同行することになった。
「アイーシャ皇女が難しい交渉を取りまとめ、凱旋帰国するにはこの行列では寂しすぎます。それに派閥を取りまとめる者も必要でしょうし・・・」
アイーシャ皇女に取り入ったほうが得策と判断したレンブラント辺境伯は、すぐにアイーシャ皇女の派閥を作ることを決定したようだ。すでに何人かの貴族はアイーシャ皇女に挨拶にやって来たしな。
グレーテルお嬢様が呟く。
「現金な奴らじゃが、味方は一人でも多いほうがいいからのう。それに奴らの思惑とも合致しておるし・・・」
レンブラント辺境伯やその寄り子たちが統治する帝国東部は、元々は別の国で帝国の中央に反感を持っていた。それを上手く利用したという訳だ。
カヨさんが言う。
「敵の敵は味方というわけですね。でもこういったことは、慣れませんよ・・・」
「サラリーマンでも同じようなことはありますよ。いつの時代もドロドロしてますからね」
そんな話をしながらも、旅は続く。
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