36 帝国へ
和平交渉は、順調に進んだ。
アイーシャ皇女のほうも帝国から、シェーンブルグ王国の要求通りに条約を締結してくるようにと命を受けているようだった。
「帝国の考えていることは分かる。どうせシェーンブルグ王国内で暗殺するから、どんな内容でも構わんと思っていたのじゃろうな」
その情報を得てからも、シェーンブルグ王国側は無茶な要求はしなかった。
獣王国とティーラム帝国の即時停戦及び獣人、亜人奴隷の解放にとどめ、獣王国から予め了承を得ていた大森林の一部を帝国に譲渡することも決まった。
「これで、アイーシャ皇女の評価は上がる。シェーンブルグ王国の村を盗賊から救っただけでなく、長年の戦争を終結させ、微々たるものとはいえ、領土拡大に成功したのだからな。これなら帝国も面子が保てるであろう。勝手に侵略戦争を吹っかけきた帝国には腹が立つが、それも仕方がない」
まあ、そういったこともあるだろう。俺も納得がいかないけど、戦争が続くよりは、まだマシだ。
カヨさんが言う。
「ということは、これでもう大丈夫ということですね?」
「それがそうもいかんのじゃ・・・というのも・・・」
グレーテルお嬢様によると、シェーンブルグ王国内での暗殺が成功しなければ、帝国内でアイーシャ皇女を暗殺する計画が暗に進行しているという。これは襲撃して来た指揮官の尋問によって明らかになったことらしい。
「最低でも、アイーシャ皇女が皇帝に親書を手渡すまでは、こちらはアイーシャ皇女の警護をしなければならん」
俺も質問する。
「引き続き、俺たちはアイーシャ皇女の護衛をするということですか?」
「そうなるじゃろうな・・・ただ、失敗すると更に酷い状況に陥る」
俺たちが護衛についた状態で、帝国内で暗殺されてしまえば、逆に帝国にシェーンブルグ王国に宣戦布告する口実を与えてしまう。帝国内だがら、証拠なんて捏造し放題だろうし・・・
「そのような状況じゃから、国王陛下も王太子殿下も頭を悩ませておる。ただ、アイーシャ皇女を見捨てることはできんし・・・」
カヨさんが言う。
「私は護衛をすることを進言します。もし駄目なら、勇者を辞して、一冒険者として依頼を受けます。あんないい子が、暗殺されていいわけありません!!」
流石にカヨさん一人で、行かせるわけにはいかない。
「だったら俺も・・・」
グレーテルお嬢様が遮るように言った。
「貴殿らの気持ちはよく分かった。貴殿らを行かせるなら、妾が行かんわけにはいかんじゃろう?」
最終的には、シェーンブルグ王国の親善大使としてグレーテルお嬢様が、アイーシャ皇女の帰国に際して同行することで、話はついた。
また、厄介事か・・・
のんびりスプーン曲げをして過ごす生活は、一体いつになるんだろうか・・・
★★★
今回の旅は、ショウタ君は参加しない。
パメラさんのこともあるが、勇者がシェーンブルグ王国に一人もいなくなる事態は、シェーンブルグ王国としても避けたいようだった。戦力ダウンは否めないが、これも仕方がない。
出発の際、アイーシャ皇女が言った。
「本当によろしいのですか?命の保証はできませんよ」
「気にすることはない。もし戦争となれば多くの命が失われる。国の為、民の為に命を張るのは、上に立つ者の宿命じゃ」
バスラさんもお礼を言う。
「ありがとうございます。こんな心強いことはない」
「気にすることはないぞ。帝国がこちらを舐めておるのは知っておる。じゃから、こちらの戦力を見せる意味もあるからのう」
帝国がここまで横暴なのは、全面戦争になれば必ず勝てると思っているからだ。
兵力もそうだが、生産力が違う。総力戦となれば、帝国とやり合える国はない。獣王国が何とか戦線を維持していたのも、局地戦で国際情勢により、帝国側が全戦力を獣王国に差し向けなかったからだ。
「仮にじゃが、戦争に勝ったとしても、帝都に巨大なスプーンが大量に降り注ぐとなれば、どうじゃろうのう?」
「戦争はしないでしょうね・・・あの恐怖は、実際に見た者しか分かりませんよ。従者の何人かは、報告で帰国させているのですが、言葉だけで伝わるかどうか・・・」
多分、俺のことを言っているよね?
なんか、人間兵器扱いなんだけど・・・
カヨさんも声を掛けてくる。
「ケイスケさんは、元の世界で言うところの核兵器に近いですよね?」
「そ、そうですか・・・」
俺たちがこの世界にやって来るまで、核保有国同士で戦争をしたことはない。戦争で勝っても、自国が酷いことになることが分かっているからだ。戦力に差があっても、核兵器さえ持っていれば、何とかなると考える国も多い。
シェーンブルグ王国が侵略国家でなくて、本当によかったと思う。もし最初の転移先がティーラム帝国だったら、大変なことになっていたかもしれない。その点だけは、馬鹿女神に感謝しよう。
それから俺たちは王都を出発し、一度グレーテルお嬢様のお膝元であるアルトナー侯爵領に立ち寄った。ここで、精鋭の護衛騎士を補充するのが目的だが、表向きは友好活動の一環ということになっている。
慈善活動や各種イベントをこなしながら、俺たちは帝国に入ってからの計画を立て始めた。
バスラさんが、現在の帝国の状況を説明してくれた。
「帝国のすべての皇族や貴族が好戦派ではない。中には、戦争に消極的な者も多い。しかしながら、そのような弱腰な姿勢を見せるとたちまち権力の座から転げ落ちてしまう。口では勇ましいことを言っていても、そこまで戦争がしたい奴は少ないのが現状だ」
「だったら、付け入る隙はあるのう・・・それとエリス教会についてじゃが・・・」
実は、エリス教会は女神を召喚することができるそうだ。
本当のところは分からないが、召喚できると仮定すると、女神に文句の一つでも言ってやりたくなる。エリス教会の他種族排斥の教義が女神が指示したものか、それとも女神の教えを曲解しているのか、真実を確かめないとな。
「十中八九、嘘であろう。いくらエリス教会といえども、女神など召喚できるはずがない。女神から直接使命を授かったのは、ここにいるケイスケたちじゃから、ケイスケたちの言葉が女神の言葉じゃ。この際、教会もギャフンと言わせてやろう」
計画を聞いたけど、結構エグイな・・・
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