34 皇女のおもてなし
移動は馬車だ。
俺とグレーテルお嬢様、アルフさん、それにアイーシャ皇女とバスラさんが同じ馬車に乗る。このような乗車区分になったのも理由がある。バスラさんの話では、連れて来た従者も信頼がおけないという。
「恥ずかしい話だが、従者よりも貴殿らのほうが信用がおけるのだ・・・」
「安心せよ。妾は、これでも人一倍襲撃に遭ってきたからのう。妾も従者も経験豊富じゃ」
それはそうだ。
俺が勇者になったのだって、グレーテルお嬢様の襲撃事件がきっかけだしな。
アイーシャ皇女を見ると、かなり引いていたけど・・・
馬車の中では、主にアイーシャ皇女の生い立ちについてが話題の中心だった。
本当に不遇な目に遭っているようだった。碌に皇族として扱ってもらえず、予算も雀の涙ほどらしい。
それに従者の中には、別の皇族の手の者が紛れ込んでいて、何度も暗殺未遂事件を経験しているそうだ。流石のグレーテルお嬢様も同情している。
「妾も自分の運命を呪ったこともあったが、多くの信頼のおける従者を抱えておることは、感謝せねばならんな・・・」
そんな話をしているうちにオーベルト男爵領に到着する。
流石に町にまで盗賊はやって来ないことを考えると安心だ。
久しぶりに領主館を訪ねたのだが、かなり立派になっていた。最近、羽振りがいいとは聞いていたけど、この領主館から察するにかなり儲けているのだろう。
到着するとオーベルト男爵とサクラさんが出迎えてくれた。
「ようこそ、おいでくださいました」
「ところで、準備はできておるか?」
「もちろんです」
入浴を済ませた俺たちが案内されたのは、厨房だった。
バスラさんが尋ねてくる。
「これはどういうことだろうか?食堂ではなく、ここは厨房だが・・・」
「アイーシャ皇女は、暗殺を恐れて、温かい物を食べられんじゃろう?だから、ここでは温かい物を食べてもらう」
「それはそうだが・・・」
「大丈夫じゃ。アイーシャ皇女が自ら作るのじゃから、毒を入れようがない」
これはサクラさんのアイデアだ。
少しでもアイーシャ皇女に楽しんでもらおうと思って、企画したのだ。
「私が作るのですか?申し訳ありませんが、私は料理などしたこがなく・・・」
「大丈夫じゃ。簡単な料理だからな」
作り始めたのは、お好み焼きだ。
オーベルト男爵の特産品でもあり、混ぜて焼くだけだからな。ちゃんと材料を計って、決められた分量を入れて混ぜれば、まず失敗することはない。慣れない手つきだが、それでも楽しそうにアイーシャ皇女は作っていた。側に控えるバスラさんはハラハラしているようだったけど。
「焼けたようじゃのう。では、皆で食べるとしよう」
お好み焼きの味も大事だが、それよりもみんなで楽しく、ワイワイと食べるとそれだけで美味しい。アイーシャ皇女も満足そうだ。
「バスラ、私が作ったお好み焼きはどうですか?」
「は、はい・・・本当に美味しゅうございます。殿下の手料理を食べられるなんて・・・感動です」
バスラさんは涙ぐんでいた。
こういったところは、グレーテルお嬢様大好き人間のアンヌさんと通じるところがある。周りが敵だらけのアイーシャ皇女にとって、バスラさんの存在は大きい。
★★★
2日程、オーベルト男爵領に滞在した俺たちは、王都を目指して出発することになった。この旅には、オーベルト男爵とサクラさんご一家も同行することになった。表向きは、王都に出店しているうどん店の視察ということだが、本当のところは、護衛の人数を増やすことにあった。
オーベルト男爵の関係者だけで30人はいる。流石にそこら辺の盗賊が襲ってくるような人数ではない。
そして、今回の旅で特徴的なのは、町などでは一切に泊まらず、すべて野営することだ。町に入るとどうしても帝国やブロンベルク侯爵の息の掛かった者がいる。それならば、野営したほうが安全という結論に至った。
バスラさんが言う。
「殿下、申し訳ありません・・・安全のことを考えると・・・」
「気にしないでください。これはこれで、結構楽しいですよ。それに料理も美味しいですしね。なんだか、料理が趣味になりそうだわ」
道中の料理は、移動中に狩った魔物をBBQにしたり、鍋にしたりした。
アイーシャ皇女も積極的に手伝ってくれる。いくら皇女といっても、これくらいの年齢の子供には、キャンプのようで楽しいのだろう。
食後は焚火を囲んで、みんなでのんびりする。
「シェーンブルグ王国に来て、本当によかったと思います。温かくて美味しいご飯も食べられますし、皆さんと仲良くなれて、嬉しいです」
「喜んでもらえて、妾も嬉しい。王都に着いてからも、色々と考えておるから、期待するとよい」
そんな感じで順調に旅は進んだのだが、恐れていたことが起きた。
「なに!?盗賊に村が襲われておるだと!?」
「そうです。これは推測ですが・・・」
アルフさんの見解では、襲撃のチャンスがない状況を打開するため、村を襲撃したのではないかとのことだった。心優しいグレーテルお嬢様なら、絶対に村を見捨てないと思ったのだろう。
「どうにかしたいが、こちらにはアイーシャ皇女がおられる・・・見捨てるしかないのか・・・」
アイーシャ皇女が言う。
「助けに行きましょう。もしここで私が命を落としても、何とでも言い訳ができますよ。盗賊の襲撃から村を助けた皇女として死ぬことができますしね。私が倒れた時のことを考えて、このことを書面に・・・」
言い掛けたところで、グレーテルお嬢様が遮る。
「自分の命を粗末にするものではない!!貴殿の心意気は分かった。だったら、貴殿の命も村人も救ってやる。皆の者、良いな?」
「「「はい!!」」」
こうして、俺たちは計画になかった盗賊退治をすることになってしまった。
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