33 帝国の皇女
地道な外交戦略は成功した。
流石のティーラム帝国も、多くの国々が停戦を求めたことで、無視できない状況になった。そこで帝国は、シェーンブルグ王国に親善大使として第五皇女を派遣することになった。
「グレーテルお嬢様、地道な努力が実を結びましたね?」
「ケイスケよ。それがそうでもないのじゃ・・・」
詳しく聞いたところ、通常であれば親帝国を自任するブロンベルク侯爵が第五皇女の接待や警護の責任者を務めるのだが、今回はなぜかグレーテルお嬢様が責任者を務めるという。
「こちらで調べたところ、第五皇女は本国では、かなり冷遇されているようじゃ。原因は、メイドとの間にできた娘だからだと言われておる。そんな皇女が親善大使として、我が国にやって来る。そしてその担当者が妾ということになれば・・・」
最悪の展開だ。
「つまり、シェーンブルグ王国でその皇女を害し、新たな火種を起こそうということですか?」
「そう考えるのが普通じゃろうな。冷遇されておっても皇女は皇女じゃから、戦争の口実にはなるじゃろう。かといって、断ることなどできん。それを分かった上での訪問じゃろう」
「となると俺たちの任務は・・・」
「第五皇の警護ということになる」
★★★
次の日から、俺とカヨさんとショウタ君は、アンヌさんに警護訓練を受けることになった。
「貴殿ら三人は、戦闘力はずば抜けているが、警護に関しては素人だ。基本から教えるので、しっかりと学ぶように」
「「「はい!!」」」
アンヌさんの指導ということで、また走り込みや筋トレからやらされると思っていたが、意外なことに実戦的な訓練だった。
「本当は基礎体力の向上から始めたほうがいいのだが、如何せん時間がないからな。それでは基本隊形から・・・」
今回の日程では、皇女とグレーテルお嬢様は四六時中一緒に行動するようだ。なので、二人の直近に俺が配置される。何かあったらスプーンの楯で攻撃を防ぐ。そして、二列目はアンヌさんとカヨさんだ。この二人は臨機応変な対応が求められるので、近接戦闘が得意な二人を配置している。
最後にショウタ君だが、少し離れた位置で秘匿配置する。ショウタ君は、元高校球児なだけあって、投げナイフが上手く、遠距離から相手を無力化するのが狙いだ。
基本的な動きを確認した後は、実際に襲撃犯役を用意して訓練が始まった。更に次の日からは、グレーテルお嬢様も参加することになる。
「実は守られるほうも訓練が必要なのじゃ。それに何かあれば皇女殿下を守らねばならんからのう」
グレーテルお嬢様を交えて、実戦訓練が始まる。
襲撃に合わせて、俺がスプーンの楯を出して、グレーテルお嬢様と皇女役のメイドさんの安全を確保する。完全にスプーンの中に入ってしまえば、もう安全だ。
後は、アンヌさんの指示が出るまで待機だ。
アンヌさん、カヨさん、ショウタ君、それに他の護衛騎士は綿密に打ち合わせをしていたけど、俺は蚊帳の外だ。気を遣って俺も参加しようとしたが断られた。
「ケイスケ殿が入ると、もはや警護ではなく、戦争だからな。とにかくケイスケ殿はグレーテルお嬢様と皇女殿下の安全を確保しておいてくれ」
俺の攻撃は基本的に巨大な先割れスプーンによる攻撃しかない。一応、スプーン発射機もあるけど、あれもあれで使い勝手が悪い。発射までに時間が掛かるし、ピンポイントで襲撃者のみを倒すなんて無理だ。例えるならミサイルからロケットランチャーに変えたくらいでしかない。
適材適所ということにしておこう。
★★★
今日はいよいよ、帝国の皇女様を国境付近までお迎えに上がる。
待機していると約10名程の集団が現れた。
グレーテルお嬢様がつぶやく。
「なんじゃあれは?帝国の皇女とあろうお方の従者が10人足らずじゃと?」
すかさず、アルフさんが情報を伝える。
「なんと・・・予定のルート上に盗賊が待機していると?」
「そうです。それにあの従者の少なさは・・・」
帝国としては、皇女を生贄にするつもり満々のようだ。
「では、ルートを変更する。オーベルト男爵に先触れを出せ」
こんなこともあろうかと、王宮に申請したルートとは別のルートを用意していた。何かあれば責任問題だが、オーベルト男爵領にはサクラさんがいるし、オーベルト男爵領で襲撃があるとは予想しにくい。事前の根回しも済んでいる。
しばらくして、馬車から一人の幼女が下りて来た。
髪は青色、年の頃はグレーテルお嬢様と同じくらいだ。
「お初にお目にかかります。私はティーラム帝国第五皇女のアイーシャです」
「妾はグレーテルじゃ。国王陛下より貴殿のエスコートを仰せつかっておる」
年齢の割には礼儀正しい。
しかし、お付きの者の少なさや大帝国の皇女が乗るには相応しくないボロい馬車から判断すると、皇女様が冷遇されていることがよく分かる。
そこから皇女側の従者たちと打ち合わせが始まる。
その中で、女性の護衛騎士が文句を言い始めた。
「ルートを変更するだと?そんなものは許可できん。ただでさえアイーシャ殿下は危険な状態に・・・」
言い掛けたところで、アイーシャ皇女に遮られた。
「バスラ、シェーンブルグ王国側にも事情があってのことです。それと、変更理由について、濁されていましたが、正直に言ってください。多少のことでは驚きませんから・・・」
アイーシャ皇女も自分が狙われていることを承知しているのだろう。
「それでは、本当のことを言う。計画どおりのルートには、盗賊が待ち伏せしておる。そして、これは推測じゃが・・・」
グレーテルお嬢様は、盗賊の件だけでなく、アイーシャ皇女を利用して、戦争を引き起こそうとする輩がいることを伝える。
「やはりそうですか・・・普通ならば、手柄を上げたいはずの兄たちが志願するはずのところ、私が選ばれた理由が分かりました。でしたら、私たちはここで引き返しましょう。シェーンブルグ王国に迷惑を掛けてもいけませんのでね」
「アイーシャ殿下、そんなことをすれば、殿下のお立場が・・・」
「元からあってないようなものでしょ?私の命が戦争に利用されるなんて、我慢できません。そんなことになるなら、自害致します」
アイーシャ皇女は、この年齢でかなり肝が据わっている。
「アイーシャ皇女よ。気に入ったぞ。その年齢で変に気を遣わんでもよい。妾に任せておけば、今回の会談を成功させ、堂々と帝国に帰国させてやろう」
結局、この一言がきっかけで、俺たちはアイーシャ皇女の護衛として、オーベルト男爵領に向かうことになった。
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