32 フラレンス王国 3
料理コンテストが始まった。
このコンテストのテーマは、庶民が気軽に楽しめる食品だ。多くの参加者が、様々な料理を出品している。
その中でも、アメラ王女の出品したうどんと唐揚げは、特に評判がいい。
アメラ王女が自慢げに国王に説明をしている。
「うどんも唐揚げも私が考案したのです。これを大々的に売り出せば、フラレンス王国はますます発展することでしょう」
カヨさんが小声で呟く。
「腹が立つわ。全部、パクリじゃないの・・・」
それはそう思うが、今それを言っても仕方ない。
「カヨさん、落ち着いてください。こっちは味で勝負ですからね」
そして、いよいよ俺たちのブースに国王夫妻と審査員がやって来た。
ステラ王女が代表して説明を行う。
「お父様、私たちが出品するのは、サラザンとジャガイモを使った料理です。どちらも庶民が好む食材です。長い説明は抜きにして、まずは食べてみてください」
まずは、蕎麦を振る舞う。
丼ぶりを受け取った国王が言う。
「うどんのような料理だな・・・しかし、これは・・・」
国王はその味に驚いたようだ。
審査員も口々に言う。
「うどんも上手かったが、こちらも旨い」
「麺が独特の風味があって、旨いな」
「出汁は、うどんよりも上かもしれんな・・・」
それはそうだろう。
こちらの出汁は、カツオに似た魚で、わざわざカツオ節もどきを造って取ったんだからな。この世界には魔法があるから、普通は1カ月くらい掛かるところを3日で仕上げた。
「これは旨いな。ステラよ、もう一つの料理も出してくれ」
「はい、ただいま」
次に俺たちが出したのは、ごく普通のイモのコロッケだった。
これも絶賛される。
「ジャガイモがこんなに旨くなるとは、盲点だったな」
「そうだ。料理法なんて、焼くか茹でるくらいしかなかったが、これは新発見だ」
「中に入っているのは、ジャガイモだけではないようだが・・・」
中に入っているのは、玉ねぎとホーンブルのひき肉だ。
玉ねぎのみじん切りとひき肉づくりは、ショウタ君が担当した。
「普段の解体作業に比べたら、楽なもんだったよ」
国王も唸る。
「サラザンにジャガイモか・・・それでこれだけの料理が作れるのは驚いた。ステラ、褒めて遣わす」
「ありがとうございます。でも、驚くのはここからですよ。そちらの蕎麦の中にコロッケを入れてください」
「なんだと!?」
これは、サラリーマン時代にお世話になった立ち食い蕎麦屋の定番であるコロッケ蕎麦だ。カヨさんからは、邪道と言われたけど、これが旨いんだ。高級な蕎麦屋でやったら怒られるかもしれないけど、この安っぽい感じが堪らないんだよ。
ただ、王族に食べさせていい物かどうかは、分からないけど・・・
「これは旨い。衣が出汁を吸って、いい感じだ。優しい味がするな・・・」
ステラ王女がグレーテルお嬢様を紹介する。
「今回の料理は、こちらのグレーテル殿にアドバイスをいただきました。私一人の力では、ここまでの料理を出すことができませんでしたよ」
「グレーテル嬢、礼を言うぞ。それにしてもよかったのか?ここで発表すると、フラレンス王国の特産品として、売り出すことになるが・・・」
グレーテルお嬢様は言う。
「構いませぬ。サラザンの質では、シェーンブルグ王国はフラレンス王国に勝てませんし、ジャガイモもフラレンス王国のほうが安価ですからのう。それにこのコロッケ蕎麦は、この世界を象徴する料理でもありますから」
「世界を象徴する料理とな?」
「はい。この世界には、人間だけでなく多くの亜人や獣人が住んでおります。このコロッケ蕎麦のように思い掛けない組み合わせが美味しい料理を完成させることもあるのです。種族が違うからといって排斥するのでは、コロッケ蕎麦のような料理ができませんから」
料理の解説をしているようで、暗に「亜人や獣人を排斥する帝国とは手を切れ」と言っている。
畳みかけるようにグレーテルお嬢様は、ドワーフの国から持ってきたチュウハイとハイボールを国王に差し出す。
「このチュウハイというのは、エルフの果実をドワーフが酒にしたものです。それにハイボールは、強い酒精を好まない種族にも飲んでもらえるようにドワーフの国で開発されたものです。彼らも変わりつつあります。我らも変わるべき時かと・・・」
少し考えた国王は言った。
「貴殿の言いたいことは、よく分かった。我らは、今後もシェーンブルグ王国と良好な関係を維持できるだろう」
国王と審査員たちは去っていった。
グレーテルお嬢様が言う。
「なんとかなったのう・・・これもすべて、皆のお蔭じゃ。礼を言うぞ」
★★★
料理コンテストの結果だが、ぶっちぎりの優勝だった。
蕎麦とコロッケは、庶民に馴染み深い食材なので、大々的に売り出すことが決まったようだ。
このコンテストの優勝を受けて、ステラ王女の発言力も増したそうだ。
一方のアメラ王女だが、幽閉されたという。
帝国から賄賂をもらっていたことが判明し、工作員を手引きしていたことも判明したそうだ。
こうして、俺たちはフラレンス王の「シェーンブルグ王国に協力する」旨の親書を携えて、帰還することとなった。
グレーテルお嬢様の見立てでは、流石の帝国も停戦には、合意しなけらばならないだろうとのことだった。
こうして、俺たちの外交作戦は成功のうちに終わった。ちょっとだけ、世界平和に貢献した俺たちは、少しだけ勇者っぽいのかもしれない。
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