28 神器外交
とりあえず、落ち着いたところで、本来のティーラム帝国との停戦について、話を始める。
獣王が獣王国を取り巻く状況について話す。
「停戦も何もこちらとしては、攻めて来る帝国軍を撃退しているだけなのだが・・・」
獣王国とティーラム帝国の国境は森林地帯で、明確な国境線はないようだ。
森林地帯周辺に住む獣人も帝国側の人間も、自由に森林地帯で素材を採取したり、魔物を討伐したりして生計を立ててきた歴史がある。
「こちらは今までどおり、森林地帯に住む国民が採取活動できればそれでいいのだが、何年か前から、帝国側が森林地帯の領有権を主張し始めた。そして、森林地帯に入って来た獣人は無条件で、奴隷にするという声明を発表した。そうなると、こちらも対抗措置を取らざるを得ない」
その声明のとおり、帝国側は軍を差し向けて来たという。
「森林地帯での戦闘は我らに分がある。森林地帯の活動に適した種族も多いからな。だが、帝国軍との戦闘で魔物の間引きもできないし、素材の採取もあまりできなくなった。こちらとしては、帝国軍が撤退してくれたらそれでいいのだ。別に人間が森林地帯で素材を採取しようが、魔物を狩ろうが一向に構わないのだがな・・・」
グレーテルお嬢様が言う。
「では、シェーンブルグ王国、獣王国、エルフの国、ドワーフの国の共同声明を発表しよう。あれこれと理由をつけず、即時停戦を求めるのじゃ」
これには、各国の代表者も賛成してくれた。
★★★
獣王国での難しい交渉を成し遂げ、シェーンブルグ王国に帰還した俺たちだが、ゆっくりはできなかった。
グレーテルお嬢様が言う。
「これからも忙しいぞ。味方を増やさねばな。といってもやる事は変わらん。各国を地道に周るだけじゃ」
グレーテルお嬢様が言うには、今度は人間の国を周るという。
エルフ、ドワーフ、獣人の協力を得られたことを前面に押し出し、交渉するという。この種族を越えた条約の締結は、過去にないらしく、グレーテルお嬢様の外交手腕は世界に轟いているそうだ。
「流石に帝国と隣接する国は厳しいじゃろうが、帝国と隣接しておらん国は、話くらいは聞いてくれる。それにこちらには、秘策があるしのう」
グレーテルお嬢様の秘策というのは、俺たちの神器を使ったものだった。
俺は100本以上、カヨさんもショウタ君も50本以上神器を一度に出すことができる。なので、友好の証として神器を各国に贈るというものだ。
「エルフやドワーフ、獣人たちが神器を贈り合い、関係を深めたことにヒントを得たのじゃ。これなら、神器を使って攻撃して来ても、神器を消してしまえば、どうとでもなるしのう」
結局、訪問するのは、ランダス公国、騎馬王国、フラレンス王国になった。
この三ヶ国は何れも力のある国で、この三ヶ国を一遍に相手にするのは、如何にティーラム帝国でも躊躇するそうだ。これにシェーンブルグ王国とエルフ、ドワーフ、獣人が加われば、帝国でも太刀打ちできないだろう。
最初に訪れたのは、ランダス公国だった。
ランダス公国はシェーンブルグ王国と関係の深い国だ。300年前、もう滅びて存在しないストラード王国から独立したランダス公国をシェーンブルグ王国が支援したことから、関係が深まったそうだ。シェーンブルグ王国の先代の王妃はランダス公国の公女だそうで、それほど関係が深いのだという。
「ランダス公国は、シェーンブルグ王国と関係が深い。また、小国ではあるが、数々の侵略を跳ね除けきた歴史もある。諜報活動にも力を入れておるから、妾たちの情報も掴んでおるじゃろう。それでも訪問を認めるということは、協力の意志ありじゃ。口からスプーンでも吐き出さんかぎりは、成功するじゃろう」
グレーテルお嬢様、そんなに言われたら、本当に吐き出しますよ・・・
それは置いておいて、ランダス公国は歓迎ムードだった。
特に次期大公であるリネール公子は、俺のスプーン曲げを気に入ってくれて、懐いてくれた。10歳の少年には、スプーン曲げくらいの芸が丁度いいしな。
「ケイスケ殿、僕もスプーン曲げがしたい。教えてくれないか?」
「そうですね・・・だったら・・・」
俺はグレーテルお嬢様に許可を取った。
「ケイスケよ、それで構わん。どんな神器を渡すかは決めておらんかったからな。ケイスケの案であれば、危険性はないだろうしな」
俺はスキルでごく普通のスプーンを出した。
でもこのスプーンの材質は少し特殊だ。柄の部分とすくう部分は鉄製だが、その中央部分は、軽銅というこちらにしかない金属にしている。この軽銅は少しの熱を加えるだけで、柔らかくなる。
俺は、別室でリネール公子にレクチャーする。
「このようにスプーンの中央部分を握り込んでください。ある程度温まったら、このようにスプーンを振ってください」
これだけで、スプーンは曲がる。
「それで元に戻したら、ポケットなどに氷などを仕込んでおいて、すぐに冷やします。そうすれば、元の固さに戻ります」
「ありがとう。これはなら僕にもできるよ」
それからは、リネール公子が得意気にスプーン曲げを披露していた。大公様も大公妃様も大喜びだ。
大公様が言う。
「素晴らしい贈り物だ。我が国とシェーンブルグ王国との関係は1000年は続くであろう。グレーテル殿、国王陛下にもよろしく伝えてくれ」
「もちろんです。今後ともよろしくお願いいたします」
こうして、あっさりとランダス公国との交渉は上手くいった。
後で聞いた話だが、交渉前にランダス公国がシェーンブルグ王国に協力することは決まっていたという。俺がスプーンをあげなくても協力してくれたらしい。
「同盟についてはそうじゃが、今後の関係を考えたときに、ケイスケの功績は大きいと思うぞ。大公はおろか、次期大公の心も掴んでおるからな。1000年は言い過ぎかもしれんが、30年はいい関係が続くであろう」
そうなんだよな・・・
サラリーマン時代もそうだったけど、一度の仕事を最高の形で終わらせることも大事だけど、末永くお付き合いするのも大事だからな。
そして、俺たちは次の目的地、騎馬王国に向かうことになった。
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