27 聖女 2
バルトさんがツルハシに大興奮している中、また厄介なことが起こった。
ヒツジっぽい獣人の集団が現れ、獣王に跪く。
「獣王様、折り入って相談があります。どうか聖女様の力をお借りしたいのです」
「羊人族の族長よ。理由を申せ」
「はい、まずはこちらをご覧ください」
羊人族の族長が合図すると、お付きの者が直径1メートルほどのモフモフした黒い物体を差し出した。
獣王の表情が変わる。
「ま、まさか・・・」
「そうです。聖獣ブラックシープ様です。ただ、この通り自身の毛が絡まって、身動きが取れなくなっているのです。どうか、お力をお貸しください」
「新たに聖獣様が見つかることは、本当にめでたい。もちろん協力する。ヒロコ!!すぐに来てくれ」
獣王がヒロコさんを呼び出す。
ヒロコさんは早速、その黒くて丸いモフモフした物体の診察を始める。
しばらくして、フェンリルのシロがヒロコさんに何かを伝えようとしていた。
「シロが言うには、多毛症という症状らしいです。魔力の制御が上手くできない幼獣に稀に起こる症状だそうで、絡まっている毛を取り除けば、すぐに治るみたいです」
羊人族たちは歓喜する。
「それでは早速、お願いできますでしょうか?」
「もちろんです」
すぐに解決するものと思っていたが、そうはいかなかった。
ナイフやハサミで毛を切ろうとしたが、全く切れなかった。
「聖獣の毛だけあって、普通のナイフやハサミでは切れません・・・何か凄いハサミでもあれば・・・」
ピンときたサチコさんが、神器の高枝切りバサミを取り出す。
「私が切ってやるよ。どこら辺を切ればいいんだい?」
ヒロコさんの指示に従って、サチコさんがブラックシープの毛を切り始める。腐っても神器なので、毛はどんどんと切り取られていく。
しばらくして、真っ黒なヒツジが姿を現した。
羊人族の族長が涙を浮かべ、ブラックシープに懐かれているサチコさんに言う。
「本当にありがとうございます。聖女様が二人も誕生するなど、本当に幸運なことです」
獣王も続く。
「そうだな。サチコ殿も聖女に認定しよう。貴殿は獣王国において、何不自由ない暮らしを約束する」
これに待ったを掛けるのは、エルフの族長エルノールさんだ。
「サチコ様は、エルフ族の伝説の巫女です。聖女などという訳の分からない存在ではないのです。世界樹と精霊様をお守りする崇高な使命を持つ・・・」
言い掛けたところで、獣王が怒鳴る。
「エルノール!!聖女を愚弄するとは許さん!!表に出ろ!!」
ここにドワーフの大使であるバルトさんも加わる。
「そんなことよりも、採掘神様であるヒロコ様のお話をしましょう。ヒロコ様は、採掘神様としてドワーフの国に連れて帰らせていただきます」
これには、獣王もエルノールさんも激怒する。
「「黙れ!!ドワーフ!!」」
慌てて、俺たちや獣王の側近たちが仲裁に入る。
少し落ち着いたところで、グレーテルお嬢様が言う。
「これは大変なことになったぞ・・・停戦の話どころか、新たな戦争が起きかねん・・・」
★★★
次の日早速、話合いの場が設けられた。
仕切りはグレーテルお嬢様だ。
「まず、それぞれの主張を整理しよう。獣王国の主張としては、サチコ殿を聖女に認定し、獣王国に引き取りたい。しかし、エルフとしては、サチコ殿は伝説の巫女であることから、この話には応じられない。一方ドワーフの主張としては、獣王国の聖女であるヒロコ殿を採掘神として認定し、国に連れ帰りたい。当然、獣王国としては受け入れられないという訳じゃ・・・」
グレーテルお嬢様が聡明なところは、この不毛な争いに参加しなかったことだ。
シェーンブルグ王国としても、勇者として無理やりサチコさんやヒロコさんを連れ帰ることを主張できたかもしれないが、そうはしなかった。
サチコさんが言う。
「私が必要というか、このハサミが必要なんだろ?だったら、何本かヒロコさんに預けるよ」
ヒロコさんも言う。
「私もツルハシは使いませんので、よろしければお貸ししますよ」
これには獣王もバルトさんも悩む。
「サチコ殿のハサミがあれば、多毛症が再発してもブラックシープ様は助かる・・・」
「こちらも、ツルハシがあれば採掘が便利に・・・」
カヨさんが言う。
「道具を持っているだけで、聖女とか採掘神とかいうのは、おかしいんじゃないでしょうか?私だってできますよ」
カヨさんはスキルで、フォークを出したのだが、フォークの先の部分をかなり丸くして、フォークというか櫛のようなものを出した。
「ヒロコさん、これでシロちゃんをブラッシングしてあげてください」
「いいですね!!シロも喜びます」
ヒロコさんがブラッシングすると、シロは「クウーン」と甘えた声を出して、喜んでいた。
俺も続く。
スコップぽいスプーンを出現させて、バルトさんに手渡す。
「どうですか?けっこういいスコップでしょ?」
「なかなかのスコップですね・・・これをいただいても?」
「もちろんです。ですから、ヒロコさんを連れ帰るなんて言わないでください。ドワーフの酒神様であるマナミさんが取られたら嫌でしょ?」
「それはもう、暴動が起きるレベルです」
「獣王国にとってヒロコさんは、そういう存在なのです」
獣王も察したようで、謝罪をした。
「サチコ殿もエルフにとっては、そういった存在なのだろうな。無理を言ってすまなかった」
エルノールさんが言う。
「分かっていただけたら、構いませんよ。それよりも今後の話をしましょう」
そこからは、気を取り直して帝国との停戦について、話し合うことになった。
グレーテルお嬢様が言う。
「妾は、いいことを思いついたぞ。ケイスケたちには、又苦労させることになるがのう・・・」
「できる限りにことはしますよ」
そうは言ったものの、俺たちは何をさせられるのだろうか?
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