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【連載版】異世界スプーンおじさん~世界を救う勇者  作者: 楊楊
第一章 勇者として

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26 聖女

 ちょっとしたトラブルはあったが、無事に獣王国へ到着した。


 ここで少し、獣王国について解説しておく。

 獣王国は王国を名乗ってはいるが、多数の種族の集合体だ。というのも獣人と一口に言っても、多くの種族がいる。猫の特徴を持つ猫人族やライオンの特徴を持つ獅子族などが挙げられる。

 その中で現在、獣王となっているのは餓狼族だそうだ。


 獣王の決め方も独特で、聖獣と呼ばれる知能の高い魔物を使役することが条件だそうだ。現在、聖獣フェンリルを従えている餓狼族の族長が獣王らしい。

 グレーテルお嬢様が全員に注意する。


「くれぐれも聖獣様を馬鹿にするようなことはするなよ。それに獣人の中には人間を激しく憎んでいる者も多い。言動には注意するように」


 俺たちは緊張しながら、入国手続きを行った。

 獣王国の担当者が言う。


「お前たちは、この辺では珍しい黒髪に黒い目をしているな。もしかして聖女様と関係があるのか?」


 聖女様?


 気になったので、それとなく聞いてみた。


「聖獣様をお救いになられた尊いお方だ。そのお方の容姿にお前たちが似ているんだ」


 俺は話を合わせる。


「もしかしたら、同郷の方かもしれません。私たちは、「大いなる悪」に立ち向かうために世界各地に散らばって、活動しているのです」

「本当か!?それは大変だ!!

 おい!!すぐに獣王様に伝えろ!!聖女様の同郷の方に粗相があってはならん。すぐにもてなしの準備を!!」


 グレーテルお嬢様が言う。


「もしかしたら、ここにケイスケたちの知り合いがいるのかもしれんな」



 ★★★


 予想通り、聖女は転移者だった。

 柴田弘子しばたひろこさん、35歳。日本では獣医をしていたそうだ。


 グレーテルお嬢様が、代表して獣王に説明をする。


「聖女殿の同郷の者であったか!?それでは早速宴を開こう。難しい話はその後だ。ドワーフの酒もあるんだろ?」

「もちろんじゃ。そのために用意してきたぞ」


 詳しい話もできないまま、宴に突入してしまった。


 宴となれば、俺のやる事は決まっている。

 今日もいつもどおり、スプーン曲げを披露する。子供も多く参加していたので、子供用のネタを中心に行ったところ、大ウケだった。ステージを終えると、グレーテルお嬢様が笑顔で頷いていた。合格点をもらえたのだろう。


 席に戻るとカヨさん、サチコさん、ヒロコさんの女性陣で盛り上がっていた。

 ヒロコさんが言う。


「お疲れさまでした。お二人に聞いたのですが、ケイスケさんも苦労されたそうですね」

「私だけじゃなく、みんな苦労しましたよ。全部、あの馬鹿女神の所為ですけど」

「それもそうですね・・・」


 俺たちの事情は、カヨさんとサチコさんが話してくれていたので、ヒロコさんの事情を聞いた。


「私も訳が分からないまま、獣王国に転移させられました。丁度その時、こちらのシロに出会いました」


 ヒロコさんに甘えている大きな白いオオカミを紹介してくれた。

 この白いオオカミが神獣フェンリルだそうだ。


「出会ったとき、シロは大怪我をしていたので、私は獣医の経験を生かして、応急処置をしました。そうしたら、シロと話せるようになったんです」


 神獣フェンリルはこれと認めた相手には、念話で会話することができるそうだ。


「それから、私は近くの村で暮らしていました。シロを連れているだけで、みんなからは聖女と崇められてしまって・・・でも、そこからしばらくは、辛かったですね」


 ヒロコさんが言うには、村の人たちの期待が辛かったという。


「ひっきりなしに村人が来て、怪我や病気を治してくれと言われました。獣医ですから、多少は医術の心得はありますが薬もなく、医療設備の整っていない環境では、満足に治療なんて、できませんでした」


 カヨさんが言う。


「それは辛かったですね。それから、どうされたのですか?」


「何とか、村人を助けようと頑張りました。この世界には魔法やポーションのような魔法薬があるので、必死で勉強しました。幸い文字は理解できましたし、村に昔住んでいた回復術師の文献も多く残っていたので、独学で回復魔法と簡単な調合薬を作れるようになりました」


 凄すぎる・・・

 神器を使わずに魔法や魔法薬の調合を身につけるなんて・・・


「まあ、師匠はシロなんですよ。シロは魔法も得意ですから、コツを教えてもらいました。そして、よく分からないまま、目の前の患者を治療していたら、いつの間にか獣王様がやって来て、獣王国の聖女に認定されてしまったのです」


 サチコさんが言う。


「それじゃあ、神器なんて使う必要は無いよね?」

「そうですね。一度取り出して、手紙を確認した以外は、使ってませんね。それに私の神器は「神聖なツルハシ」ですから、使い道が・・・」


 まあ、ないだろう・・・


 とりあえず、確認だけはしておこう。


「確認で、見せてもらうことは可能でしょうか?」

「いいですよ。でもごくごく普通のツルハシですよ」


 ヒロコさんがスキルで出したツルハシを確認する。

 本当に普通のツルハシだった。


「これで戦えと言われるほうが無茶ですよね?私も世界の危機は何とかしたいと思っていました。でも、私に戦うことなんて、できません。ですので、少しでも世界が良くなるように病人や怪我人の治療を続けていこうと思っています」


 立派な考えだ。


「それでいいと思うよ。私だって一番大事なのは、エルフや精霊たちだからね。身近な人を幸せにすることだけを考えればいいんじゃないのかい?」


 サチコさんは、シロと嬉しそうに戯れている精霊様を見ながら言った。


 そんな話をしていたところに、バルトさんがやって来た。

 そして、ツルハシを見て大興奮していた。


「こ、これは・・・こんなところに採掘神様がいらっしゃるなんて・・・」


 カヨさんが言う。


「ドワーフだから、ツルハシに食いついたんでしょうね?それに採掘神って・・・」

「間違いなくそうですね。ややこしい話にならなければいいのですが・・・」


 ヒロコさんをドワーフの国に連れて帰るとか言い出したら、それこそ獣王国とドワーフの国とで戦争になるだろう。

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