23 酒神様
ドワーフの国に到着した。
ドワーフの国は、鉱山地帯にあり、そこらかしこから金属音が聞こえる。町の入口で手続きをしたのだが、あっさりと入国が許可された。それに愛想もいい。門番二人がわざわざドワーフの王の所まで案内してくれるという。お礼を言うと、門番は言った。
「これはアンタらのためじゃないんだ。というのも、これから酒神様が新作の果実酒を発表されるんだが、アンタらの案内にかこつけて、俺たちもご相伴に預かろうと思ってな」
「いい口実ができたから、礼を言うのはこっちのほうさ。ここだけの話、酒神様はドワーフじゃないんだ。王様が行き倒れになっている少女を保護してな。その少女が酒神様となったんだ。だから、他種族にも親切にしたら、いい酒が飲めるかもしれねえしな」
そして、その門番は驚きの発言をする。
「そういえば、アンタらは酒神様とよく似ているな。もしかして、酒神様と同郷の人たちか?」
カヨさんが言う。
「もしかして、ここに私たちと同じ転移者がいるんじゃないんでしょうか?」
「その可能性は高いですね。でも、神器は全く使っていないようですけど・・・」
「ぶっちゃけた話、神器を使わなくても生活するだけなら、何とでもなりますからね」
そのとおりだと思う。
俺がスプーン曲げを始めたのも偶然が重なっただけだし、実際俺もスプーンを使って生活しようなんて、最初は全く思わなかったしな。
王城に着くと、すぐに謁見してくれることになった。
しばらくして、謁見の間にドワーフの王が現れた。ドワーフの王は他のドワーフに比べて、背が高く、少しほっそりしていた。細いと言ってもドワーフに比べてだ。人間の感覚だと、それでもがっしりとした体型だ。エルノールさんが言うには、エルフとドワーフのハーフだという。そういう事情なのでエルフにも比較的好意的だという。
「よく来られたな、エルノール殿。ゆっくりして行ってくれ。それに今日は新酒の発表会だ。絶対にエルフも気に入るぞ」
「バルク殿、それは嬉しいが、こちらは緊急の用件があって参ったのだ。まずはその話を・・・」
言い掛けたところで、ドワーフの従者が謁見の間にやって来た。
「国王陛下、準備が整いました!!」
「そうか!!ではすぐに行く。エルノール殿、こちらも緊急の用件なのだ。あまり、民たちを待たせると暴動が起き兼ねん。込み入った話なら、なおのこと後にしてくれ」
「分かった。突然、押しかけたのはこちらであるしな」
「では参ろう。お付きの者にも振る舞ってやる。楽しみにしておいてくれ」
ドワーフの酒好きは有名だ。
ここで無理にこちらの用件を伝えても、いい話にはならないだろう。いい感じに酔いが回ったところで、交渉に持ち込むこともできるだろうし。
ドワーフの王に案内され、城の外にある広場に移動する。
広場は既に超満員だった。
設置されているステージの上にいる司会のドワーフが話し始める。
「今、国王陛下が到着されました!!それでは皆さん、お待ちかねの新酒を振る舞います。くれぐれも国王陛下の乾杯の挨拶まで、飲まないでくださいよ!!飲んだら死刑です!!」
観客から笑いが漏れる。
国王陛下と共に、俺たちもステージの上に上げられた。
「ここに我が友人を連れて来た。彼らは運がいい。新酒が飲めるのだからな。それでは、皆待ちきれない顔をしているので、難しい話はなしだ。今日という日に感謝して、乾杯!!」
「「「乾杯!!」」」
ドワーフが我先にと広場の各所に設置されている酒樽に群がる。
「飲みやすい・・・」
「このシュワシュワした感じは、エールに似ているな」
「でもこれは果実酒だろ?どういうことだ?」
俺たちにも酒が振る舞われた。
エルノールさんを含むお付きのエルフたち、グレーテルお嬢様たちは感動している。カヨさんが言う。
「これってチュウハイですよね?」
「そうですね。ここで、こんなに美味しいチュウハイが飲めるなんて思いませんでしたね」
サチコさんも唸る。
「こりゃあ、日本でも飲めない旨さだよ。原料はエルフが作ったフルーツだから、旨いに決まってるんだがね」
そんな話をしているところに黒髪の女性がステージに登場する。年の頃は30歳前後だ。見た感じ、どう見ても日本人だし、何となくだが、見覚えがあるような気がする。
ドワーフの王が言う。
「マナミ、皆に説明を頼む」
「はい、陛下」
マナミという女性は、広場に集まっているドワーフたちに語り掛ける。あれほど騒いでいた観衆が静まり返る。
「ドワーフが大好きな火酒は、酒精が強すぎて他種族にあまり好まれません。ですので、果実酒を私は作りました。そして、このお酒は果実酒を炭酸水で割ったものです。ドワーフ好みの酒精が強いタイプと他種族用に酒精を押さえたタイプを作っています。飲み比べてください」
ドワーフの王が引き継ぐ。
「果実酒はエルフたちにも評判がいい。だから、この酒は間違いなく売れる。今後は、工芸品や武器だけでなく、本格的に酒の輸出も始める。これからは忙しくなるぞ。まあ、今日はそんなことは気にせず、楽しんで飲め!!」
再び歓声が上がる。
マナミさんは俺たちに気づいたようで、声を掛けて来た。
「もしかして、日本の方ですか?」
「そうです。女神に神器を渡され、こちらに転移してきました。ここにいるカヨさんとサチコさんも転移者です。今日は来てませんが、後二人いるのですがね」
「そ、そうなんですね・・・」
ドワーフの王が言う。
「マナミの同郷の者であったか・・・折角だ、旨い酒でも飲みながら、旧交を温めるといい」
グレーテルお嬢様が言う。
「交渉は明日からじゃな。これから交渉は無理じゃろう?」
こうして、俺たちは予期せず、6人目の転生者と邂逅することとなった。
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