19 襲撃
今回もエルフたちは大歓迎してくれた。
初めて訪れた王太子殿下やパメラさんたちにも世界樹を見せてくれた。エルフが言うには、余程のことがないかぎりは世界樹は見せないそうだ。エルフとして、最大限の敬意を払っていることになる。
王太子殿下とグレーテルお嬢様を中心に会談が進む一方、俺は子供たちや精霊様にスプーン曲げを披露する。カヨさんも最近は慣れたもので、自信を持って芸を披露していた。サチコさんも褒めてくれる。
「大したもんだね・・・アンタも苦労したんだろうね。それにしても、全く使えないと思っていた神器を授かった私たちだけが生き残ったのも、皮肉なもんだね」
「私もそう思います。最初に貰った神器が強力な武器だったら、すぐに死んでいたでしょうね」
「私は神器やスキルもそうだけど、人との出会いも大切だと思うよ。もし最初に会ったのがエルフたちじゃなかったら、どうなっていたか分からないしね」
「それは私も同じですよ。グレーテルお嬢様に声を掛けてもらわなければ、今頃・・・あっ、結局スプーンおじさんのままか・・・」
「そりゃ違いないねえ・・・」
そんな他愛のない話をしていた時に事件が起きた。
エルフの若者が駆け込んで来た。
「大変です!!ワイバーンです!!それも3匹います」
すぐに歓談を中止して、エルノールさんも対策に当たる。
「クソ、こんな時に・・・すぐに非常体制を取れ!!戦えない者は避難だ。100年前の教訓を忘れるな」
ワイバーンは飛竜種に属するドラゴンだ。
エルノールさんの話では、エルフと相性が悪いそうだ。100年前に襲撃された時は、エルフの得意とする弓が届かず、反対に上空からブレス攻撃をしてきて、大損害を被ったそうだ。
カヨさんも続く。
「冒険者ギルドでも、超危険生物として有名です。出現情報があったら、100人規模の討伐隊が組まれるのが普通です」
流石に俺でも、かなりの高度を飛び回るワイバーンに先割れスプーンを当てることはできない。
「地上に降りてきてくれたら、何とでもなるんだけどなあ・・・」
俺の一人ごとを聞いていたサチコさんが言う。
「地上に降ろすだけなら、多分、私にできるよ。後のことは本当に大丈夫なんだろうね?」
「もちろんです」
「じゃあ、任せたよ!!」
そう言うとサチコさんは、神器の「高枝切りバサミ」を取り出し、高枝切りバサミの先端をノコギリに変形させ、空高く伸ばした。馬鹿女神にバージョンアップしてもらった機能らしい。
そして、サチコさんは高枝切りバサミを力任せにワイバーン目掛けて殴りつける。ワイバーンはバランスを崩して地上に落下した。
ここからは俺の出番だ。
「出でよ、先割れスプーン!!」
大量の巨大な先割れスプーンが、地上でもがいているワイバーンに降り注ぐ。あっという間にワイバーンはミンチになった。
「よし!!この調子で、残りのワイバーンを・・・」
言い掛けて気づいた。
エルフたちはおろか、俺の能力を知っているはずの王太子殿下やそのお付きの方々もドン引きしている。
ショウタ君が言う。
「ケイスケさん、やり過ぎだよ。ワイバーンの素材は、かなり高値で取引されるんだぞ。今度は俺にやらせてくれよ」
サチコさんが言う。
「やっつけてくれるんなら、どっちでもいいよ。じゃあ、いくよ!!」
サチコさんは2体目のワイバーンを叩き落とした。
ショウタ君が地上でもがいているワイバーンに颯爽と近づき、神器のステーキナイフで首を切り落とした。ショウタ君によると、ステーキナイフの切れ味を極限まで高めたそうだ。
「どんなもんだい?俺だって、これくらいはできるんだぜ」
得意気になっているショウタ君にパメラさんが、文句を言う。
「アンタ!!危険なことはしないって言ったじゃないか?」
「そ、それは・・・そんなに危険でもないし、ワイバーンの素材が・・・」
そんな夫婦喧嘩をよそにカヨさんが言う。
「今度は私がやります。こう見えて、私も勇者ですからね」
同じ要領で、地面に叩き落とされたワイバーンにカヨさんが近づき、神器のフォークでめった突きにして、討伐していた。
あっという間のできごとだった。
エルフたちが口々に言う。
「ワイバーンが、こんなにあっさり・・・信じられん」
「100年前は囮を使ったり、罠を張ったり、3日程撃退に費やしたんだが・・・」
「そうだな。大損害だったし、撃退したというよりは、アイツらが諦めて帰った感じだったがな・・・」
落ち着きを取り戻した族長のエルノールさんが感謝の言葉を述べる。
「サチコ様、勇者の皆様方、本当に貴方たちのお蔭で我々は救われました。こちらで差し出せるものは、何でも差し出します。何でも言ってください」
これには俺も含めて、グレーテルお嬢様たちも悩む。
そんなとき、ショウタ君が言った。
「だったら、ワイバーンの素材を少し分けてくれないか?解体は俺がしてやるからさ」
「そんなことで、よろしいのですか?いくらでも差し上げますが・・・」
「よし!!ここからは俺の出番だ!!解体王様の真の実力を見せてやるぜ!!」
そう言うが早いか、ショウタ君はステーキナイフを片手にワイバーンの死体を解体していく。素人目に見ても、見事なものだった。
「折角だから、私が料理してやるよ。そうだな・・・ステーキと唐揚げならすぐにできるか・・・ショウタ!!胸肉とモモ肉を早めに処理してくれ」
「分かったよ。ついでにカットもしてやるよ」
そう言えば、パメラさんは王都でも評判の食堂を経営していたんだった。
その脇で、グレーテルお嬢様と王太子が何やら話している。
「ここはワイバーンの素材だけで、手を打ってエルフに恩を売るのも、いいかもしれませんぞ」
「うむ、そうしよう。多少の貢ぎ物よりも信頼のほうが価値があるからな」
こういったところは、流石王族や貴族だと思ってしまう。次の次の手を打つのも大事だからな。
それからは、宴が始まった。
ただ、前回ほどスプーン曲げはウケなかった。子供たちが俺とカヨさんに怯えていたからだ。
そして、今回の事件はエルフ族に長く語り継がれることになる。50年も経つとある教訓が生まれた。悪い子には空からスプーンが降ってくると・・・
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