16 勇者パーティーの活動
オーベルト男爵領から帰還した俺たちだが、しばらくはこれと言った活動はなかった。
というのもエルフの国とは国交がなく、エルフ自体が人間族を嫌っており、交渉が難航しているようで、エルフの国に出発できないでいる。
勇者パーティーとしての活動は週に2回程度で、後は三人バラバラに活動している。俺は空いた時間を訓練とスプーン曲げの公演をこなし、孤児院などの慰問活動も行っている。最近は自分が勇者であることを忘れそうになる。まあ、しがないスプーンおじさんで、別に構わないけどな。
カヨさんはというと、勇者パーティーの活動がないときは俺と一緒に訓練したり、一人で魔物を狩りに行ったりしている。また、俺にスプーン曲げならぬ、フォーク曲げを習っている。
「難しいですね。形状変換はセンスが必要なんだと思います。私もショウタ君もケイスケさんみたいに上手くできませんからね。大きさもそうですけど、あんなに簡単に出したり消したりできませんよ。コツとかあるんですか?」
「難しいですね・・・私は自然にできましたからね・・・」
「そうなんですね・・・」
「今のままでも、それなりにお客さんには見せられますよ。後はトークと場数ですね」
フォーク曲げはお世辞にも上手いとは言えない。
形状変換は時間が掛かるし、そんなに大きくもできない。カヨさんが言うには、普段戦闘で使うフォークならすぐに出せるようだが、出してから自由に形を変えるのはどうも勝手が違うらしい。
まあでも、30秒くらい掛けてゆっくり曲がるから、それはそれで味があっていいんだけどな。
カヨさんに指導してみて思ったが、もはや勇者ではない気がする。
一方のショウタ君は、勇者パーティーの活動以外は、冒険者ギルドの臨時職員として働いている。
最近思うのだが、こんな日がずっと続けばいいのにと思ってしまう。
そんな時だった。事件が起きたのは・・・
★★★
ある日、泊りがけの討伐依頼をこなして、冒険者ギルドに帰還したのだが、受付で小さな子供を二人連れた30歳前後の女性が、受付嬢に食って掛かっていた。
「私の旦那をどこにやったんだ!?」
「そう言われましても、本日は勤務していないのです」
「そうか・・・浮気したんだな・・・最近泊りの仕事がやけに増えたから、怪しいと思ってたんだ。だったら誰と浮気してるんだ?正直に言えよ」
「それを私に言われましても・・・」
どうやら、彼女は冒険者ギルドの職員の奥さんで、旦那が「泊りの仕事がある」と嘘をついていたことが発覚し、激怒しているようだ。
夫婦喧嘩は犬も食わないと言うけど、俺は勇者という設定だから、止めたほうがいいんじゃないだろうか?
喧嘩と聞くと、いつもなら訳も分からず、面白半分で首を突っ込む冒険者も、見て見ぬふりをしている。
俺が声を掛けようとしたところ、ショウタ君とカヨさんがその女性に声を掛けた。
「パメラ!!何をやってるんだ!?」
「そうですよ、パメラさん。少し落ち着いてください」
「ショウタ!!今までどこに行ってたんだ?嘘をついてまで・・・なるほど、そういうことか・・・カヨ!!恩を仇で返すとはこのことだね」
修羅場の匂いがする・・・
多分だけど、パメラさんという女性はショウタ君の奥さんで、カヨさんを浮気相手だと勘違いしているようだった。
仕方がないので、俺は受付嬢に言って、個室を用意してもらった。
パメラさんから事情を聞く。
パメラさんは、駆出し冒険者がよく利用する食堂の主人で、カヨさんもショウタ君も冒険者に成り立ての頃は、お世話になっていたそうだ。そして、いつの間にか、ショウタ君はその食堂に入り浸るようになり、気がつくとパメラさんに絡め取られたそうだ。因みに二人の子供は、亡くなった前の旦那さんとの間にできた子供らしい。
まあ、ショウタ君くらいの年齢なら、そうなっても仕方がない。可哀そうなような、羨ましいような・・・
俺はパメラさんに事情を説明する。
「私は勇者のケイスケです。一般的にはスプーンおじさんと言ったほうが有名かもしれません。実はショウタ君は、勇者として活動してもらっていたのです」
ここで、すかさずスプーン曲げを披露した。
パメラさんの子供たちは早速食いついた。
「凄い!!」
「前にも見せてもらったよ。託児所に来たでしょ?」
パメラさんが言う。
「スプーン芸人のアンタのことは知ってるよ。それで勇者だって?」
「そうです。世界を救うため、私たちは活動しているんです。スプーンなだけに・・・」
場が凍りついた。親父ギャグは不発だったようだ。
俺のギャグが無かったかのようにパメラさんは話を続ける。
「じゃあ、聞くけどショウタはカヨと浮気してるんじゃないんだね?」
カヨさんが答える。
「もちろんです。神に誓ってそんなことはありません。それに私はこちらのケイスケさんとお付き合いをさせていただいてますし・・・」
あれ?俺たち付き合ってたっけ?
カヨさんは俺に目配せをしてくる。
多分、カヨさんはパメラさんを落ち着かせるために嘘をついたのだろう。パメラさんは、かなり嫉妬深いようだし・・・
俺は話を合わせることにした。
「そうです。私とカヨさんは付き合ってます。ですので、落ち着いて話を聞いてください」
「そうかい・・・カヨ、疑って悪かったよ。じゃあ、そちらの事情とやらを詳しく教えてくれよ。それにしてもショウタ、アンタが嘘をついていたことに変わりはないからね」
ショウタ君は震えている。
★★★
詳しく聞くと、ショウタ君は勇者になったことはおろか、冒険者として活動していることも内緒にしていたそうだ。これには事情がある。
「私の前の旦那が冒険者で、討伐依頼に失敗して死んだことは話したよね?私と結婚する時に、冒険者は辞めると約束したけど、あれは嘘だったのかい?」
「そ、それが・・・少しでも稼ぎを良くしたいと思って・・・」
「稼ぎよりも、私はアンタのことが心配なんだ・・・もうあんな思いは、私もこの子たちもしたくないんだ・・・それにお腹の中には、アンタの子もいるんだよ」
驚きの事実を知る。
因みにショウタ君は臨時のギルド職員と言っていたが、本当はギルドの正規職員で、神器である「聖なるステーキナイフ」を使って、主に魔物の解体を行っているようだ。それで、「解体王」という二つ名になったらしい。
「つまり、パメラさんはショウタ君に冒険者は辞めてほしいということですね?ただ、国から正式に勇者として認定を受けてしまった以上、私が勇者を辞めていいとは言えません。一度持ち帰って検討してもいいでしょうか?」
「そっちにも迷惑を掛けたね・・・それで頼むよ」
すぐにグレーテルお嬢様に報告して、指示を仰いだ。
結局、ショウタ君の勇者認定は、取り消されなかった。
但し、ショウタ君が勇者パーティーとして活動できるのは、日帰りの依頼のみになってしまった。王都周辺は、そこまで強い魔物は出現しないから、パメラさんも渋々この条件を呑んだようだった。
「今のところ、目の前に危機が迫っているわけではないから、当面はそれで構わん。それに神器は使えば使うほど、能力が上がるのであろう?だったら、ギルマスに言って、死ぬほど解体させてやる。冒険者ギルドだけでなく商業ギルドに頼んでもいいかもしれんな・・・」
ショウタ君は辛い日々を過ごすのかもしれない。
それはそうと、ショウタ君は臨時のパーティーメンバーになってしまった。
こんなことで、「大いなる悪」に立ち向かえるのだろうか?
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