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【連載版】異世界スプーンおじさん~世界を救う勇者  作者: 楊楊
第一章 勇者として

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15 神聖な鉄パイプ 2

 オーベルト男爵の奥さんは、この世界では「サクラ」と名乗っている。

 本名は水原律子みずはらりつこ、28歳の現役キャバ嬢だった。「サクラ」はその時の源氏名らしい。オーベルト男爵に頼んで、俺たち転移者だけにしてもらい、詳しい事情を聞く。


「とりあえず、こっちに来る前から話そうかしらね。日本にいた時は、キャバクラに務めていたのよ。それで一生懸命にお金を貯めて、やっと自分のお店が持てるようになったのよ。事故に遭ったのは、物件を見に行った帰りだったわ。これからって時に、本当にツイてないわ・・・」


 少し悲しい気持ちになる。

 俺たち三人も、日本での生活を思い出したからだ。ショウタ君なんかは、涙を流している。


「こっちに来てからも大変だったわ。ザクセンの近くの森に転移したんだけど、お金は全くないし、あるのはよく分からない鉄の棒だけでしょ?だから、商業ギルドに行って、仕事を探したわ。そこで酒場のウエイトレスの募集があったから、とりあえずウエイトレスの仕事をすることにしたのよ」


 そこで常連のオーベルト男爵に見初められたサクラさんは、熱烈なアプローチを受けて、オーベルト男爵と結婚したそうだ。


「彼は真面目でいい人よ。でも、この領は貧乏でね。領主婦人といっても贅沢はできなかったのよね。それに彼は、自分たちのためにお金を使おうとせず、困っている領民に使ってしまうのよ。最初は「何でそんなことするのよ!?」って思っていたけど、だんだん、私も領民のために何かしてあげようと思ったわけよ。もらった神器は使い物にならないけど、これでもキャバ嬢として不動のナンバーワンだったし、現代日本の知識もあったからね」


 まずサクラさんは、うどんを開発したという。

 実家がうどん屋だったこともあり、試行錯誤の末、今のうどんを開発したようだ。


「ダシを取るのに苦労したわね。干し肉や魚の干物なんか色々試したわ。レシピは秘密だけどね」


 その後、お好み焼きなどを開発、化粧品事業も手掛けたそうだ。

 それでオーベルト男爵領は大発展した。領民も裕福になり、町も活気が出てきている。功績だけを考えると、勇者と言って差し支えない。


「こっちに来て辛いこともあったけど、彼と出会えたし・・・諦めていた温かい家庭も築けたしね。ところで、女神の手紙にも書いてあったけど、結局、私はどうすればいいの?」


 そうだ。それが問題なんだ。

 女神は勇者認定式にやって来て、好き勝手指示して帰ったけど、結局具体的な指示はしていかなかった。とりあえず、仲間を集めようということで、ここに来たけど、俺たちも具体的に何をするのか分かっていないんだ。


「それが「大いなる悪」を打ち倒せとしか、私たちも指示されてないんですよ」

「そうか・・・あの女神はポンコツだから、仕方ないわね。それと私は戦闘は無理よ。だって・・・」


 サクラさんはお腹をさする。

 察しのいいカヨさんがお祝いを述べる。


「おめでとうございます。何ヶ月ですか?」

「丁度3ヶ月ね。だから、出来るかぎり協力はするけど、あまり力には、なれそうにないわ」


 流石の馬鹿女神も妊婦に戦えとは言わないだろう。


 一緒に勇者パーティーに入ってもらう話は諦め、俺は疑問に思ったことを聞く。


「女神によるとサクラさんの神器のスキルレベルは相当高いそうです。どうやって、レベルを上げたんですか?」

「特に何もしてないけど・・・」

「神器は使えば使うほど、レベルが上がると聞いているのですが?」

「使うには使ってるけど、本来の使い方ではないと思うんだけどね。まあ、折角だから使っているところを見せてあげるわ」


 それからサクラさんに中庭に案内された。

 庭の隅っこに洗濯物が干してある。


「何本かは物干し竿として使ってるわね。自由に伸び縮みするから、メイドさんたちには評判がいいのよ」


 女神が聞いたら、「神器になんてことを!!」とか言って怒り出すだろう。それは俺にも言えたことだけど・・・


 続いて案内されたのは厨房だった。

 サクラさんが異空間から鉄パイプを取り出し、うどんを捏ね始めた。どうやら麺棒として使っているようだ。


「一度異空間に仕舞って、取り出したら汚れも落ちるのよね。洗わなくていいから、便利なのよ。スープを作る時に混ぜ棒として使うこともあるわよ」


 こんなことでも、スキルレベルが上がるようだ。

 カヨさんが言う。


「一所懸命に魔物と戦っていた私は何だったんでしょうか?」

「まあ、私もスプーン曲げしかしてませんでしたしね」

「それもそうですね。最初に女神様も言ってくれればよかったのに・・・」


 そんな中、ショウタ君は意味深なことを呟いた。


「それで、俺のほうがカヨさんよりもレベルが高かったのか・・・」



 ★★★


 サクラさんから聞いた内容をグレーテルお嬢様に報告する。

 グレーテルお嬢様は一旦持ち帰って、国王陛下に伺いを立てるという。そうして、俺たちはサクラさんと別れて、一旦王都に帰還することになった。


 王都に帰還して3日後、グレーテルお嬢様に俺たち三人は集められた。


「結論から言おう。サクラの勇者認定は見送られることになった。理由は色々あるが・・・」


 グレーテルお嬢様によると、シェーンブルグ王国の一番の懸念事項は、危険性の有無らしい。俺が勇者となったのも規格外の戦闘力があるからだ。今のところ、サクラさんに危険性はないし、本人も戦う気なんてない。


「サクラは領主の妻じゃ。当然貴族としての義務がある。オーベルト男爵も忠誠心が高いと評判じゃから、何かあれば王命を発動すれば事足りるというのが、上層部の判断じゃな。それにいくらなんでも、妊婦に戦えと命令することはない」


 シェーンブルグ王国がまともな国で、心からよかったと思う。


「どうしてもサクラが必要になれば、その時はその時で考える。じゃから、当面はサクラのことは秘匿とする。良いな?」


 こうして、転移者は見つかったが、その転移者は「大いなる悪」に立ち向かうことなく、自分の人生を生きることになった。


 本当は、俺がそのポジションだったんだけどな・・・

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