表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/5

行きたい理由

ソルは、しばらく黙っていた。


 店の奥で、透明な石の秒針だけが、カチッカチッと静かに音を刻んでいる。

 私は、なんとなく落ち着かなくなって、さっき作った薬袋を指ではじいた。


「……ババニに教えてもらったんです」

 ぽつりと、ソルが言う。

「『地の断片』には遠環が必要だって、そういわれたんです」


 私は少し考える。

「うーん……。まず、どうして、遠環にいきたいのか、質問していい?」


「理由……」

 ソルは私を見た。


「うん。遠環に行きたいんだろうなぁってのは、私には伝わったよ」

 カウンターに並んでいる小瓶を、種類ごとに並び替えながら、話を続ける。

「でも、遠環に行きたい理由がわからないかも」


「理由かぁ……」

 先ほどの瞳の輝きはどこへやら、黒いまつ毛が青い瞳に影を作る。

「その前に、前提から話そうかな。遠環へ行くために、僕は星路院に潜り込んだ」


「えっあなた、星路院の遠環観測員なの?」

 私は、ソルの服装をまじまじと見る。

 私だって、星路院を知らないわけじゃない。

 この町にも、ときどき遠環観測員は来る。

 でも、みんな白い制服の見習いばかりだった。


 ソルは紺色の制服だし。なにより胸元には銀糸の星が縫い込まれている。見習いじゃない。正式な遠環観測員だと思う。

 見たことないけど。


 私が、びっくりした顔で、頭から足のつま先まで、ソルを眺めていると、ソルはちょっと困った顔をした。


「勘違いしてる」

 ソルは小さなため息をついた。

「僕は潜り込んだって言ったでしょ。この制服は、もともと兄のなんだ」


「えっどういうこと?遠環観測員だったのは、お兄さんってこと?」

 頭が追い付かない私に

「正解」

 ソルはこともなげに言う。

 

「ってことは、ソルは……」

 その時、ガランとドアベルの音がして扉が開いた。鼻筋が通った顔に、そばかすがアクセントになっている。三軒隣りに住む三つ子のお母さんのミリリさんだ。


「あら、お客さんかしら」

 私は、ソルはお客さんなのかな、と一瞬悩む。

 そんな私をよそに、ソルはミリリさんに、軽く会釈をした。


「お構いなく。僕の注文は済みましたから」

 なんですって?!終わった?!なにが?!えっ『地の断片』?!オッケーしてないんですけど!!と、叫びたかったけど、ミリリさんの手前、大声も出せず、ひきつった顔で、

「いらっしゃいませ」

と、答えるしかなかった。


 ミリリさんは、ひとしきり店内を見渡すと、ちょっと困った顔をしてエレナを見た。

「エレナちゃん。ババニさんに、『ねむねむの瓶』を、作ってもらっていたのだけど……」

 

「『ねむねむの瓶』ですね。はい、私が作ったので良ければ、ありますよ」

 私の言葉に、ミリリさんはちょっと動きが止まったが、

「お願いするわ」

といった。ミリリさん。小さいため息ばれてますよ。


 薬棚から、『夕暮れ』と『お日様の香り』を取り出す。

「小瓶はありますか?」と、ミリリさんに尋ねると、慌てたようにハンドバッグから、ミルク色の瓶を取り出した。


 私はそれを受け取ると、『夕暮れ』と『お日様の香り』を入れて、くるくる混ぜる。ミリリさんは気が付かなかったようだけど、『ねむねむの薬』は、以前から私が作っていた。

 ババニは、出来上がった瓶をミミリさんに渡しながら、「うんうん、これで、ぐっすりだ。赤んぼってのは、お日様のぽかぽかに弱いからね。おっと、大人も弱いから、蓋を開けるのはちょっとだけだよ」と、説明していただけ。


 信用の差って、えげつない。ババニ、私には大きすぎるよ。

 私は瓶に栓をする前に、ちょっと思い直して、『夜明け前の毛布』をちょっぴりと足す。まだ、朝方は寒いから。


「できました。ババニが言ってた通り、蓋は少しで」

 精一杯の笑顔で渡す。


「ありがとう。本当にこれがないと、うちの子、上手に寝れないのよ」

 大事そうに、バッグにしまうのを見て、顔がにやける。

「ババニさんのように効いてくれたら、うれしいわ」

 うん、一言多いかな。


 ミリリさんが帰って、私が薬瓶を片付ける間、ソルは店の隅にある椅子に、いつの間にか腰を下ろしていた。


「私に、何を注文したんだって?」

 私は薬瓶から目を離さずに、質問する。


「伝えたけど」

 ソルは答えた。


「はぁー」と、私は大げさなため息をついた。


「作る作らないかは別として、まず、ソル。私の質問に全部答えてもらうからね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ