地球は作れません
私は深呼吸をする。
ソルは、ババニに一度だけ会ったことがある。
ソルは、なぜか、禁忌技術である『地の断片』を知っている。
うん、話は整理できた。うんうん。
うーん。なんか引っ掛かるけど。
最初っから、答えは、決まっていた。
「無理です」
続けて私は、
「それに、もう、その商品はありません」
と、いった。
別段、ソルは、驚いた表情は見せなかった。
「やっぱり、ここにあったんですね」
なぜか、納得した表情を見せただけ。
「あれが、どんなものか、知っているの?」
「ええ。遠い場所と距離を縮めるものでしょう」
うーん。ちゃんと理解しているか疑わしいかも。
「そんなに都合がいいものじゃありません」
私は、肩をすくめる。
「それに、ここにはありません。他をあたってください」
自分で言うのもあれだけど、結構いじわるな返しだなと思う。
『地の断片』は、ババニの専売特許で、しかも禁忌技術だ。どうして、そんなものをババニが作ったのかは、わからないけど。ただ、バニニが禁忌を破った日のことは、よく覚えている。
『これはね。小さい地球なんだよ』
と、ババニの指先から、細い鎖が伸びていた。
鎖には、作り立ての『地の断片』が入った小瓶が括り付けられていて、ババニの動きに合わせて、ゆらゆらと揺れていたのを覚えている。
吸い込まれそうな青だなぁと思ったのも覚えている。
なんとなく、ソルの瞳の色に似ていたかもしれない。ほんのちょっぴりだけど。
ババニはそれを大切そうに、いつも肩にかけているバッグに入れた。
旅立つとき、ババニは、いつも通りバッグを肩にかけていた。中に入った『地の断片』も一緒に持っていったのだ。
だから、ババニが遠環へ行った今、『地の断片』が、この世界にあるのかさえ、疑わしい。
「でも……」と、ソルが言葉を続けようとした、そのとき。
作業場の小瓶が、大きく光った。
その光のせいか、ソルの青い目が、銀色に映る。
うん、調合の途中だったの忘れてた。
「ごめん。ちょっと待ってね」
私はそういうと、作業場にある小瓶へ慌てて駆け寄った。
光は収まっていたけれど、小瓶の中では、まだ黒い煙が渦巻いている。
小瓶の蓋を開ける。
ボンっ!と、軽い音とともに、瓶からは黒い雲が出てきて、消えた。
丸い瓶の中には、キラキラ光る砂粒が少し残っている。
「採取した雲が薄かったかな」
私が独り言のように言うと、それを見ていたソルは、なぜか申し訳なさそうな顔をして「弁償します」といってきた。なるほど、調合の邪魔をしてしまったと思ったのかも。
「気にしないで。別に失敗ではないし」
私は戸棚から薬紙を取り出して広げると、小瓶に残った砂粒を落とす。落とされた砂粒は少ないけれど、光り方は十分。
砂粒を落とさないように丁寧に折り込んで、薬袋にする。
また別の引き出しを開けて、青いインクと使い込んだ羽ペンを取り出すと、薬袋に、『春の稲妻』と直接書き込んだ。出したものをしまって、作った薬袋は、そのままカウンターに置く。これは『夜空』系のオマケにしよう。
「よしっと。さっき、何か言いかけてなかった?」
私は目線をソルに戻した。
銀色に輝いていたソルの瞳は、もとの青色に戻っていたけど、その瞳には、先ほどより、力があった。
「できますよね」
ソルは私を見ていった。続けて、
「ババニの弟子のあなたなら、いいえ、エレナなら、『地の断片』が、作れるはずです」
と、きっぱりといった。
「えっ、無理」
私は反射的に答えた。
「それ、ババニの話でしょう。私には関係ないもの」
何を言っているのと、言わんばかりに。




