表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら九戸政実だった件 〜北の鬼、現代知識で天下に喧嘩売ってみた〜  作者: 一戸 二郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/55

第41話:言葉の刃が突き刺さる街

京の町に突如として現れた「狂歌の看板」は、ただの落書きでは済まなかった。 


それは秀吉に対する絶対的な権威の剥奪であり、民衆が抱いていた「太閤殿下への畏怖」が「冷めた観察」へと切り替わった瞬間でもあった。


街中の酒場、呉服屋、そして諸大名の屋敷の門前。どこへ行っても、人々は例の狂歌を口ずさんでいた。


「北の果て、猿は追われて……か。上手い言い回しだな」


道端で商人が笑う。

隣の老婆がそれを制するように声を潜めた。


「コレ!不吉なことを言うでない。だが、あの方が出陣してから、京の空気は明らかに変わった。もう、誰が何をやっても止まらぬ気がするのだよ」


この現象は、もはや武将たちの耳を塞ぐことはできなかった。


狂歌の噂は、検閲をかいくぐり、謹慎中の三成たちの耳にも、野心に燃える諸大名の耳にも、毒のように染み渡った。


福島正則は、部下の武士が口ずさんでいたこの歌を聞くやいなや、激昂してその男を打ち据えた。


「黙れ! 貴様、殿下を猿と呼ぶか! それが忠義ある者の口から出ることか!」


殴られた部下は口元から血を流しながらも、どこか諦めきった虚無的な目で笑った。


「……大殿。天下人という殿下の仮面は、もう町中では通用いたしませぬ。誰もが知っているのです。殿下が自ら『地獄』へ向かい、そこで何者かになるために……あるいは何者かから逃げるために去ったことを」


その言葉は、正則の心臓に冷たい杭を打ち込んだ。


部下の言う通り、京の町には「殿下を敬う」というかつての規律が、魔法が解けたように消えていたのだ。


一方、徳川屋敷では、家康の家臣たちがこの噂をどう処理するか議論していた。


「殿、民衆がこの歌を謡うことで、殿の威信が逆に高まっております。これは豊臣家への不敬を扇動していると見なされる恐れが……」


家康は手元の扇子をパチンと閉じた。


その眼差しは、静かな水面のようだった。 


「騒ぐことはない。言葉は風と同じだ。無理に追い払おうとすれば、より大きく吹き荒れる。秀吉様が北で何を成そうと、民はただ、その『結果』を待っているだけだ。彼らにとって、我らは駒に過ぎぬ。どちらの駒が勝つのか、それを賭け事のように楽しんでおるのだよ」


かつての英雄は、今や町中の「噂の種」となり、徳川という「新しい選択肢」を際立たせるための引き立て役となってしまった。


京の夕闇の中で、人々は相変わらず狂歌を囁き合っている。 

それは、一つの時代が終わりを告げる時の、隠しようのない音色だった。 



豊臣秀吉という巨星が北の果てで沈もうとしている今、京という名の巨大な劇場は、すでに次の主役を求めてざわめき始めていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ