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第4話:雪上の機動力

兵糧の試作に成功して数週間。


九戸の民たちの間には、かつてない活気が生まれていた。


俺が考案した保存食――名を『九戸兵糧丸』と名付けたその代物は、驚くべき速さで領内に広まりつつあった。


「政実様、山越えの道に『荷車』を導入する案ですが……やはり勾配が急すぎて、馬でも厳しいかと」


実平が溜息混じりに報告を上げる。


北国の冬は容赦がない。


物流が滞れば、いくら兵糧があっても城は孤立する。


史実の九戸政実が追い詰められた要因の一つも、この地形による機動力の低下だ。


「馬車じゃダメだ。地面を掴む『爪』が必要なんだよ」


俺は地面に棒で図面を描き始めた。


車輪ではなく、現代の雪国で使われる「ソリ」の応用。


しかし、単なるソリではない。


荷物を載せたまま、少ない力で雪上を滑り、かつ悪路でも横転しないための構造。


「……ソリを、二つ連結させるのですか?」


「そうだ。前方のソリが舵を取り、後方のソリで重荷を支える。これなら急な山道でも重心が安定する。おまけに、車輪を作る手間も省けるし、雪が増えれば増えるほど効率が上がる」


この時代、雪は「活動を止める障害物」でしかなかった。


だが、現代知識を持つ俺にとっては、雪は「摩擦を減らしてくれる天然の滑走路」に他ならない。


「実平、大工たちを集めろ。まずは試作品を作る。それと、山道をよく知る猟師たちを呼んでくれ」


「はっ、すぐさま」


実平が駆けていく。俺は空を見上げた。


着々と準備は整いつつある。


しかし、俺の動向は当然、周囲の勢力にも知れ渡るはずだ。


特に、南部本家や、奥州の動向を伺う豊臣の密偵たちが、この異様な活気をどう解釈するか。


(目立ちすぎれば叩かれる。だが、動かなければ滅びる)



その時、城門の番兵が慌ただしく駆け込んできた。



「政実様! 城下にて、南部家よりの使者が到着いたしました! どうやら……九戸の近況についての『詰問』のようです!」


ついに来たか。


俺は作業中の図面を裏返し、不敵に笑って立ち上がった。


戦はまだ早い。だが、言葉の戦いならいくらでも相手をしてやろうじゃないか。


「通せ。……さて、どう料理してやろうか」



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