表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
2/17

第2話:寒村の知恵袋

「さて、と」


目の前に広がる景色を見下ろしながら、俺は小さく呟いた。


視界に入ってくるのは、荒涼とした大地と、それに負けじとばかりにそびえ立つ険しい山々。


ここが九戸の地、俺がこれから生き抜いていかなければならない場所だ。


歴史の教科書で読んだ名前――九戸政実。 


豊臣秀吉の天下統一の仕上げ、「九戸政実の乱」で滅ぼされる運命にある男。


史実通りにいけば、あと数年で俺の首は物理的に飛ぶことになる。


「……笑えない冗談だな」


俺は冷たい風に吹かれながら、短く吐き捨てた。


だが、絶望している暇はない。現代日本の記憶を持つ俺には、少なくとも「何が起きるか」を知っているというアドバンテージがある。 


しかも、この体には武人としての筋力と、この地の人間特有の過酷な環境への耐性が宿っているようだ。


まずやるべきは、地盤の固め直しだ。


九戸の地は冬が長く、農耕には不向きで常に食料不足に悩まされている。 


兵を養うにも、まずは民を養う食料が必要だ。


「政実様!」


背後から声をかけてきたのは、従者の実平だった。 


俺の動向を心配そうに見つめている。


「……民たちの様子はどうだ? 今年の冬越しの備えは」 


「正直に申し上げますれば、厳しい状況にございます。例年通りの収穫では、春を待たずして餓死者が出かねません」


やはりそうか。

俺は実平を振り返り、ニヤリと不敵に笑った。


「実平、心配はいらねえ。俺に考えがある」


俺は記憶の引き出しを漁る。


現代の農業技術、土壌改良、保存食の加工法――この時代の技術体系を少しだけ飛び越えた知識を、武力に頼らず、まずは内政から叩き込む。


「まずは、あの谷筋にある湿地を改良する。それと、今から山で採れる山菜と木の実を使った、長期保存が可能な『保存食』の試作を始めるぞ」


「……山菜でございますか? それで腹を満たせるとは……」


実平が怪訝な顔をするのも無理はない。


だが、俺が考えているのはただの山菜料理ではない。 


現代の知恵を用いた、この北国の冬を生き抜くための「戦略物資」だ。


俺は九戸政実として、まずはこの凍てつく大地から支配を始める。  


天下に喧嘩を売るのは、それからだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ