表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/41

第12話:北の鬼、その名の実体

雪煙が晴れ、視界が少しだけ戻った時、そこにあったのは惨状だった。


氷の斜面で転倒し、身動きが取れなくなった南部軍の兵たちが、九戸の兵たちの冷徹な突きの一撃に沈んでいく。戦いというよりは、蹂躙だった。


「ひ、退けぇ! 撤退だ! これは化け物の仕業だ!」


生き残った兵たちが、武器を投げ捨てて逃げ惑う。


俺は馬の背からその様子を静かに眺めていた。


討ち取った人数はわずか数十。だが、これで南部軍の士気は完全に砕かれた。


「政実様、深追いはなさいますか?」


実平が息を切らして駆け寄ってくる。


俺は首を横に振った。


「必要ない。……これで南部信直には『九戸は容易に落とせぬ』と伝わったはずだ。同時に、俺がただの反逆者ではなく、戦術を操る『魔物』であるという噂もな」


俺は空を見上げる。雪は小降りになっていたが、空は相変わらず鉛色だ。


この勝利は、あくまで一時的なものに過ぎない。


この噂が、やがて太閤・豊臣秀吉の耳にも届く。


その時、秀吉が送ってくるのは、南部家の手勢ではなく、天下を平らげてきた豊臣の本隊だ。


「政実様、生き残りの者から聞き出しました。奴ら、我々が『鉄の武器』を使っていると本気で信じ込んでいるようです。我々の兵糧丸の袋を、何かの呪符かと……」


実平が苦笑混じりに報告する。


俺は思わず吹き出した。


中世の人間にとって、合理的な行動すら「怪異」に見えるということか。


「なら、その『鬼』の称号をありがたくいただいておこうか。南部家が俺を討つためにさらなる大軍を送ってくるなら、それこそ『北の鬼』の恐ろしさを骨の髄まで教えてやる」


俺は城へ引き返すよう号令を下した。


足元には、降り積もった雪が靴音を吸収して消えていく。


勝利の昂揚感はなかった。


ただ、やるべきことが明確になったという静かな闘志だけが、胸の内で燃えている。


「実平、城に戻ったらすぐに第二の防衛線を構築する。次は、ただの罠じゃない……敵の心を折るための『仕掛け』を作るぞ」


九戸政実は、この極寒の地で、天下という名の巨大な暴力に対して、決して屈しない要塞を築き上げる。


その準備は、まだ始まったばかりだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ