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第10話:雪中の咆哮

三戸城へと続く街道に、九戸の狼煙が真っ直ぐに立ち昇った。


それは、南部家に対する明確な絶縁の宣言であり、この地を「俺たちの力で守り抜く」という決意の象徴でもあった。


「実平、各砦の兵には伝えたか? これより九戸領内に踏み込む者は、いかなる理由があろうと『敵』とみなす」


「はっ。政実様のご意向、全軍に徹底いたしました。領民たちも……彼らはもう、三戸からの命令など信じておりません。自分たちの食い扶持と明日を支えてくれているのが誰なのか、骨の髄まで理解しております」


実平が頼もしい顔で頷く。


かつては重苦しかった城内の空気は、今は不思議なほど澄んでいた。


死を恐れる怯えではなく、生きるための「覚悟」が、兵たちの間に満ちている。


その時、城門の監視兵が駆け込んできた。


「政実様! 南部家よりの使者……ではなく、前衛の小部隊が国境の橋を渡ろうとしています! その数、およそ三百。我々の動向を牽制しつつ、圧力をかけるつもりのようです!」


「三百か。少なからず、多からず。南部信直も、いきなり全軍をぶつけるほどの馬鹿ではないということか」


俺は椅子から立ち上がり、愛刀を腰に差した。


窓の外では、また一段と吹雪が強くなっている。


この天候の中、鎧を着込んでの行軍など自殺行為に等しい。


だが、俺たちの兵糧丸で栄養を蓄え、徹底した寒冷地対策を施した俺たちの軍勢にとって、この雪は「最高の防壁」だ。


「よし、出陣だ。ただし、全面戦争はまだ早い。まずは『北の寒さ』がどのようなものか、彼らに叩き込んでやろう」


俺は兵たちを従え、城門をくぐった。


吹き荒れる雪の中、九戸の旗印が揺らめく。


「政実様、もし……同族殺しを躊躇うようなことがあれば」


「躊躇いはしない。俺が守りたいのは『血の繋がり』じゃない。ここに生きる人々の『未来』だ。……行こう、実平。ここから先は、教科書に載っている歴史じゃない。俺たちが書き換える、新しい戦記の始まりだ」


雪原の彼方に、南部家の軍勢の影が見えた。


彼らはまだ、この北の地で本当の「恐怖」を味わっていない。


俺は口元を歪め、深く息を吐いた。白い呼気が、冷たい大気に溶けていく。


天下なんて興味ない。


ただ、邪魔者は誰であろうと蹴散らす。


それが、転生した九戸政実の、冷徹な生存戦略だ。



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