メイドさん
ヴァルドさんの分のアップルパイを受け取り、ノーマン館長とルシアン先生とお別れした。
ヴァルドさんにコーヒーを用意したくて、部屋でコーヒーを淹れてから、アップルパイをトレイに乗せて執務室へと向かう。
廊下にはぼくの足音がぱたぱたと響いていた。
ふふ。なんだかメイドさんみたいだ。
カッコいいかな。そう思ったのも束の間。
ぼくの両手にはアップルパイとコーヒーの置かれたトレイ。
バランスが不安定で、扉をノックすることが出来ない。これじゃメイドさん失格だ。
「どうしよう……」
床に置きたくないし、大きい声で呼んで通信中だったら大変だ。トレイを持ったまま、どうしようかとうろうろしていると、突然執務室のドアが開いた。
「あ……」
「アシェ」
ヴァルドさんだ。
困ったように笑いながら手招きをしてくれた。
執務室のドアが閉められる。
「ど、どうして分かったの?」
「ドアの外の気配を感じて、アシェだろうかと思ってな。願望も入っていたがな」
「願望……?あ、ヴァルドさん。
料理長がアップルパイを作ってくれたんだ。
焼き立てなんだよ。コーヒーも用意しました」
「用意してくれたのか。ありがとう。
ちょうど区切りがいいところだ。
休憩する」
ヴァルドさんはペンを置いて、椅子から立ち上がった。ぐいっと身体を伸ばしている。
「こちらに置いておきます。
……メイドさん、みたい?」
来賓用の2人掛けソファーの前にあるテーブルにトレイを置く。ぺこりとお辞儀をしてメイドさんの真似事をしてみる。
「そのメイドさんは、ご主人より先におやつを食べたようだな?」
「わっ」
2人掛けソファーに腰を下ろしたヴァルドさんに、腕を引かれて胸元に引き寄せられる。
「頬に食べかすがついてる。
立派なメイドさんにはまだ遠いな」
「あ、うう……」
ヴァルドさんはにこりと笑って頬に手を触れていた。カッコよくなりたかったのに、失敗しちゃった。ぼわりと顔が熱くなる。
「……持って来てくれてありがとうな。
アシェも何か飲むといい」
「ぼ、ぼくはヴァルドさんにアップルパイを渡しに来ただけの、メイドさんなので……」
「そうか。次は一緒に食べような」
「はい……」
ヴァルドさんに見つめられて、なんだか恥ずかしい。ぼくはただ小さく返事をすることしかできなかった。
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「アップルパイ、美味い。限定メニューなのはなんだか勿体無いな」
ヴァルドさんはすごく美味しかったのか、ぱくりと一気にアップルパイを食べてしまった。
「また食べたいね」
ヴァルドさんはコーヒーを口に含んでこちらをちらりと見る。
「アシェ、コーヒー淹れられるようになったんだな」
ヴァルドさんは嬉しそうにぼくに声をかけた。
「ルシアン先生がたくさん飲むから、淹れ方教えてもらったんだ」
「……ほう」
ヴァルドさんは動きをぴたりと止めて、ソファーで足を組む。どうしたんだろう。
ぼくは隣りに座るヴァルドさんを見上げる。
「随分仲良しになったんだな。ルシアンと」
「え?ルシアン先生眠気覚ましにコーヒー飲むんだって。ヴァルドさんもいっぱい飲むから、作れるようになったら、ヴァルドさんが喜ぶかなぁって……」
「そうか。……コーヒー美味いよ。
また淹れてくれるか」
ヴァルドさんは少し悩むような顔をしていたけど、すぐに微笑んでくれた。
「うん!また持ってくるね」
良かった。上手に淹れられて。
コーヒーの匂いがふわりと漂う。
ぼくはまだ苦くてコーヒーが飲めないけど、いつかヴァルドさんと一緒に飲めるようになりたいなって思った。
アシェが可愛すぎる件




