りんご
「ヴァルドさん!みんな!」
騎士団庁舎につくと、鐘の音を聞いて集まったのか、アシェやルシアン、待機していた騎士たちが集まってきていた。
オレを見つけ、ぱたぱたとやってくるアシェ。
頭を撫でたいが1日戦闘していて、服も身体も汚れている。風呂の後にするか。
待機していた騎士に馬を引き渡し、アシェの元へ向かう。
するとアシェは気にせず、オレに飛びついてきていた。思わず口元がほころんでしまう。
「アシェ。汚れるぞ」
「おかえりなさい。みんな無事で、良かった!」
アシェはオレの顔を見上げて微笑んでいた。
「アシェくん。ただいまっすー!
お土産があるっすよ」
荷台に積まれたりんごをリオットは運んでいた。すっかり忘れていたな。
「リオットさん!おかえりなさい。
わあ。りんごだあ」
「1人では危ないだろう」
「大丈夫だよ」
オレの側を離れて、リオットからりんごを受け取るアシェ。両手でりんごの入った籠を持ち、身体が見えなくなりそうだな。
しかしにこり、と笑っている姿が見える。
「かなりの量だ。食堂の料理長に渡して、何か使えないか聞いてみるか」
「うん」
「そうっすね!」
アシェと共に食堂へ向かおうとしたが、彼はくるりと振り返る。
「ぼく、りんご運ぶよ!
ヴァルドさんはいっぱい休んでね」
それだけ言い残すとアシェは食堂へと向かっていった。もう少し戯れたかったが……。
「……」
「なんか寂しそうっすね。ヴァルドさん」
「そんなことはない」
「お疲れ様~。怪我人はない?
特に連絡来てなかったけど」
のんびりと声をかけてきたのはルシアンだ。
「あぁ。大きな怪我人は出なかった。
そちらは問題なかったか?」
「うん。警備も見回りも問題なく終わっていたよ」
「軽い怪我なら自分たちでも治せるんっすけどね。治癒魔法使い1人はやっぱ、同時に依頼が入るとキツいっすね」
今回同じ日程に警備の依頼と日々の見回り。
そして魔物討伐の依頼が入った。
今回の魔物は危険性の少ないものだとわかっていたことと、人数が多い方にルシアンを置いた方がいいと判断して、残ってもらった。
「いずれ増やすべきだとは思うがな……」
「ただでさえ治癒魔法使いは少ないですからね。それにルシアンさんと、うまくやれる人ってなると相当限られるっすよね」
「僕は第一騎士団にいた頃よりはマシだから、1人でも構わないんだけどね」
当の本人は呑気なものだ。
……ともかく風呂に入りたい。
事務仕事も残っているが、自身の汚れを落とすのが先だろう。
__
「あの。料理長さん」
今の時間、食堂は開いてない。
料理の仕込みをしている、料理長に声をかける。
以前何か仕事がないか探している時に、お皿洗いを手伝ったことがある。
そのお礼にと言って、試作品のデザートをもらっちゃったんだ。
大きい手のひらで、美味しい食事をたくさん作ってくれる、すごい人なんだ。
「アシェくん。どうしたんだい?」
「ヴァルドさんたちが、りんごをもらったみたいです。何か使ってもらえますか?」
籠に入ったたくさんのりんごを料理長に見せる。
「1人で持ってきたのかい?どれどれ。
これは、討伐依頼を受けたところからもらってきたりんごか!なるほど良い品質だねえ」
料理長は籠を受け取り、まじまじとりんごを眺める。料理長がりんごを持つと、なんだかりんごが小さく見えるや。
「全部使って良いのかい?」
「ヴァルドさんが、使って欲しいって……」
「よしきた!限定デザートにアップルパイを作ろうか」
「アップルパイ……!」
ショーケースで見たことがあるものだ。
こんがりしてて美味しそうだったな。
「今日中に作るから楽しみにしてくれよ!」
料理長はパチンとウインクをしてくれた。
大量のりんごは料理長に引き取られて、中にいた調理スタッフに渡された。
「はい。あの、皮剥き手伝います」
皮剥きはたくさんやってた。
だからりんごの皮剥きだって、ぼくもできるんだ。それに今日はもう、何にもお仕事がないから。
「ありがとう。でも大丈夫だ。
調理スタッフがいるからな!
アシェくんは――ヴァルドさんのところに行ってやりな。ここでアシェくんを拘束するわけにはいかねえよ」
料理長は、ははっと大きく笑って、嬉しそうに手を振った。
ぼくは手を振りかえして、言われた通りヴァルドさんのところに向かうことにした。
ヴァルドさんとたくさんお話がしたいな。
本当はずっとそう思ってたんだって気付いた。
危ないから走っちゃダメなんだけど、ぼくは駆け足で、ヴァルドさんの――ぼくの部屋へと向かっていた。




