救い
「依頼された魔物の気配は消滅しました!」
「そのようだな」
「お疲れ様っす~」
魔力レーダーを確認し、剣を鞘に納めて一息つく。夜通し魔物討伐でさすがの自分も疲労困憊だ。ヴァルドさんは――冷静な表情だ。
疲れていないのだろうか。
「今日の魔物も、数が多かったっすね」
「こんなものだろう」
ヴァルドさんは遠くを見つめた。
その横顔はアシェくんのことを想っているような表情だった。早く会いたいんだろうな。
「依頼主に報告に向かう。
帰還準備を進めていてくれ」
「わかりました!」
ヴァルドさんは、依頼主である村長が待つ小屋へと向かった。
あとは討伐完了の報告書を国に提出すれば、報奨金が受け取れる。
危険な仕事ではあるが、頑張る甲斐があるものだ。
__
「――魔力レーダーで確認してもらった通り、魔物討伐は完了しました。それと森に張り巡らされた魔石に魔力を補給しておきました。
今後は定期的に補給を依頼するようにしてください」
「ありがとうございました」
「一晩中討伐してくれたのに、こちらから何もお礼をしないなんて申し訳ねえ。ちょっと待っててくれ」
依頼主である若い村長が、討伐終了したのを確認すると、どこかへと行ってしまった。
小屋に彼の妻と2人きりになる。
そんなことより早く帰宅したいのだが。
「あの……ありがとうございます。ヴァルド様」
「いいえ」
依頼されたから仕事をこなしただけだ。
窓の外に顔を向ける。
「一晩、戦っている姿をずっと見ておりました……。また、いらっしゃってくれませんか……?魔物が来なくとも……」
彼の妻は突然、オレの手を握った。
思わず手を振り払い、一歩後ろへ下がる。
この目は、あの時と同じ――
「ヴァルド騎士団長さん!これ、持って行ってください!うちの村で育てているりんご!甘くて美味しいですよ!」
「ありがとうございます」
彼の妻はこちらをじっと見ながら微笑んでいた。……なんとも嫌な気分だ。
過去の記憶が呼び起こされる。
オレが小さい頃――アシェよりも幼かった頃だ。
世話係の女性に、よくわからないままに触れられたことがある。
何か決定的なことがあったわけではない。
しかし、あの時の世話係の息遣い、肌を触られた感触は未だに脳裏に焼き付いている。
あの時から、女性と関わりたいと思わなくなった。あの目を向けられると、あの時のことを思い出し、いまだに気分が悪くなる。
だからひたすら魔物討伐に励み、気づけば騎士団長という立場にいた。
これからも同じように生きていくのだと思っていた――アシェと出会うまでは。
「……では、失礼します」
「村の者に伝えておきます!助かりました!」
籠に詰め込まれた大量のりんごを受け取る。
アシェがきっと喜ぶだろう。
アシェの反応を予想し、思わず微笑みそうになる。小屋を出て、帰還準備を進める騎士団員に声をかける。
「撤収するぞ!」
「すごい量のりんごっすね!この村が育てているりんご、かなり美味しいらしいですね!アシェくんが喜んでくれそうっす!」
「……そうだな」
「ヴァルドさん?何かありました?」
「大丈夫だ。帰還するぞ」
リオットがりんごを受け取り、荷台に乗せる。
オレたちは馬を操り、森を後にした。
そういえばアシェは馬に乗ったことがあるだろうか。そんなことを考える。
アシェはオレを慕ってくれているが、オレ自身、アシェの存在に救われている。
彼が側に居ることが心地良くて、既に当たり前になっている。
――きっと、気付いてはいないだろうな。
____
「健診終わり。お疲れ様」
「ありがとうございます。ルシアン先生。
掃除、しますか?
ぼく今日は勉強終わりです。
だからお掃除できます!」
「うーん」
ルシアン先生は悩んでいる。
医務室はまたごちゃりと書類が山積みだ。
掃除は、ぼくが出来ることの一つだ。
「まだこのくらいなら大丈夫だろう。
君は好きなことをしていな。
遊んでいて構わないんだよ」
書類の山を眺めながら、ルシアン先生はそうぼくに言った。
「……わかりました」
遊ぶ。何をしよう。
またヴァルドさんとぼくの部屋の掃除でもしようかな。でも今朝もお掃除したから、あまりするところがないかもしれないや。
ヴァルドさんが少し遠くの討伐の依頼を受けて、丸2日経過した。
今までずっと1人だったはずなのに、ヴァルドさんがいないだけでなんだか寂しい。
恥ずかしいけどぬいぐるみを抱きしめて眠っていた。早く帰って来ないかな。
「ヴァルドくんが帰って来なくて寂しい?」
「えっ?」
図星を突かれてどきりとする。
でもこくりと頷く。
「ヴァルドくんもだと思うよ」
「そう……かなぁ?」
ヴァルドさんはみんなに慕われていて、カッコよくて、尊敬される騎士様だ。
そんなヴァルドさんがぼくがいなくて寂しいなんて、思うのかな。分からないや。
すると騎士団庁舎に鐘の音が鳴り響く。
討伐に行った第三騎士団の人たちが帰ってきた音だ。
「大きな怪我人の報告は受けてないけど、迎えに行こうか」
「うん!」
本当は走ったら危ないけど、ぱたぱたと玄関へと向かう。ぼくは胸が高鳴るのを感じていた。




