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ヴァルドさんのさがしもの






「アシェ」


「んー?」


医務室の扉を開けるとけだるそうに、書類から顔を上げるルシアンがいた。

今日、アシェは健康診断だったはずだが……。


「アシェの健康診断はもう終わったのか?」


「あぁ。今日はいつもより早く終わったんだよね。本を持っていたから、図書館に向かったんじゃないかな」


「そうか」


図書館か。身体をひるがえして扉から出ようとする。

が、ぴたりと動きを止める。


「ルシアン。少しは片付けろよ。

この書類の山じゃ、診察も何も出来ないだろう」


「わ、わかっているよ。アシェくんにも言われたよ。今度彼に手伝ってもらおうかな」


「全く。アシェは頼めばやってくれるだろうが、少しは自分でも片付けろよ」


「わかってるってば~」


山積みの書類の上に突っ伏すルシアン。

よく書類が机からこぼれ落ちないものだ。


アシェに手伝ってもらうのも構わないが……少しだけだ。


治癒魔法の腕は抜群だが、掃除が出来ないのはルシアンの欠点だ。


小言はこの辺にしておいて、アシェを探しに行くか。


「あ、ヴァルドくん。図書館に行くならこの本返してもらえる?アシェくんに頼めば良かったよ」


「……いざという時は、きっちり働いてもらうからな」


「ええ~」と悲鳴が聞こえたが、本を受け取り医務室を後にする。アシェを探すついでにだ。


___



「お預かりします。返却期限、今回は間に合ったようで良かったです」


図書館に到着して、ルシアンの借りていた魔導書を返す。

図書館司書のエレナに本の処理をしてもらう。


今回は、ということは度々返却期限を過ぎていたのか……。


「今度伝えておく」


「ありがとうございます。

でも最近はアシェくんが伝えてくれるんですよ」


そうだったのか。アシェはいろんなところで頑張っているんだな。

しかし図書館を見回すが、肝心のアシェが見当たらない。


「アシェは来てないのか?」


「今日は図書館で本を返して、すぐ出ていっちゃったんです。いつもはちょっとお話ししたり、本を読んでいったりしてくれるんですけど」


「今日は勉強会もないから寂しいのう」


事務所から声を掛けてきたのはノーマン館長だ。まるで孫のように、アシェのことを可愛がっているようだ。


「どこに行ったか分かるか?」


「ええと……」


「以前、食堂に新しいデザートが入ったって話をしたんじゃ。食堂に向かったのかもしれんなあ」


昼食を終えてまだ時間はそれほど経っていないが、その可能性はある。アシェはたまにデザートとコーヒーを持って、執務室にやってくるからな。


「ありがとう」


礼を言って図書館を後にする。

食堂に行ってみるか。

その途中で会うかもしれないからな。


___



「ヴァルドさんお疲れ様っす!」


食堂の扉を開けると目に入ったのは、リオットだった。街の警備を終えて、遅い昼食といったところだろうか。テーブルには空になった皿が広がっていた。


「ヴァルドさんも昼食っすか?」


「いや。アシェを探している。見てないか?」


「アシェくんならさっき――」




リオットの話によると、ザナックに呼ばれて彼の作業小屋に向かったとのことだった。

何か用事があるのだろうか。


ザナックの小屋の前へと向かう。

彼は常に武器や防具を作っていて、小屋の前からでも作業音がするのだが、今日は珍しく静かだ。ノックをしようとすると、話し声が聞こえた。


「わっ。それ、やだよ……」


「アシェくんはまだまだだなあ」


「うぅ……っ」


「……」


アシェとザナックの声だ。

何をしているのだろうか。

少し悩みながらもノックし、扉を開ける。


「アシェは居るか」


「おぉ、ヴァルドさん!お疲れ様です!

いいところに」


「ヴァルドさん!あのね、ザナックさんすごく強いんだ」


2人は机を囲って座っていた。

見ると机の上には白い石と黒い石が並べられ、盤面はほぼ白で埋められていた。


「リバーシか」


「余った材料で作ってみたんですよ。

アシェくん見たことも遊んだこともないと言ってたもんですから」


「全然勝てないよ。ザナックさん、強い」


アシェは頬を膨らませる。

リバーシは昔遊んだことはある程度だ。


「あ、ヴァルドさん、何か用事?

何かお手伝いしますか?」


「あぁ。……後でいい」


アシェに書類整理をしてもらうことを口実に、顔がみたかったなどと言う必要はないだろう。

アシェは頭上に疑問符を浮かべていた。


「ザナック、すまなかったな」


「何がですか?ヴァルドさんもお忙しくなければやりませんか?」


「ヴァルドさん、座って!」


アシェはもう負けとみたのか、石を片付け始めていた。石の置く場所は残り数箇所。

ここから挽回はどう考えても不可能だろう。


「確かルールは自身の持ち石で挟んで、陣地を増やしていけばいいんだったよな」


「そんな感じです!……まずは、俺とやります?」


「あぁ。やってみよう」


アシェの空けてくれた席に腰を下ろす。

アシェは小さな木の椅子に座って、楽しそうに様子を窺っていた。


「じゃあいきますよ。先攻後攻どちらにします?」


「先攻」


「ヴァルドさんは黒ですね!手加減しませんよ!」


「あぁ」


___



「……」


「ヴァルドさんもアシェくんも、弱いですね!?俺が強すぎるのか?」


結果は、惨敗だった。

先ほどのアシェの時と変わらず、盤面は白で染められていた。


「ヴァルドさん、特訓しよ!ザナックさんを一緒に倒そう」


アシェはオレの腕を掴みながらも、なぜか目を輝かせていた。


「……そうだな」


「ヴァルドさん、ボードゲーム弱いんですね。

魔物には鬼のように強いのに、そんな弱点が!」


ジロリと睨むと、ザナックは静かに顔を逸らす。


「これアシェくんにやるよ。俺1人じゃやらないからな。元々アシェくんにと思って作った物だ」


「いいの?」


ザナックはそそくさと石を片付け、アシェにボードを渡した。


「ザナックさん。ありがとう。

ヴァルドさんと特訓するから、また一緒に遊ぼう?」


「勿論だとも!」


「ヴァルドさん、頑張ろうね!」


「そうだな」


負けっぱなしはごめんだ。

アシェと特訓するか。


それから夜はアシェとリバーシの特訓が続いた。

アシェの提案で、ザナックの許可を得て食堂に置いて誰かとやろうということになり、密かに騎士団庁舎ではリバーシが流行るようになった。


オレとアシェがどの程度上達したかは、想像に任せることにする。


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