お土産
「わあ!おかえりっす!アシェくん!
ヴァルドさん!」
「ただいま……!リオットさん」
アシェと共に医務室に向かうと、なぜか出迎えたのはリオットだった。
ルシアンは軽く手を振っている。
アシェは2人を探していたそうだ。
「君たちが居なくて、彼がうるさくてね。
引き取ってもらえるかい?」
「それは大変だったな」
「ひどいっすルシアンさん、ヴァルドさん!
世間話をしてただけじゃないっすか!それより、聞きましたよ。魔物が出たって。無事で良かったっす!心配したっすよ!」
「うん。でもねヴァルドさんが助けてくれたんだ。かっこよかった」
「さすがヴァルドさん。
でも無茶しないで下さいっすよ。
第ニ騎士団に任せておけば……って言いたいっすけど、魔物はかなりの量だったんすよね?」
「あぁ。被害を抑えるには、すぐにオレが出るしかなかった」
2人とも無事で良かったっすけど!とリオットは唸っている。
するとアシェはリオットとルシアンの顔をきょろきょろと見回す。
「あ、あのね。リオットさん、ルシアンさん。これ、楽しかったから、えっと」
アシェはポシェットから紙袋を取り出す。
透明な瓶に入った飴玉をリオットとルシアンに1つずつ渡した。
「ええ!いいんっすか!?」
リオットさんはカラフルな包み紙を眺めて大袈裟に喜んでいた。
「アシェくんからお土産なんて、自分泣きそうっす!ありがとうアシェくん」
「えへへ」
「別にいいのに。……ありがとね」
「ううん」
ルシアンは飴玉を受け取り、アシェの方をチラリと見ていた。
今回の買物がアシェの楽しかった思い出になったのなら、なによりだ。
____
「アシェくん……決して口には出すまいと思ってたんっすけど、お土産を買ってきてくれるなんて……!なんて健気なんですか!」
「口に出てるよ」
アシェくんとヴァルドくんは、とっくに医務室から出て行った。どうやら別の人にもお土産を渡したいようだ。
ついでにこの騒がしい彼も、連れて行って欲しかったけれど。
「ヴァルドさんがすっかり可愛がってますね。
この第三騎士団の癒しの塊じゃないっすか?アシェくんは」
「知らないよ」
「またまた。ルシアンさんも内心嬉しいっすよね?」
「……はあ。うるさいなあ」
僕は手に取った飴を、そっとポケットにしまった。
____
騎士団庁舎の端っこにある、作業小屋。
ヴァルドさんに以前案内してもらった場所だ。
今日はぼくが先頭だ。ヴァルドさんが後ろについてきてくれている。
作業小屋から大きい音がしている。
ノックをしても聞こえているか、わからないや。
「ザナックさん、いますか?」
扉を開けてみる。
「ん?アシェくんにヴァルドさん!
どうしました?」
ザナックさんはふうと汗を拭き、どかりと大きな椅子に腰を下ろした。
何か作ってたみたい。
邪魔しちゃったかな。
ザナックさんの作業小屋には武器の素材がたくさん置いてあり、加工する道具みたいなのもある。
「アシェが用事があるそうだ」
「あ、あのね……」
ザナックさんに、商業都市メルセバに行き、買ってきた飴玉を渡した。お腹いっぱいにはならないかもしれないけど、渡したかったんだ。
「おおっアシェくん……!ありがとう!
そうだ俺からも渡したいものがあってな」
「えっ」
ザナックさんは近くに置いてあった小さな木の箱を手渡した。蓋を開けるように促されたので開けてみる。
「パズルだ……!」
中には木で出来たパズルのピースが入っていた。魔法で絵柄が印字されていた。
「試しに作ってみてな。
上手くいったからアシェくんにやるよ」
パズルなんて初めてだ。
レオン義兄さんはたくさん買ってもらってて、飽きて遊ばなくなっていたけど、ぼくには一度も渡してくれなかったもの。
「あ、ありがとう……!」
「良かったな。アシェ。……」
ふとヴァルドさんの胸元の紋章に埋め込まれた魔石が光っているのが見えた。あれは魔石通信だと教えてもらった。
「すまん。連絡だ。執務室に行く」
「はい。一緒に来てくれて、ありがとう。
ヴァルドさん」
ヴァルドさんは少し微笑むと執務室へと向かった。ヴァルドさんは本当はとても忙しい。
でもぼくと一緒に居てくれる。
早く恩返しできるように、なりたいな。
____
「メルセバのキャンディー!
おまじないのものね!ありがとう!
アシェくん」
「ううん」
図書室にぼくは1人で向かって、エレナさんとノーマン館長にお土産の飴玉を渡した。ぼくの元にはキラキラの空っぽの瓶だけが残った。何に使おうかな。
「無事、買い物ができたようじゃな」
「はい。ちょっとだけ、買えました。
あとね、ヴァルドさんがこのポシェット……くれたんだ。とってもかっこいいんだよ」
肩から掛けていたポシェットをノーマン館長に見せる。
「似合っておるのう。
やはりヴァルドくんは、アシェくんに色々渡したくて仕方ないようじゃのう」
「とっても素敵よ。アシェくん!」
「えへへ」
ぼくは騎士団でこんなに優しくされて、今までにないくらい、とっても幸せなんだ。そんなにたくさんもらっても、ぼくは何にも返せないんだ。
でも、ヴァルドさんはもう要らないよ。って言うと悲しそうな顔をするんだ。
だからぼくは、全部ずっとずっと大事に使うって決めたんだ。
ヴァルドさんがくれた藍色の万年筆を取り出す。ぼくは騎士団庁舎ではこれをよく持ち歩いてる。大切な宝物だ。
「今日の勉強は確か午後からだったのう。
それまで好きに過ごしていておくれ」
「はい」
ノーマン館長は事務所に戻り、エレナさんは他の図書館を利用する人の案内をしていた。
図書室の端っこで、ノートを広げる。
文字の練習をしてから、ぼくは日記を書いている。
日記には、商業都市メルセバのこと。
シリルという友達が出来たこと。
グラッツさんのこと。
魔物が来たこと。
ユージンさんのこと。
そして――ヴァルドさんがかっこよかったこと。
へたっぴな字だけど、日記は書けた。
この日記帳を楽しいことでたくさん、埋めていけたらいいな。
「アシェ」
図書館の扉が開く。ヴァルドさんだ。
お話が終わって、探しにきてくれたのかな。
日記帳を閉じてぼくは、ヴァルドさんの元へと向かった。
3章終わり。アシェ頑張ったね。




