帰路
魔物騒動も落ち着きを取り戻してきたようだ。
街の安全が確認されて教会に隠れていた住人達は、徐々に解放されていた。
「アシェ。約束通り、買い物の続きを……」
「うん……。いっぱい、みる……」
アシェの眼はとろんとしている。
思わず抱き抱えると、ゆっくり目を閉じて寝息を立てていた。
あんなことがあったんだ。
疲れるに決まっている。
1人で怖かっただろう。
「アシェ。すまなかった。
またゆっくり来ような」
アシェに本を買ったり、アイスやクレープを食べさせたりしたかったが、またの機会にするか。またいつだって、来られる。
「アシェくん寝ちゃったんですね。
また来て下さい。良い物仕入れておきます!」
「あぁ」
露店の店主グラッツは深くお辞儀していた。
帰りの馬車を呼ぶとするか。小さく軽い身体を強く抱きしめ、オレは帰路へと向かった。
____
頭の中がなんだかずっと、ゆらゆらと揺れていた。記憶がぼやっとしている。
もしかして、今までの全部全部、夢?
そんなの嫌だ。身体を起き上がらせようとする。ちょっとだけ身体が重い。
でもぽかぽか温かい。
目が覚めると、ここは――ヴァルドさんの部屋。ふかふかのベッドの上だ。
「ヴァルドさん?」
「……ん、アシェ。起きたのか。
オレもいつの間にか眠っていたな」
重いと思っていたのはヴァルドさんの腕だったみたい。ぼくはいつの間にか、ヴァルドさんの腕の中に居た。ぎゅって抱きしめられている。
なんでだろう。
ふと枕元を見ると、ぼくのポシェットとぬいぐるみが置かれていた。
夢じゃなかったんだって、ぬいぐるみたちを見て安心した。
「身体の傷を確認していたんだが平気そうだな。……アシェの身体が温かくてな、こちらまで眠ってしまった」
「そっかあ」
いっぱい魔物討伐してきっと疲れているんだ。
ヴァルドさんの腕を両手で握る。
抱きしめられるの、嬉しいな。
温かくて気持ちまでぽかぽかするんだ。
「……ずっとこうしていたいものだな」
ヴァルドさんがすごく小さな声で呟いた。
「ぼくも」
「あんまりそう言うことを言うな。
起きれなくなるだろう……」
ヴァルドさんはゆっくりと身体を起き上がらせる。ヴァルドさんが言ったのに。変なの。
ぼくも一緒に起き上がって、ぬいぐるみの方をチラリとみる。
綿の飛び出てしまったぬいぐるみは後で直そう。大切な物だ。
お裁縫は得意だ。よく穴の空いた服やカバンを縫っていたもの。
「帰りの馬車ではぐっすり寝ていたな」
「馬車からの景色、見れなかった」
いつのまにかぼくは眠っていたから、帰りの馬車の景色を見ることが出来なかった。それだけがちょっと残念。
「またいつでも行ける。
その時は起きていたらいい」
「うん。……ぼく、今日すごく、楽しかった。
夢じゃなくて良かった。ぼくのこと、探してくれてありがとう」
「当たり前だろう」
「ぼくね、思ったんだ。――ヴァルドさんを支えられるようになりたいなって」
「……気持ちは嬉しいが、アシェにはまだ難しいだろうな」
「ええ?わ、あ……っ!」
ヴァルドさんはゆらり、とぼくの方へやってきて再び抱きしめられてしまう。
ヴァルドさんの身体を支えきれず、ぼくはベッドにまた転がってしまった。
そういうことじゃないよ。
力では敵わないもの。
少しだけ睨みつけると、ヴァルドさんはぼくを見下ろして、くすりと笑っていた。
「……そうだ。あのね、これ」
ベッドから身体を捩って、ヴァルドさんの包囲網から抜け出す。
枕元に置かれたポシェットを手に取り、中から紙袋を取り出す。
あの時購入した物。キラキラした飴玉が入った瓶だ。
これには幸せになれるおまじないが入ってるって書いてあった。だからヴァルドさんや、みんなに渡したいって思ったんだ。
「幸せになれるおまじないの飴玉なんだって。ヴァルドさんに」
ヴァルドさんの大きな手のひらに、キラキラの包み紙に包まれた飴玉を一粒乗せる。
ヴァルドさんは飴玉を見つめてから、ぼくの方を見た。頭に手を回されたと思うと、胸元に引き寄せられる。
「わ」
ヴァルドさんは最近ぎゅってするのが、お気に入りみたい。
「ありがとうアシェ。
……愛おしいやつだな。本当に」
ヴァルドさんに背中を撫でられる。
いとおし……?
ぼくはヴァルドさんのことを見上げる。
「――これから、支えてくれよ。オレのこと」
「うん」
ヴァルドさんが――幸せになりますように。
ぼくはメルセバのキャンディーに、心の中でこっそり願い事を唱えてみたのだった。




