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飴玉







「もう、疲れた。お腹空いた。喉が渇いた」


「もうちょっと、頑張ろ?」


ぐいぐいと手を引っ張るのは、ぬいぐるみを持った子供っぽい少年、アシェ。

俺と同じ10歳らしい。


「ちょっと休憩」


「す、座るの?」


日陰に腰を下ろす。


魔物に出会うのも怖い。

でもたくさん走って疲れたんだ。


アシェはキョロキョロと周りを見ながらも、俺の隣りに腰を下ろした。


アシェは背が小さいと言われる俺よりも小柄だ。男なのに髪は結構長いし、よく見たらまつ毛も長い。女みたいにうさぎのぬいぐるみなんか持ってるし。変なの。


はあ。と小さくため息をつく。

こんなことなら街に来なきゃ良かった。


俺の名前はシリル・アルベール。

アルベール財閥の跡取り息子だ。

この上着の紋章を見ればわかると思ったのに、俺のことを知らないなんて……!

世間知らずな奴だ。


今日の勉強が面倒で、嫌になって街に逃げ出した。執事のやつ、今頃血眼になって探しているかもしれないな。

度々逃げてるから、もうどこにいるのかは大体分かっているだろうけど。


でもこんなことになるなんて、思わなかった。

魔物に襲われそうになるなんて。


「お腹空いた……」


こんなにひもじい思いをすることなんて、初めてだ。いつだって、執事やメイドが俺の世話をしてくれるんだ。

お腹が空いたと言えば、お菓子やデザートをたくさん持ってきてくれる。

好みの物がなければ、新しい物を探して持って来てくれる。


隣りに座っていたアシェはポシェットをガサゴソと探っている。紙袋を取り出して、その中には透明な小さな瓶が入っていた。


「……本当はね。ヴァルドさん達に渡したかったんだけど、はい。1つあげる」


透明な瓶から飴玉を1つ取り出して、俺に渡した。


「飴なんて……」


飴玉なんて、腹の足しにもならない。

もっとお腹いっぱい食べたい。

ステーキとか、ケーキとか。


でも誰も俺を、助けてくれなかった。

助けてくれた奴は、この頼りない、俺と同じ歳の子供、アシェだけだ。


「キラキラで綺麗だったから、初めてぼくのお金で買ったんだ」


「初めてって……俺と同じ歳なのに、お小遣いもらってなかったのか?」


「うん。初めて。頑張って働いたからって言って、渡してくれたんだ」


「……ふうん」


お小遣いなんて、毎月何もしなくても貰えるけどな。お菓子もおもちゃもなんでも買える。

足りなくなっても、言えばみんな買ってくれる。こんな飴玉くらい100個くらい買える。


でもなんとなく、そう言うのはやめておいた。


「ありがと」


「ううん」


アシェはにこりと笑った。

飴玉を食べようと思ったけど、アシェのことが少し気になり、ポケットにしまった。


「ヴァルドって?」


「ぼくの、憧れの人」


話を良く聞くと、アシェはあの騎士団長ヴァルド・ノイシュタットと一緒に住んでいるらしい。兄弟でも家族でもない。

養子というのはよくあることだ。

それに近いのかも知れない。


アシェはヴァルドに引き取られる前の家のことは、言葉を濁していた。泣きそうな顔をしていたから、深く聞くのはやめておいた。

こんなところで、泣かれても困るからな。


でも何か、俺には想像つかないような、酷いことがあったのかもしれないな、と思った。


「シリルのことは、教えてくれるの?」


「……そのうちな」


「そっか。もう歩ける?」


「……馬鹿にすんな」


立ち上がる。

飴玉はポケットに大事にしまったままだ。お腹は空いたけど、食べるのがなぜだか勿体無いと思った。アシェと目が合い、その瞳を見つめる。


「アシェお前の魔力……俺と同じで使い切ったのか?」


「え?あ……」


俺は魔物から逃げる時に、魔力を使い切ってしまった。でも魔力は基本的には食事によって回復する。


しかし、アシェも魔力を使い切っていたのに、俺を助けるなんてな。


アシェは俯き、なぜだか少し悩んでから小さく、うんと頷いた。


「行くぞ。魔力空っぽ同士、頑張るか」


手を差し出して、アシェも一緒に立ち上がらせる。


「うん。……ごめんね」


アシェはなぜか小さく謝っていた。

同じ空っぽ同士なんだから、気にすることないのに。


もう一度教会に向かって、俺たちは2人で歩き出した。

道は長いけど、少しだけ心が軽くなった気がした。





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